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#080 「ホモ・サピエンスの涙」

しばらく映画館から足が遠のいていて、思い立って久しぶりに映画の予告編を漁っていたら、あー絶対観たいやつだ。と思ってしまった。ので、久しぶりにスクリーンで映画を観た。
少ないお客さんがロビーで点々と離れて入場を待ち、誰も、喋らず、静かに映画を見て、エンドロールの最後までじっとして、明かりが付くとそっと席を立ち、散り散りに帰って行った。奇遇にも、そういう映画だった。

とにかく設計の緻密な作品で、色彩設計と、セットと画面構成、カメラアングルはフィックス。とにかく作家から作品を直接手渡された様な感覚になった。物語ではなくて、美術展から何かを感じ取る瞬間と似ている。器みたいだったな。

あらゆる悲劇も、喜びも、小さくて僅かな点に過ぎないということが、とてもフラットに、淡々と33のシーンで見せられる。
だから大したことないっていう話でも、一つ一つを大事にしよう。とかとも違って、良い/悪いに分類出来ない、滑稽さとか寂しさとか、気まずさ、朗らかさみたいな、はっきりと色を決められない様な、気持ちの中の緩やかなグレーのグラデーションの部分を丁寧に描き分けた、色彩見本。

人生はなんとなく始まって、点々と色々な人に出会って、それぞれが何かを感じて、そっと別れて帰って行くものよね。