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やまんばぎりくにひろ

2023/10/27、京都駅直結「京都劇場」にて。

余裕を持って家を出たはずがバスが遅れ、開演前に食べるはずだった弁当を椅子の下に隠して私は席についた。

今のうちに言い訳として書いておくと、私はDMMの刀ステ一挙無料配信を観ようとしたが、途中で通信制限がきてしまいほとんど未履修である。ただ、その無料配信時に先輩審神者たちがまとめてくれた関係図などで大体の雰囲気を掴んでいる。

ぶっちゃけ、えげつなかった。私ははじまりの一振りが歌仙兼定で近侍が小夜左文字なのだが、作中の様々な信長に山姥切国広ォ!と連呼され洗脳状態にあるため、とりあえず山姥切国広を大事に(お守りも持たせて!)育成しようと思う。

私が思うに、この公演でのテーマは「創作賛歌」なのではないかと思う。私が一次創作者であるから都合の良いように解釈しているのかもしれないが、そのときは許してほしい。が、それほどに、私は自分の在り方を肯定された気がした。

刀剣乱舞というゲームは、時間遡行軍と呼ばれる「歴史を変えようともくろむ勢力」と刀剣男士らの「歴史をその姿のまま保護しようとする勢力」との終わりなき戦いを描いた物語である。

公演は、ゲームをやったことがある人間にはピンとくる、「極」への修行先からの手紙を書くシーンから始まった。


ここよりネタバレ注意


ゲームにおいては、3通の手紙ののちに刀剣男士は本丸に帰還するはずである、が、この舞台ではそうはならなかった。

強くなるために、三日月宗近を救い出すために、修行の旅を続けることになる。

正直言って、この公演のストーリーに至るまでの道筋を詳しくは知らないので山姥切国広さんが三日月宗近さんになぜそこまでこだわるのかピンときていないところがあったのだが……。

劇の最中、声色や背丈の異なる、様々な信長が歴史について「思いを馳せる」よう山姥切国広に促す。山姥切国広は日本刀の歴史を辿るように、古墳時代のスサノオ、飛鳥時代の聖徳太子、平安時代の小鍛冶宗近、鎌倉時代の北条政子、室町時代の畠山義就(この人知らんかった)、戦国時代の明智光秀、江戸時代の石出帯刀(この人も知らんかった)、幕末から明治にかけての別府晋介(この人も以下略)に憑依されるようにしてそれぞれの時代の人間に「思いを馳せて」いく。

個人的にはバーサーカー畠山が一番好きです。

ところどころ挟まれる微笑ましいやりとりと、なぜか平安時代にオネェキャラになるノッブ(織田信長)と、黒子さんが小突かれて嫌がる茶番にウフフとなりながら進むに……、

どうやら、この時空の「歴史を守る」とは、様々な「解釈を守る」ということであるらしいと知る。

信長は自分の最期をもちまえの想像力(洞察力とでも言える)で知っており、それでもなお死に至るまでの自分の人生を生き、自分に対する後世の人々の様々な解釈を許容する、と断言した。

対する時間遡行軍のボス、朧の織田信長なる者は、様々な時間軸の信長を統合し、一つの人格とすることに執着しているらしい。

まるで我々妄想が生きがいのオタク審神者の在り方を見透かしたような物言いではないか。なんか悔しい。

歴史に様々な解釈があることと、歴史を守ることとは矛盾しているとも言える。様々な解釈があるがゆえに、人々は己の思う「歴史」のたまに解釈を利用して、ときに他人を平気で傷つけるのだ。むしろ、様々な時間軸(=様々な解釈)の存在を許容することは、歴史修正主義者と相性の良い考えであろう。

しかし、このステージの上では、解釈の多様性を守ろうとする側が、刀剣男士の陣営でもあった。

様々な声色、様々な背丈、時に人外でさえあった織田信長は、様々な時間軸(我々の思考上の様々な解釈を暗喩か?)の異なる人格の織田信長であるはずである。しかし、彼らは同じように山姥切国広を激励し、時に挑発し、山姥切国広の強くなるための修行に手を貸した。翻って、統合された織田信長はどうか。彼はまさしく「時間遡行軍のボスキャラ」の見てくれでしかなく、ある種剪定され個性をなくした街路樹のようではなかったか。

歴史は歴史である以上、その瞬間瞬間に生きてはいなかった私たちは「思いを馳せる」しかない。完全に「知る」ことなどできない。であるならば、異なる時間軸の異なる人格にもかかわらず、若かりし頃の野生味あふれる信長という点で一致していた、統一されていない信長こそ、信長としてのあるべき姿である。

私はこの、舞台を見て感じたことから推察した事柄から、「いろんな解釈があってええんやで!」というメッセージを(空耳かもしれないが)受け取ったのである。

続きは書くかもしれないし書かないかもしれない。

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