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【#シロクマ文芸部】歩く男

ただ歩く、それだけを守って生きてきた。同じ場所を1mmも違えずに歩き続ける。それがどれだけ大変なことだったか。

そこまで言ってため息をついたのは多田アルク。地球の軸が間違った方向にズレないようにひたすら歩く宿命を授けられた一族だった。

「1mmくらいズレたって」
と胡散臭げに言うと、
「本気で言っているのかい?」
とアルクは目を丸くして驚いた。

地球の軸が崩れてごらん、気候変動が起こるだろ?だから多田一族は地球誕生からずっとずっと軸を歩き続けていたんだ。

と誇らしげに言うので、

「でも、最近は変な天気ばかりですよ?」
と昼間の暑さのイラつきをつい向けてしまう。

ああ……と多田アルクはため息をついた。

それは悪いと思っている。皆がみな真面目にただ歩いているわけじゃないんだ。カケルやハネルなんて悪ふざけばかりするものだから、そのたびに悪天候が起きて。あの時は一族総出で軸を戻したが、本当に大変だった。

遠い目をしながら話すアルクから一族の話が出たので、

「ええっと。ところで他の方々はどちらに?」

と尋ねた。

「いたんだよ……。でも、ただ歩く辛さに耐え切れなくなり、私ひとりになってしまった……」

そう言いながら多田アルクは私の目の前でサラサラと砂となり、跡形もなく消え去ってしまった。

「ぎゃーーっ」

汗だくで飛び起きた。無意識のうちにエアコンを消して寝ていたようだ。暑いのが辛くてたまらないと23度設定で寝ていたのだが、さすがに寒かったらしい。慌てて28度でエアコンを起動させる。

地球に少しでも優しくしよう、そう思いながら眠りに落ちる瞬間、瞼の裏にただ歩く男の後ろ姿が映ったように感じた。心なしか背中に元気が戻っている気がした。

今週、実家との往復する機会が多く、外を歩く時間がいつもより多いです。土曜の暑さにグッタリしてしまい、妙な妄想をしてしまいました💦

来週はもう少し、ゆとりを持って文芸部の活動ができると思います。

小牧幸助部長、来週もよろしくお願いします😊

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