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【#シロクマ文芸部】こびとの月めくり

月めくりで全部めくってしまえればいいのに。

月めくり、ありますよと声がしたので、思わず大きな声が出てしまった。

「カレンダーのことじゃないのよ!」

はっとして周りを見回す。この部屋は私ひとりしかいない。空耳が聞こえるほど思い詰めていたのかと苦笑する。

「嫌だなぁ。カレンダーだなんて言ってないですよ」

……聞こえた。

「こっちっこち」

と呼ぶ声。視線を落とすとテーブルの端にチョコンとこびとが座っていた。

「サラがいいですか?ペタがいいですか?」

突然のこびとの出現に動揺する。
月めくりって紙めくりじゃないんだけど、と言おうとしたが、こびとがあまりに真剣なので口をつぐむ。

サラですか?ペタですか?

こびとがしつこく聞いてきたので面倒くさくなり「サラで」とぶっきらぼうに答える。

ヨイショヨイショとスポンジが濡れたようなものを運んできた。

だから、紙めくりじゃないんだって、とため息をついたが、額の汗を拭きニコリと笑うこびとを見ると「いらない」とは言えない。

「さあ、指につけて月めくりをしてください」

言われるがままに指先を湿らせると。

サラサラサラサラ……

目の前を私の過去が走馬灯のように展開された。
「いいよ」と言った瞬間の友人の花が咲いたような笑顔もサラサラと流れていきそうになり、流れないで!と慌てて月めくりから指を離す。

ドキドキしつつも、もう一つが気になった。

「ペタって月めくりも試せるのかしら?」

コクリ、とうなづいたこびとがウンショウンショとペタの月めくりを持ってきた。紙めくりと同じくワックスのようなテカテカしたものが器に入っている。

紙めくりそっくりだなあと思いつつ、ワックスのようにテラテラした部分を指先でなぞる。

ペタ、ペタとゆっくりと流れる私の過去

特に母に髪を結ってもらうところ、友達が一緒だねと耳打ちをするところ、Sくんがそっと私のセーラーの裾をひっぱって……

1か月ごとにゆっくりと記憶がはがされていく。

今があまりに辛くて遠い未来に行きたいと、現在をめくって飛ばしたかったのだけれど。

過去の辛いことはめくられず、めくって見ることができるのは楽しい記憶ばかり。

「どうして月めくりが欲しかったの?」
とこびとが不思議そうに聞いてきた。

「なんでだろう?」
いつの間にかイライラが消えていた。

「お茶を淹れるけど飲む?」
とこびとに聞くと「うん」とうなずく。

とっておきのカレルチャペックを、こびとのためにミルクピッチャーに注いだ。

こびと部の作品を読み返していたらこびとを登場させたくなりました✨

「ひと色展」が最終日だな、と思ったらカレルチャペックを登場させてしまいました✨

小牧幸助部長、今週もありがとうございました🙌

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