20XX/08/13 (小説風)

朝。雨の音がした。そして、寒い。

連日の猛暑を冷ますかのような気温だ。いや、寝苦しかったのを紛らわす為にエアコンを下げすぎたせいかもしれない。
睡眠時間はおよそ2時間。夜中に目が覚めて、頭だけが回っていた。こんなことは、一年前に仕事で頭にきた上司にどんな文章を送ってやろうか思案した時以来になる。


「今夜、少しだけ通話がしたい」

彼女から連絡があった。最初は、次会う日のことについて話したい、ということなのかと思った。ただ、自分の勘はどこか違う匂いを感じ取っていて、まさかそれが的中するとはその時思ってもみなかったのである。

「単刀直入にいうとね、あなたと別れたい」
「そうか」
「1人である方がしっくりくるの。付き合ってると、恋人とかカップルとか、そういうものになりきらなきゃ行けない気がして、心苦しかったんだ」
「なるほどな」

電話口では、動揺を悟られないように、冷静に、彼女の話を聞いていた。しかし、明らかに自分の心が落ち着かなくなっているのを感じる。いきなりの、別れて、だった。

「あなたの気持ちとしてはどう?」
「じゃあ別れようか、って言えるほど君のことを知らないな」
「たしかに、一緒に過ごした時間は短かったもんね」
「そうだし、お互いのダメなところを一つも知らない気がする」

一方的に押し付けるような会話ではなく、こちらの話もしっかり聞いてくれるところが、優しく、しかし自分の気持ちを通し切れない彼女の性格そのものを表しているようだった。

「君にいいところばかり見せようとしていた気がする。だから、もっと自分本意になって、自分のしょうもなくダメなところ見てもらおうと思った。そうしたら君に、僕のことを知ってもらえるかなって」
「そうなんだ」
「でも、もう心は決まってるんでしょ?」
「うん」

「もう、これで終わりってこと」
「こんな都合のいいことは私が言っちゃいけないんだけど、友達として会えるなら、会ってまた話がしたいな」
「僕は歓迎だよ。また君に会いたい」

お互い話好きというのと、踏ん切りが悪く電話が切れないというのが重なり、気づけば時間が延びに伸びていた。今までも「ちょっと電話したい」が数時間になることなどザラであったことを考えると、今日もいつも通りだったということか。

「短い間だったけど、本当にありがとう」
「こちらこそ、本当にありがとう。僕は変わらず、君のことが好きだよ」
「えっ…」
「それじゃあ、おやすみ」

言いたいことは言ったつもりだ。
様々に去来する気持ちを仕舞い込み、眠りにつく。寝ている間、彼女が出てくる夢も見た。朝、起きると少しは気持ちに整理がついていた。

一つだけ。彼女が最後に漏らした「えっ…」という言葉には、どんな意味が込められていたのだろうか。それだけが朝になっても気になった。

「さて、どうしたものかな」
こんな気分の日には雨も悪くない。


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