不登校という名の家出、つまり旅人(旅立ち)

家を飛び出してしばらくすると大きな橋がある。この地域では有名な川を渡す橋だ。
この橋を渡れば、もうそこは自分には新しい世界が広がっている。
まだ行ったこと、見たことがない世界。
といっても、まだ近所と言えば近所だけどな。

最初の目的地はどこにしよう。
ふと考えたけど、やっぱり転入する前の町に戻りたくなった。でもここからは電車で3時間近くかかるし、何よりなけなしのお金が簡単に底をつく。だからといって近所をウロウロするだけなら知り合いに見つかりかねない。
だったら今日は、歩けるところまで行こう。
ただし、駅が見つかったら終点まで乗って行こう。終点まで行けば少なくとも知り合いに会わずに済む。そうと決まれば、なんだか足取りが少しだけ軽くなった。
もう戻らない。もう戻れない。
自分だけの時間、自分だけの1日が一歩ずつ、一歩ずつ進んでいく。

朝、とあるマンションの一室。
両親が起きると子供が寝ている部屋がやけにしんと静まり返っいた。
起きた形跡こそあるが、肝心の子供がいない。
ふと勉強部屋を覗くと勉強机の上に紙切れ一枚と、共働きの両親が持たせた合鍵がポツンと残っていた。
紙切れはA4のコピー用紙一枚、子供の字でびっしり埋まっていた。

もういやだ。
毎日毎日学校でいじめられて、先生も何もしてくれない。
誰も遊んでくれないし、勉強もわからないし、プールも習字も楽しくない。
こんな学校行きたくない。
児童会館も友達いないし、友達の家にもさそわれない。
なんでこんな所に引っ越したの?
なんで学校行かなきゃ行けないの?
なんでお父さんもお母さんも学校に何も言ってくれないの?
なんでだれも助けてくれないの?
前の学校に戻りたい。
前のクラスに戻りたい。
お父さんもお母さんもキライです。
先生もキライ。
学校もキライ。
みんなキライだ。
だから今日家出します。
キライな所にいたくないから。
探さないでください。
探しても帰りません。
帰りたくありません。
この街が大キライです。

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