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『きく』創作日誌 Day 4:他人の話を「背負う」

どうも。長谷川優貴(@hase0616)です。クレオパトラというお笑いコンビでネタをしたり、エンニュイという劇団を主宰して脚本演出をしたりしています。


『きく』について

「きく」は元々、2019年5月に三鷹SCOOLで公演した演目です。去年は、それを再構築し、かながわ短編演劇アワードに参加。しかし、陽性者が出てしまい出場できず。

で、今年リベンジしようと思っていたのですが、まさかの応募締め切りのど忘れで応募さえできずに終わりました(笑)なにしてんねん!

でも、僕はきりかえがはやいので、だったら出場するはずだった期間のあたりで普通に会場を借りて公演してしまおうということに至ったわけです。

この作品は大切な作品です。そして今回、最高のメンバーがそろってくれました。台本も叩き直しています。初演とも、去年のコンクール用のやつとも違う新しい「きく」が出来上がります。

今エンニュイは良い流れの中にいると思います。この公演に全力をかけて挑みます。たくさんの方に観ていただきたいです。

どのように作っていくのか、「きく」とはなんなのかなど、公演まで毎日のように創作日誌的なものを書こうと思います。

話を背負う

他人の話を『きく』ということは「話を背負う」ということです。

『きく』の物語は、一人の男性の話から始まります。彼の母親が癌にかかったという悲しい出来事を聞き、その気持ちを語ります。ただ話を「きく」だけの演劇です。聴いたみなさんは、この話を背負うことになります。

「話を背負う」とは、話を聞いた時に、その話を聞き手自身が体験しているかのように、自分自身の想像力や経験を重ね合わせて感じることです。聴き手自身が話を聞き、想像することで、聴いている人がその話を「背負う」ことができます。

そのためには、想像力が必要とされます。言葉から連想して脱線したり、集中力が切れて別のことを考えたりすることもありますが、それが「きく」ことの本質的な部分でもあります。つまり、自己の経験と重ね合わせることで、より深い感情を共有し、共感することができるということです。

「きく」=語り継ぐこと

初演の時に、テーマをもっと掘り下げて創作する為に、アートプロジェクトに参加しました。

初演の「きく」のアフタートークゲストととしても参加してくださった、アーティストの瀬尾夏美さんのやっているアートプロジェクトでした。

僕が参加したのは、↓このプロジェクト。東京プロジェクトスタディ。

プロジェクトの進め方はこんな感じでした。
進め方

  • 関心を出し合って、問題系を探る

  • それぞれリサーチを行う

  • 集まって、徹底的に共有し、課題を洗い出す

  • チーム内の情報精度をあげ、オープンソース化を目指す

  • リサーチと共有を繰り返す

  • 情報を使い合い、企画や表現が立ち上がる

他者の話を身体に入れ、その話をしっかりと他の人に伝える、そして、議論をして咀嚼する。語り部の人が歩いた道を歩いてみたり、同じ体験をしたりすると聴いた話が立体的になり浮かび上がってくる。それは、きっと同じ体験をすることによって詳細に共感できるからでしょう。

瀬尾さんのこの本もよかったら読んでみてください。たくさんの人の語りが一人の人間の身体に入り、また新しい言葉として出てきている感覚です。

「きく」姿勢

共感とは、他人の気持ちを理解し、共有する能力を表す言葉です。他人の立場に立って、その人が感じていることを感じ取ることができる」とよく言われます。共感とは、単に相手の感情を理解するだけでなく、相手の感情を共有することで、共感しようとする積極的な姿勢のことです。

共感を表す方法のひとつが「傾聴」で、判断や中断をせずに純粋に注意を払うことです。そうすることで、相手の話に関心があることを示すことができます。そうすれば、誰かが苦しんでいるときや、人生で困難な時期を経験している時に助けになってあげることができると思うのです。

共感を表すもう一つの方法は、他の人の話の重荷を負うことです。相手の話を背負うということは、相手の経験を認め、理解することで、相手の苦痛を少しでも和らげたいという意思を示すことです。たとえ今、その人のためにできることは何もなくても、その人を一人の人間として大切に思っていることを示すことができるのです。

共感とは、感情的なレベルで他者を理解し関わることであり、同時に、他者を自分の知らない様々な経験を持つ個人として尊重することを意味します。

相手の重荷を背負う

僕たちは、ニュースやソーシャルメディア、あるいは自分の友人や家族からであっても、心痛や悲劇の話をよく耳にします。このような話は僕たちに深い影響を与えますが、他人の話の重荷を背負うことには、何か力強いものがあります。

相手の話を引き受けるということは、相手の痛みを自分のものとして引き受けるということです。相手が感じていることを自分も感じ、相手の経験が妥当であることを認めるのです。重荷を背負うことは、共感と理解を示すことであり、それが一番難しいですよね。

しかし、一歩引いて、なぜそのような経験を話してくれたのかを考えてみてください。すべてを解決しようとすることはできないかもしれません。でも、諦めたくないですよね。そう、諦めたくないんですよ。理解し合うということを。

ある程度、適当に「きく」

東京プロジェクトスタディで、「被災経験を聞くこと、伝えること」というテーマで、東京大空襲・戦災資料センターへお話を聞きにいくことがありました。ゲストは、早乙女勝元さん(作家/東京大空襲・戦災資料センター館長)山本唯人さん(社会学者/東京大空襲・戦災資料センター主任研究員)でした。

早乙女さんのお話がすごく興味深かったです。


1932(昭和7)年、東京生まれ。12歳で東京大空襲を経験。働きながら文学を志し、18歳で書いた「下町の故郷」が直木賞候補に推される。「ハモニカ工場」発表後は作家に専念、ルポルタージュ作品『東京大空襲』がベストセラーになる(日本ジャーナリスト会議奨励賞)。1970年、「東京空襲を記録する会」を結成し、『東京大空襲・戦災誌』が菊池寛賞を受賞した。1999(平成11)年に映画「軍隊をすてた国」を企画。2002年、江東区北砂に「東京大空襲・戦災資料センター」をオープン。庶民の生活と愛を書き続ける下町の作家として、また東京空襲の語り部として、未来を担う世代に平和を訴え続けている。著書は100冊を超えるが、主な作品に『早乙女勝元自選集』(全12巻)『生きることと学ぶこと』『戦争を語り継ぐ』などがある。

お話を聞く前に、著書の東京大空襲を読ませていただきました。様々な人の視点や感情で書かれているのに、自分の経験として書いてあって、不思議な感覚になる文章でした。

ご本人に、どうやって書いたのか質問してみると、「適当ですよ。記憶なんて曖昧なものなんだから」的なことをはにかみながら仰っていて、なにか凄くヒントになった気がしました。

人は、他人にはられないのだから、相手の感情を完璧にトレースできないわけです。だから、結局は真剣に聴いて相手に感情移入して、相手の話を背負ったとしても、それはある程度「適当」なものなんじゃないでしょうか。

背負い、伝える

背負うということは、伝える役割をもらったんだなと僕は思っています。僕達は一人の生物じゃありません。巨大なコミューンの中で一つの生物のように存在しているのではないでしょうか。だから、悲しみも辛さも、楽しさも、喜びも共感し合うのです。全ては自分のことだから。

唯一の家族である母親が亡くなった時に、自分の中に入ってきた感覚があったんです。その時、母のことを伝えていかないととも思いました。母と僕との話を小説で書くつもりでしたが、何度書こうとしてもしっくりこなくて、書けてません。でも、この公演で何か見つかりそうな気がしてます。なんとなく。

母親が亡くなって数日後にやった狂気のパフォーマンスです(笑)

このライブは、「背負う」こと「背負わせる」ことを体現しているともいます。

よかったら、観て「背負わされ」てくさい(笑)

今の流れで思い付いたのですが、怪談話もそうじゃないですか? 怖い話を背負わされて、背負わされた人はその話をまた別の人に話したくなる。これも、「きく」ことによって「背負わされる」ことですね。


エンニュイperformance『きく』に込められたのは、共感よりも大切なものがあるということや、他人への想像力の大切さです。

『きく』を観ることで、自分自身の経験や想像力を活かしながら、話を「背負う」体験をしてみませんか?

今これを読んで「背負わされた」ので、来るしかないですね(笑)


読んでいただきありがとうございました。
明日も、また『きく』についての創作日誌を書いていきます。

興味を少しでも持ったら、観に来てください。
きっと刺激的な体験が待っています。


今日のラジオでも「背負う」ことについて話してます。

エンニュイperformance
『きく』公演詳細



2023年3月24日ー26日
三鷹SCOOL
〒181-0013
東京都三鷹市下連雀 3-33-6
三京ユニオンビル 5F
三鷹駅南口・中央通り直進3分、右手にある茶色いビル5階
【脚本・演出】
長谷川優貴
【出演】
市川フー、zzzpeaker、高畑陸、二田絢乃
以上エンニュイ
浦田かもめ、オツハタ、小林駿
(50音順)
【タイムテーブル】
2023年
3月24日(金) 19:00
3月25日(土) 13:00/18:00
3月26日(日) 13:00/17:00
※受付開始・開場は開演の30分前
※上演時間約80分(予定)
【スタッフ】
ドラマトゥルク:青木省二(エンニュイ)
制作・演出助手:土肥遼馬(エンニュイ/東京軟弱野菜)・四木ひかり
映像:高畑陸
主催・制作:エンニュイ

【チケット】

<券種・料金>
劇場観劇チケット(当日精算・日時指定・全席自由)(予約・当日 別価格)
・一般 前売り¥3300 当日 ¥3500
・U-25(要年齢確認証提示) ¥2800
・エンニュイはじめて割 ¥3000
※「エンニュイはじめて割」エンニュイの公演を初めてご覧になるお客様は前売り価格より300円引きでご覧いただけます。
※「エンニュイはじめて割」は当日券でのご利用はできません。

予約ページ


【エンニュイとは?】



長谷川優貴(クレオパトラ)主宰の演劇組合/演劇をする為に集まれる場所 。
名付け親は又吉直樹(ピース) 「『アンニュイ』と『エンジョイ』を足した造語であり、 物憂げな状態も含めて楽しむようなニュアンス」
2022年11月に新メンバーを加えて、組合として再スタート

長谷川からのコメント



「文字通り、誰かの話を「きく」ことを主題とする作品です。他者が話していること、そのイメージを聞き手が完璧に共有することはできない
人間は、自己が体験したことから想像することしかできない。誰かの話を聞いている最中、私たちの思考は徐々にズレていく。言葉から連想して脱線したり、集中力が切れて別のことを考えたりするそんな、「きく」感覚をそのまま体験するような上演にしました。
僕は母親が未婚の母で母子家庭でした。親戚もいなくて唯一の家族だった母が数年前に他界しました。その時に作った作品です。亡くなったばかりの時に心配してくれた方々と話をした時にズレを感じて、話を聴く時は経験などによって想像や処理のされ方が違うのだと体感しました。別々である人間に共感を期待してはいけない。共感よりも大切なものがあるということと、他人への想像力の大切さを伝えたいです」

あらすじ

「母親が癌になった」
一人の男の語りから話は始まる。
最近、言葉が溢れていて聞き取れない感覚に陥る。
「きく」ことによってその話を「背負う」。
聞いた話の足りない情報を想像で埋める。
「きく」ことの大部分は想像。
そんな「きく」ことを体験できる公演。

2019年の初演のエンニュイ第3回本公演「きく」の感想ツイートまとめ

3月の公演へ行くか迷っている方へのご参考に!

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