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【#シロクマ文芸部】手柄は誰のもの?

布団から出ない男をなんとか出そうと大家が言いだした。

「いい若いもんが朝っぱらからゴロゴロとだらしない」

人情家の大家さんが男を布団から出した者には褒美を出すなんて言うもんだから長屋のみんなも協力せずにはいられない。

最初に挑んだのは長屋の肝っ玉母さんのおよしさん。

「なあにいつまで寝てんだい」

むんずとつかみバタバタと布団を宙へ舞わせた。

さすがおよしさん!と思ったが、男は布団にしっかり張り付いて動かない。

「こりゃあ雲の上にいるようだ」

とウットリするもんだから子どもらが、オイラもアタイもと布団に群がりキャッキャとなる。

流石の肝っ玉母さんも大の男とスズナリの子どもの布団を長い間、振り回しちゃいられない。

「おかしいねえ。うちの亭主はこれで毎朝簡単に起きるのにねえ」

へへ…と笑う細身の長吉。

「しからば拙者が」

傘貼り浪人の伝右衛門が前に出る。

「これこれ。いい年していつまで寝ておる。ささっ、こちらへ来て囲碁でも指さぬか。なに?碁盤をそちらに?近くにあったら布団から出れるかも?よしそれなら」

浪人が枕元で囲碁を始める。パチリパチリと指し進むとこれがまたかなりの熱戦。

男衆も大家を筆頭にあーだこーだと言いながら白熱の囲碁戦に夢中になる。しまいには見物中に口寂しいからと酒や肴を持ち込み布団の周りで大宴会。男も布団の中でチビリチビリ。

「あ〜布団の中最高!」

こうなると見ている女衆も馬鹿らしくなってきて甘い物を持ち寄ってお喋り三昧。
長屋総出の季節外れの大宴会に子どもも大喜び。

なにがなんだかわからなくなった頃、男がモゾモゾ。我慢できずにかわやへ飛び込んだ。

「はっはっは。囲碁を仕掛けたわしの手柄じゃ」
「いや、宴会を始めたわしらの手柄じゃ」
「酔い醒ましの白湯を用意したわたしらの手柄よ!」

と言い合う大人におみつ坊が

かわやのお手柄だよ」

と一言。
大家はその通りと、綺麗なかわやに建て替えたとさ。

カッピーさんが厠事情を詳しく解説してくれたのでショートショートが出来上がりました。

小牧幸助部長、今週もありがとうございました。

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