こんにちは！　今日は映画「PERFECT DAYS 」について話していきたい。正直この作品については全く知らず、ニュースで主演の役所浩二が男優賞を獲った事を知り、ちょうど時間もあったので観に行った。結果的に、観にいった自分を褒めてあげたいレベルで高い満足感を得る事が出来たので、感想を話していきたいと思う。

　今作は、東京でトイレ清掃の仕事をしている、平山という男の日常が繰り返し丁寧に描かれる。何か大きな出来事が起こる訳でもないし、物語もほとんど無いに等しい。

　平山は、非常にミニマルな人物であり、規則正しい生活を送っている。毎朝決まった時間に起きて、育てている植物に水を与え、自販機で飲み物を買い、車の中でカセットの音楽を聞きながら自分の担当のトイレに向かう。

　平山はトイレ清掃も、丁寧に完璧にこなす。昼休みは神社のベンチで軽く食事をし、木々の木漏れ日をカメラで撮る。夜は眠くなるまで文庫本を読み、眠くなれば寝る。部屋にはテレビもパソコンもなく、スマホすら持っていない。必要最低限の生活品と育てている植物と、好きな本があるだけだ。

　平山はこのような生活を毎日送っている。人によっては、平山の日々を退屈で、貧困なつまらない日々だと思う人もいるだろう。しかし、この映画で描かれる平山は、日々の身の回りの生活をしっかり丁寧に噛み締めるように生きており、非常に満たされた、幸せな日々を送っているように見えるのだ。

　トイレ清掃の仕事も、平山にとっては、成果をだそうとか、成果をだすことで他人に認められる事が目的にある訳ではない。ただ単に、トイレ清掃を完璧にこなす事で、自分自身が気持ちよく満足出来るのだ。どんな些細な作業でも、キッチリと丁寧に完璧にこなす事、そしてそれを反復する事には、不思議な心地よさがある。この映画はその心地よさを見事に描いていたと思う。

　そして、平山にとっての楽しみも、本当にささやかな物ばかりなのだが、平山は心からそれらを楽しんでいるように見える。寝る前に読む本、車で聞くカセットテープの音楽、植物に水をやる事、木漏れ日の撮影、少し気がある女将のいる居酒屋でお酒を飲む事、銭湯にいく事。これらの小さな幸せを平山は1つ1つを大切に楽しんでいる。

　現代には情報も娯楽もたくさんある。たくさんありすぎて僕たちは、1つ1つの物事を誠実に味わえていないような気もする。それに比べて平山は、1つ1つの物事を誠実に真摯に楽しんでいる。物や情報に溢れた時代を生きる現代の人々とは、別の価値観の世界を生きている平山の生き方が、羨ましく見えてしまう人も多かっただろうと思う。

　僕は最初、これらの一見単調で、面白みがなく無味無臭に見える平山の日常が、実はささやかではあるが、多彩な豊かさに満ちている日々であり、そういった日々を「完璧な日々」といっているのだと思っていた。
 他人の評価や社会的自己実現などとは別の幸せに眼をむけた、平山の日常こそがPERFECT DAYSなのだと。　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　
 しかし、違うのだ。それだけでは「完璧」ではない。映画の後半、平山は家出してきた姪っ子のニコと1日を共に過ごす。それをきっかけに、少し平山の過去が垣間見える。詳しく説明される訳ではないのだが、まあ予想としては、平山は元々上流階級の家の人間であったが、父親と考え方の違いで決裂し、今に至るという所だ。

 平山は、恐らく父親に求められた、いわゆるエリートの道ではなく、今の裕福ではないが、自分の手の届く範囲の生活を真摯に送り、そういった日々の中にささやかな幸せを見いだす生き方を選んだのだろう。

 ニコの家出をきっかけに平山は、そういった複雑な思いがあるであろう自分の過去を思い出す。そして他にも、自分が気があった居酒屋の女将が元旦那を抱きしめている現場を見てしまってやけ酒したり、その元旦那の複雑な身の上話を聞いたりする。そういった平山の変わらない日常の中に、大きく平山の心を揺らす出来事がいくつか起こる。

 そして平山は、車を運転しながら涙を流す。それが、どういう感情の涙なのかはわからない。しかしこれだけは言える。

 人が生きるという事は、不本意であり、ままならない事、イレギュラーが必ず起こる。それは、一見「完璧な日々」を送っている平山も同じなのだ。しかし、そのままならなさこそが、イレギュラーこそが人生であるとも言えるのだ。 身の回りの事を誠実に真摯にこなし、小さな幸せを噛みしめる日々、社会的な評価や自己実現から解放された日々、それだけではまだ「完璧」ではない。そういった日々に、自分でも理解できない涙をもたらすような、ままならなさ、心の揺れ、イレギュラーがあって平山の日々はPERFECT DAYSになるのだと思う。