見出し画像

勝ち気な野菜ジュースの四字熟語

野菜ジュースを買った。

昼食がインスタントの油そばで、ほとんど炭水化物と脂質のみというカロリーのお化けみたいなものだったから、つい手にとったのだった。コンビニの棚には何種類もの野菜ジュースが並んでいて、どれも「β-カロテンが多い」とか「ビタミンCがレモン何個分」とか、いろんなことを謳っている。

伊藤園の野菜ジュース「栄養強化型 野菜350g分使用 1日文の野菜」が目に留まった。

なにしろ栄養強化という言葉がいい。僕は「風味絶佳」みたいに、昭和初期から中期くらいの販促ポスターに描かれていそうな四字熟語に弱いのだ。その言い切りと字面のパワーにうっとりする。

昨今、いろんなことを、いろんな人が言ってくるのだろうから、伊藤園としても悩んだのでしょう。しかし、他商品とのちがいをしっかり表現したい。そこから生まれたのが「栄養強化」だったんじゃないかと思うと、開発者たちの苦労がしのばれる。

そして、強化されていないものと、強化されているものでは、値段もしっかり20円ほど変わってくる。そのあたりは商売人だ。いわんや流行りの“プレミアム路線”も押さえている。

カロリーお化けを退治して疲れている体に、栄養強化はさぞ良い感じがする。僕はその四字熟語と思い込みに20円を上乗せして払うことにした。

もっとも僕はパッケージに描かれた栄養素たちが、自分の体でどう働くのか、何が必要なのかを把握しているかと問われれば怪しいものだ。実は描かれているもろもろを訝しげに眺めるよりも前に知るべきことがたくさんある。でも、あんまりそうはしない。めんどくさいし、むずかしいし、サボってしまう。

だったらもう、栄養強化とか風味絶佳とか言われて、それを信じて「うん、こりゃあいい!」と納得するのも、まぁ、精神衛生は良いのではないかしらと思うのだ。だから、ほんとうは伊藤園をはじめ、もっと販売各社には煽ってほしいくらいの気持ちもどこかにある。

そんなことを思いながらジュースを口にしていると、側面にこんな文章が。

「野菜をしっかり食べる事が理想的ですが、不規則な食生活で野菜が不足しがちな方にお薦めします。」

トマトやにんじんの苦味を感じながら、小さく息をつく。栄養強化と言い切った態度はどこへいってしまったの。おずおずと告げてくる姿が頭に浮かぶ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?