峠鬼

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鶴淵けんじ著

「少女は運命を乗り越え、神々と対峙する――。古代倭国ファンタジー、開幕!
遥か昔の倭の国の、神代と人世のその間。神々が人間と共存していた時代。
村を司る神・切風孫命神への生贄に選ばれた少女・妙(みよ)は、避けられぬ死に怯えていた。
しかし、神と相対し対話する異能を持つ道士・小角(おづの)との出会いが、彼女を窮地から救い出す……!

みなしごの少女と、壮麗の道士、そして鬼の少年。時代や次元さえも超越した、神々を巡る旅が始まる!」(ComicWalkerあらすじ引用、書影はAmazonより)

古代日本の神々を巡るファンタジー漫画です。ぶっちゃけ超おもしろい。今回はネタバレはできるだけしたくないので内容よりも神様とか神話のお話です。

最近はソシャゲにいろんな神様が登場しまくっているおかげで神話などに興味を持つ人も増えているんじゃないでしょうか。かくいう自分もその一人。そういう人にはどんぴしゃりと刺さる漫画なんじゃないでしょうか。自分は大学の授業で古事記を読む機会があり、加えて神話の地島根に住んでいることもあってか日本神話が大好きなんですが、まさにこういうのを待ってたって感じの漫画です。

あらすじにも書いているように、神様と人々が共存していた時代のお話です。型月ワールド的には「神代の時代」とか言われるあたりのお話でしょうか。元々神話とかそういうのに興味を持ったきっかけがFateシリーズだったので、もうこういう世界観大好きなんですよね。ただ、型月だとギルガメッシュがいた頃が神代の終わり頃で、それだと紀元前2600年頃?になります(曖昧な記憶なので参考程度に)。対してこの峠鬼は、主人公の妙と旅を共にする役小角がいた時代と考えると650年頃のお話になります。作品が違うからそこらへんの世界観が違うのは当たり前なんですが、型月に慣れているとあれ?ってなるかもしれません。

いやでも、と書いている途中で思ったのですが、もしかしたらギルガメッシュが国を統べていたころには、神様が人々の前から姿を消してしまった、もしくは互いに信仰を必要としなくなってしまったのかもしれません。というか国を統べていた王様であるギルガメッシュが神様とケンカしちゃったので、そこで人間と神様の決別があったのかもしれないですね。

対して日本ではまだまだ神様は信仰され続け、メソポタミア文明より3000年後までも神様が人間に直接恵みを与えていたのでしょうか。実際他の大陸よりも文明や文化が遅れていたのは事実としてあるので、神様との決別が他の文明より遅かったとしても不思議ではないですよね。

こんなふうに、神話や神様をモチーフとした作品は、背景というかその元の神話を知っているとより楽しめるから好きなんですよね。神話について調べている時も楽しくて、知ってからもう一度読むとまたおもしろさがグッと増してより楽しい、みたいな…。

峠鬼の役小角についても、作中では一言主大神(ヒトコトヌシノカミ)という神様との関係を巡るお話になっていくのですが、これも調べていくと非常におもしろかったです。まあ詳しくはご自身で調べてほしいんですが、一番興味深かったのは、一言主が初めて登場した古事記においては天皇(雄略天皇)に恐れられる存在であるのに対して、その約100年後に書かれた日本霊異記においては役小角に使役される神として描かれるにまで格が落ちてしまっている点です。

どうもその背景には、一言主を祀っていた一族の地位が落ちてしまったことが原因の一つのようなのですが、やはりこういう書物は当時の政治的な背景を色濃く反映していることがよく見て取れておもしろいですね。古事記を読んだことがある方ならわかると思うのですが、古事記においてはじめ葦原中国(あしはらのなかつくに。神話における現世のこと。神様がいる天上界みたいなのは高天原、逆に地獄みたいなのが黄泉の国)を統治している神様は大国主(オオクニヌシ)なんですが、それが突然高天原を治めていた天照大神(アマテラス)が「葦原中国はうちの子どもが治めるべきでしてよ」となんの脈絡もなしにいきなり言い放ちます。そのあとなんやかんやあって結局アマテラスの孫にあたるニニギノミコトが葦原中国を治めることになり、そのまま子孫である天皇が日の本を治めていく…という流れになっています。

いや、アマテラスさん急過ぎません?でも確かに、そうしなければ辻褄が合わないんですよ。古事記が編纂された時代は、既に天皇が国を統治し、その祖先は天照大神であるということは常識であったはずです。であるならば、古事記においてもアマテラスの子孫の神様が日本を治める形にならなければおかしい、となってしまいます。多分そこで矛盾が生じてしまうと、あれよあれよと国家転覆を狙う輩がたくさんいたんでしょう。そこはきちんと辻褄を合わせなければ国家を揺るがす大問題です。

なので、アマテラスの子孫が葦原中国を治める、という流れに持っていかなければマズい、というのはわかるんですが、いくらなんでも無理やりすぎないか?(笑)と初めて古事記を読んだときは思ってしまいました。いわゆる政治的介入というか、検閲というやつですかね。

長くなりましたが、そういった背景を見て取れたりするので(特に日本神話は)おもしろいです。しかしこれが他の神話となるとどうなんでしょう。宗教や信仰と神話が密接に結びついているのはあんまりないんじゃないでしょうか?自分が知る限りだと、イエスもブッダも神話とはあまり関係ないのでは?イスラム系は全然知らないのでわからないですが…。

といった具合に、神話や神様となると話がどんどん広がってしまいますが、興味を持った方はぜひ調べてみてください。FGOやってる人とか型月好きな人なら絶対おもしろいと思います。

そして、色々と調べたあとにもう一度この峠鬼やFateなどを読んだりしてみてください。

「あっ、これってあのエピソードがモチーフだったのか!」

という発見があってすごく楽しいはずです。

この峠鬼も、多分めっっっっちゃくちゃに色んなことを調べまくって描かれていると思います。恐らく登場する神様一人一人の姿や性格にモチーフとなるエピソードが存在しており、知っている人ならば納得できるというか、とても首を立てにうなずきながら読むことになるんじゃないかと思います。

現在4巻まで出ているので、是非全部買って読んでみてはいかがでしょうか。特に神話とか好きな人におすすめです。

最後に注釈ですが、ここで書いたお話は正確な情報ではない(記憶が曖昧だったりきちんとソースを読み込んで裏付けていない)ものがほとんどなので、あんまり鵜呑みにしないでください。「ほんとかぁ?」と疑って、ぜひご自身で調べてみてください。

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