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認知症患者が安心して暮らせる共生社会とは –当事者視点・新薬レカネマブ・国の施策と企業に求めらるもの–


認知症患者を取り巻く環境整備やその施策が次々と打ち出されています。

  • 2023年9月に、アルツハイマー病の治療に向けた新薬レカネマブの製造販売が承認

  • 2023年1月から共生社会の実現を推進するための認知症基本法が施行

  • 岸田文雄首相が「身寄りのない認知症の高齢者らが安心して暮らせる社会づくりに向けたガイドラインを2023年度中につくる」と表明

  • 首相が「認知症バリアフリーの取り組みを進めるには企業などを含めた地域という面で取り組むことが必要だ」と述べ、この方針を保健医療福祉の分野だけでなく小売りや金融などにも広めるため、認知症患者への対応をまとめた手引を作成

これらの施策はまさに認知症患者が安心して暮らせる環境=共生社会を目指すものですが、それは一体どのようなものなのでしょうか。

増え続ける認知症患者

2017年版の高齢者社会白書に、認知症患者は2025年には65歳以上の5人に1人、2040年には65歳以上の半数になるという推計があります。
※糖尿病有病率の上昇に伴い、認知症有病率が上昇すると仮定した場合
この推計は、日本の急速な高齢化に伴い、認知症患者数が増加することを示しています。これにより、今後の医療や介護の需要が高まることが予想され対策や準備が必要となります。社会全体としては、地域包括ケアシステムの構築が叫ばれて久しいですが、当事者本人の意向を踏まえることがより重要になってくると思われます。また、新薬レカネマブが当事者や社会に与える影響も見逃せません。

当事者視点の対策と準備

大阪大学の池田学教授は、

軽度の身体機能や認知機能の低下ならば、的確な人的サービスや簡単なテクノロジーの支援を受けることで、当事者の希望に沿ってそれまでの生活を維持できる可能性も十分にある。

2023年11月2日付日本経済新聞デジタル版

と指摘し、次のような説明を加えています。

  • 当事者やその家族は、認知症に備えて早い段階からサービスやテクノロジーに慣れることが重要。特に、認知症の人にとって慣れない最新の家電は使いづらくなる。

  • 認知症の初期では、特に火の元の管理、薬の管理、自動車の運転などに注意が必要。安全な調理環境、例えば自動消火機能付きのコンロなどの設置は有効だが、利用者が事前に慣れる必要がある。

  • 薬の管理に関しては、誤って飲み過ぎるリスクがあり、服薬管理の機器の普及が待たれる。大きな機器は高齢者の住空間を占拠し、受け入れられにくいため、小型化や利用者のライフスタイルに合わせた製品開発が求められてる。

このような技術とサービスの開発には、産学連携や利用者の意向を反映することが重要と言えるでしょう。

新薬レカネマブ

2023年9月に、アルツハイマー病の治療に向けた新薬レカネマブの製造販売が承認されました。前出の池田教授の説明を参考にしますと、レカネマブはアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβという異常タンパク質を取り除くことで、病気の進行を抑えるとされます。これまでの治療薬は症状を一時的に改善する対症療法でしたが、レカネマブは病気の進行を遅らせる効果が期待されています。

この薬についても、当事者の視点が大切です。治療の選択に際し、薬の利点や副作用、治療期間、費用などの情報が患者や家族に提供され、当事者の意思決定を支援する必要があります。当事者や介護者は、どのような治療を望んでいるかを明確に伝え、専門職と協力して治療計画を立てることが推奨されます。

企業との連携とレカネマブ

「認知症の人と家族の会」代表理事、鎌田松代氏は次のように述べています。

認知症の人をとりまく共生社会の実現には企業の理解も不可欠だ。認知症の人を支える家族が働き続けられることで、当事者も家族も、自分らしく生きることができる。現役世代が仕事と介護を両立できるようにする企業側の働きが、今後ますます重要になる。

2023年12月17日日本経済新聞デジタル版

認知症患者の家族が働き続けることができるという観点では、新薬レカネマブの役割も高まりそうです。認知症の進行を抑えられれば働きながら介護する家族の負担は軽減され、介護離職を抑えることが期待できます。

また、介護離職を抑えることに加え、当事者が認知症初期の段階から進行を抑えられることで、仕事をし続けられる可能性もあります。若年性アルツハイマー患者は特にそれが期待でき、当事者の希望や生きがい、社会参加の創出にもつながると言えます。「日本認知症本人ワーキンググループ」代表理事の藤田和子氏は次のように述べています。

企業は本人の希望を聞き、働き方を変えたり、休憩時間を増やしたり、試行錯誤しながら仕事を継続できる方法を考えてほしい。介護離職を防ぐ対応も大切だが、認知症になっても意欲と能力に応じて就業できれば本人も力を発揮し、社会の活力も上がると思う。

2023年12月17日日本経済新聞デジタル版

新薬レカネマブの薬価は年間300万円と高額で国費への影響も考慮する必要がありそうですが、池田教授によれば、日本のアルツハイマー型認知症の医療・介護に伴う年間コストは介護者の生産性低下も含めると7.4兆円、介護者の無償対応も含めた場合には12.6兆円にのぼるとの試算もあります。薬価は下がっていくことが予想されますし、これらのコストや介護離職による経済損失を考えれば普及のメリットは大きいと思われます。

まとめ

今後の日本社会が、認知症患者がより安心して暮らせる環境を目指していく中で、新薬レカネマブの登場や国の施策、企業との連携により、認知症患者とその家族が日常生活を送る上でのサポートが強化され、社会全体での認知症への理解と対応が進むことが期待できます。

これらの取り組みが、認知症患者の増加に伴う医療・介護負担の軽減にも寄与し、認知症患者が安心して暮らせる共生社会の実現に向けた大きな一歩となることを願いつつ、私たちも自分ごととして捉え行動することが大切だと改めて実感しています。

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