フレッシュ魔法おじさん AROUND☆FYFTY!!――11

 子どもと会話するコツは、とにかく共通の話題を作ることである。
 単純なようでいて、これは中々に難しい。歳を取れば取るほどに、新しいことに手をつけるのは難しくなっていくからだ。
 だがしかし、魔法おじさんは自身の肉体と他者からの認識を若返らせることで、それを刷新することができる。

「化粧は肌の保湿くらいでいいんじゃないかい?」
「えー。なんか地味じゃない?」
「若い内は素材を活かした方がいい。化粧の匂いは結構肌にクるよ」
「意見がおじさんくさーい」
「えぇ? 口臭いのかなァ」
「あははっ! 口にファブしなきゃファブ」

 その結果、文雄でもこんな風に年頃の娘と会話を弾ませることができるのだ。
 以前のどうでもいいオーラ満載の会話はどこへやら、そのやり取りは思春期の娘とその父親とは思えないほどフランクだ。
 久しぶりに娘との会話を楽しんでいる文雄のニヤケ面は、やや鬱陶しいものである。

「……節奈、何かほしいものでもあるの?」
「えー? そんなんじゃないしっ」
「そうなの? お母さんは新しいバッグほしいわ」
「そこはせめて隠してほしかったなァ……」

 章江の訝しみに対しても、節奈は笑いながら否定してくれる。
 この関係性の良化は、やはり魔法がなければ手に入らないものだろう。

「じゃあ、仕事に行ってくるよ」
「あれ、お父さん休日出勤?」
「そんな感じかな。何かと忙しくてね」

 魔法少女相談事務所は週休二日のシフト制なので、土日以外に出勤することもあるだけである。
 なので真実ではないのだが、隠していた方が得なこともあるものだ。

「いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
「ってらー」

 不可思議な技術による対応の変化というと「洗脳」と捉えることもできるが、人は言葉と表情だけで相手を判断している訳ではない。
 魔法おじさんが放つ魔法は、香りの合う香水のようなもの。自分の言葉に自信を持たせ、相手に受け容れさせやすくする効果は魔法だけでは起こり得ないものである。
 劇的な変化の裏には、無数の積み重ねが存在する。今回積み重ねられているのは——親子としてのやり取りだったのだ。

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