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『氷焔2』 忘れたい理由はない。けれど、憶えていなければならない理由もない。 過ぎ去ったあの人の顔、声、あれほどに追い求めた後ろ姿さえ薄れた。手と身体のぬくもり、感触、そして何より、あの人自身の形さえ、次第に朧気になっているのに。深く深く刻み込んだ事さえ、いずれは風化して行く。

4年前

『氷焔3』 通り過ぎる匂いに、不意に心が立ち止まる。何の匂いだったか咄嗟にはわからないのに、自分がその匂いを知っている事、だけは憶えているのだ。 纏う人の全て──不思議なことに、直接的、つまりは物理的なもの──ばかりが薄れ、触れることなど叶わない匂いの方が己に刻み込まれている。

4年前