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199キロカロリーの魔法

オリーブオイルで揚げたポテトチップスを買った。

深夜のコンビニは、魔法だ。あらゆるものがきらきら光って見えるし、あらゆるものが欲しくなる。「あって助かった!」と感じることも多ければ、「こんなところで出会わなければ」と憎たらしい気持ちになることもある。

たとえば、お酒をたっぷり飲んだ帰り道。脳からいろんな信号が出ていて、あれを食べろ、これを買えとひっきりなしに指示が来る。小腹も空いた、塩分も取りたい、むしろ何かを肴にしてもう一杯飲んじゃっても……そんな夜にローソンでめぐりあったのが、このポテトチップスだった。

ふつうのローソンより「ちょっと高くて小洒落ている」イメージがあって、それを受け入れることへの気恥ずかしさみたいのもあり、ずっとナチュラルローソンを斜に構えて見ていた。成城石井とか紀ノ國屋とかも、その位置だ。

ところが20代も後半にさしかかり、いよいよ30歳の扉が開いたところで、ナチュラルローソンが一気に地位を獲得した。食べられる量が減ったからかもしれないし、すこしだけお金に余裕ができたせいかもしれない。

この日は「オリーブオイルで揚げたポテトチップス」を手にしたわけだけど、でもよく考えてみれば、オリーブオイルで揚げたから何だというのだ。サラダオイルとオリーブオイルで作ったものの違いをはっきり理解していないし、たぶん揚げた感じが軽くなるんじゃないかしらと想像はついても、カロリーが低くなるとか、罪悪感が減るとかにはつながらないはず。

たぶん、これもナチュラルローソンの魔法だ。ポテトチップスひとつとっても「オリーブオイルで揚げた」ことが大事。僕が彼らを受け入れられるようになったのは、そういう大人の言い分とか雰囲気作りとかに乗っかって楽しめるような心根が育ったからなのかもしれない。

ポテトチップスは、揚げ油の嫌な感じもせず、厚切りでおいしかった。缶入りのハイボールと併せて楽しんだ。199キロカロリーと、200キロカロリーに桁を上げないようにした工夫もにくい。おもちゃ屋の「トイザらス」で値段の末尾が9並びになっている光景を思い浮かべながら、罪悪感をわずかでも減らそうとしてくれたであろう開発者に感謝を伝えた。

そう、こんなふうに、作っている人のことを考えるようになったのは、僕が仕事で広告を扱うようになったからだろうか。コンビニに並ぶお菓子だって、まだまだAIが作っているわけじゃない。人の姿を感じながら口にすると、味わいも少しだけしみじみとしてくる。

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