【#シロクマ文芸部】ちょっと嬉しい北風
十二月に挑めば勝てるかもしれない。
北風は負けをどうしても認められずにいました。旅人のコートを脱がせたのが自分ではなく太陽だったのを未だに許せなかったのです。
コートを脱がせるなんて自分にばかり都合が良いことを、今度は旅人を遠くまで運ぶという話を提案すれば。
自分の力が強くなる十二月が来るのを待って北風は太陽の元へ走り出しました。
「どけどけどけぇ~い!」
ビュウビュウビュウ~!
「きゃあぁあ」
「うわぁ」
北風の通った後は人も動物も吹き飛ばされヨロヨロブルブル。寒さに凍えています。
「よしよし。これなら太陽に勝てる」
北風は笑いながら更に足を速めました。
ゴォォォ。ビュゥゥゥ。
橋の上を子どもが渡っているときも、北風はものすごい勢いで走っていました。
「あっ」
北風の勢いに耐え切れず子どもは川へ。
「危ないっ!」
フワリ。
思わず北風は子どもを土手の方へと放り投げました。
「フフフ。君は優しいね」
全てを見ていた太陽が北風に笑いかけます。
「う、うるさい!」
「そんなに急いでどこに行こうとしていたの?」
「ま、まだ北風が吹いていない地域に仕事をしに行くところだったんだよ!」
北風は、恥ずかしさと子どもを助けた喜びでポッチリ温かくなった言葉を隠すため、そのままビュンと走り去りました。
その年の十二月はいつもより少しだけ温かで過ごしやすかったそうです。
十二月とお題を聞いたとき、誰にもかぶらないものをと考えていたら、昔話が私を助けてくれました。
小牧幸助部長、今週も楽しかったです。
文学賞の選考で忙しい中のお題提供、感謝しております😊
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