マガジンのカバー画像

長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本程度更新します。お芝居に関心のあるかたに… もっと読む
すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめ… もっと詳しく
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

記事一覧

【追悼】巨星、唐十郎さんのとろけるような笑顔。

 演劇界の巨星が墜ちた。  私の演劇観は、唐十郎によって作られた。私は状況劇場の遅れてきた観客だけれども、七一年の『吸血姫』をかわきりに、『あれからのジョン・シルバー』『夜叉奇想』『二都物語』『唐版・滝の白糸』『腰巻おぼろ』『糸姫』と進んで見ていった。 水上音楽堂の思い出。  上野の不忍池畔には、旧・水上音楽堂が建っていた。  テントは、池に接した場所に建てられた。私が観たのは極寒の夜で、劇団員がいきなりざぶりざぶりと池に飛び込んでいった場面に圧倒された。当時は、歌舞伎の大

+4

ベランダで、ばらを育てています。季節ですので、何枚かお目にかけます。

この記事はマガジンを購入した人だけが読めます

ロンドン演劇雑感、その7。ホーヴェ演出の『オープニングナイト』が、予定より二ヶ月早く打ち切りに追い込まれた。

書くべきかどうか、ためらっているうちに、十日余りが過ぎてしまった。  四月十四日付のBBCニュースは、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の『オープニングナイト』が、予定より二ヶ月早く打ち切りになると伝えている。七月二十七日に終了する予定だったが、最終公演は五月十八日となった。

有料
300

【劇評335】ミージカルの最前線。三浦透子の深く、悲しい演技と歌唱。人間の心の闇を描いて、見逃せない『VIOLET』。

 傷痕は、誰のこころにも刻まれている。  藤田俊太郎演出の『VIOLET』(ジニーン。テソーリ音楽 ブライアン・クロウリー脚本・歌詞 ドリス・ベイツ原作 芝田未希翻訳・訳詞)は、二○一九年、ロンドンのオフ・ウェストエンドで初演された。二二年二は日本でも初演されたけれど、コロナ禍のために、ごく短期間の公演にとどまった。  今回、満を持して再演されるにあたって、主役のヴァイオレットは、三浦透子と屋比久知奈のふたりで、ダブルキャストを組んだ。  この作品は、一九六十年代、人種差

有料
300

【劇評334】東のボルゾイの『ガタピシ』は、きしむ音をたてている私たちの心をえぐり出す。

 アルベール・カミュは、こんなことを書き残している。 「私にとって演劇はまさに文学的ジャンルの最高峰であり、いかなる場合も最も普遍的なものだからです。私は作者や役者に「客席にいるただ一人の馬鹿者のために書いてくれ、演じてくれ」といつも言っている演出家と知り合いになり彼を好きになりました」 (カミュ、東浦広樹訳『私はなぜ芝居をするのか』)  日本独自の価値観に基づいたミュージカルを創り出す。この積年の夢に劇団『東のボルゾイ』は、果敢にも取り組んできた。  これまで観てきた作

有料
300

【劇評333】普遍的な物語に、歪みを与える。『母 La Mère』の魔術的な時空。

 人類には、時代を超えて繰り返される物語がある。  母親の息子に対する恋着、子供の成長によって孤独な老いを迎える恐怖、冷え切った夫婦関係につきまとう疑惑などが、この『母 La Mère』(フロリアン・ゼレール作、齋藤敦子訳 ラディスラス・ショラー演出)には、詰め込まれている。いずれも、時代や国境を越えた普遍的な物語である。  ただ、普遍的だということは、画一的な舞台に回収される怖れがある。この物語の中で、母アンヌ(若村麻由美)、息子ニコラ(岡本圭人)、息子の恋人エロディ(

有料
300

ロンドン演劇雑感、その6。ホーヴェ演出の『オープニングナイト』。リアルタイムのカメラ映像は、俳優の演技を破壊する。

 ロンドンに行ったもっとも大きな理由は、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の『オープニングナイト』を観るためだった。もっとも、見終えた感想は、首をかしげたくなるものだった。  理由はいくつかある。  第一に、二題のハンディカメラが撮影するリアルタイムの映像が、ほぼ休むことなく舞台全体を覆うスクリーンに投影されている。現在のビディオカメラとプロジェクターの性能は圧倒的で、舞台上にいる生身の映像よりも、大きくしかも鮮明に見える。  演劇は、観客が今、何を観るかを選択できるメディアで

有料
300

【劇評332】仁左衛門、玉三郎が、いぶし銀の藝を見せる『於染久松色読販』。

 コロナ期の歌舞伎座を支えたのは、仁左衛門、玉三郎、猿之助だったと私は考えている。猿之助がしばらくの間、歌舞伎を留守にして、いまなお仁左衛門、玉三郎が懸命に舞台を勤めている。その事実に胸を打たれる。  四月歌舞伎座夜の部は、四世南北の『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』で幕を開ける。土手のお六、鬼門の喜兵衛と、ふたりの役名が本名題を飾る。  今回は序幕の柳島妙見の場が出た。この場は発端であるが、単なる筋売りではない。千次郎の番頭の善六と橘太郎の久作京妙の茶

有料
300

ロンドン観劇雑感、その5。ロンドンでは、マチネとソワレのスケジュールが守られていた。

 マチネとソワレ、どちらで観るのが好きですか。  私は圧倒的にソワレです。歌舞伎をのぞけば、お芝居は夜見るものという思い込みがあります。夜の闇を突いて劇場に向かい、2時間から3時間の特別な時を過ごして、また、夜の闇に吸い込まれていく。そんな観劇になじんで、長年過ごしていきました。  ところが、東京の演劇界は、この五年で大きく様変わりしました。  それ以前も老舗新劇の劇団は、圧倒的にマチネが多く、ソワレが少なかった。それが、他の公演にも及んでいます。一部の劇場では、マチネよ

有料
300

ロンドン観劇雑感、その4。あなたはスマホに入っている電子チケットで、お芝居をみたいですか?

 すべてがスマートフォンに格納されている。  ロンドンで観た四本のチケットは、日本にいるときにインターネットで手配した。チケットマスターのようなエイジェントではなく、できるだけ劇場直接のサイトから買うようにした。  席の指定をして、クレジットカードナンバーを入力する。決済が終わると、俊治にバーコード付きの電子チケットがメールで送られてくる。PDFとして来る場合もあれば、iPhoneのWalletに入る形式の場合もあり、それぞれ二対二だった。  このチケット購入の過程で、

有料
300

ロンドン観劇雑感、その3。あなたは、3万4千円払って、ミュージカルを観たいと思いますか?

 二週間の滞在で、観た芝居が芝居四本というのは、もちろん少ないと思う。けれども、ロンドンもニューヨークもチケット代が高騰しており、とても毎日劇場に行けるような値段ではなかった。  ちなみに、ミュージカル『Cabaret』の4月1日の値段を観てみると、60、84、120、144、180ポンドの五種類がある。現在の為替レートは、1ポンド190円強だから、もっともよい席で観ると、3万4千2百円。もっとも安い60ポンドの席でも、11400円。  この価格を高いと思うか、妥当だと思

有料
300

ロンドン観劇雑感、その2。あなたは、幕間にアルコールを飲みますか?

 ロンドンの観劇でもっとも印象的だったのは、飲酒をともなう社交として、劇場が生きていることだった。  おおよその劇場には、バーがあり、観客は早めについて、まず一杯やっている。今回、驚いたのは、メールでプレオーダーをしませんかという勧誘が必ずくるところだった。バーで行列を作らなくても大丈夫。シャンパンでもワインでも、グラス売りだけではなく、ボトルであなたの客席にお届けしますという内容だった。  極端な例は、ミュージカルの『キャバレー』で、劇場の普通の玄関を使わず、楽屋口から

有料
300

ロンドン観劇雑感、その1。マイクを使った演出に、あなたは抵抗がありますか?

 ロンドンでは四本の芝居を観た。そのうち二本『キャバレー』と『オープニング・ナイト』はミュージカルなので、マイクをつかうのは特別なことではない。けれど、ヤエル・ファーバー演出の『リア王』、トーマス・オスターマイヤー演出の『民衆の敵』の両方で、マイクを使っていたのには驚いた。  もちろん、俳優の声量をおぎなうためではない。『リア王』では、三人の娘がリアへの愛情をアピールする場面で、演説会のように、スタンドマイクが林立していた。『民衆の敵』では、冒頭の場面、ホームパーティで登場

有料
300

このつぶやきはマガジンを購入した人だけが読めます