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映像に音楽をつける時に意識していること

今回は映像に音楽をつけるお仕事の中で意識していることについて書いていこうと思います。音楽理論的な内容というより心構えとその周辺についての内容になります。まずは実際に作業に取り掛かる前に、インプットしなくてはいけない項目が3つあります。

(1)案件そのものの背景
いつ、どこで、誰に対してどんな風にこの映像(と音楽)が使われるのか。クライアントの狙いをしっかりヒアリングします。

(2)制作全体のスケジュール
スケジュールは重要です。基本的に映像制作のスケジュールが最優先されます。大抵は納品に至る前に数回のクライアントチェックが入りますので、出来るだけ音楽もそのタイミングで更新できるように作業します。なお現在の映像は実写CG問わず高精細でレンダリングに時間がかかるので、それに間に合うように極力早めに送信する事を心がけます。

(3)求められる音楽の方向性
こちらは下記に詳しく書いていきます。

現実というのは中々厳しいことが多いものですが、自分の場合は納期が非常に短い案件が圧倒的に多いです。例えばCMの音楽で明後日クライアントチェックがありそこでGOを貰わないと次に進めない、といった場合ディレクターや映像クリエイターさんたちの都合を考えるとオファーがあったその日に自分の中で回答出来る音が生まれないとまずいわけです。自分の場合はよほどの場合(信用できる取引相手がどうかが確認できない場合)以外はお断りすることはまずありません。たとえ納期が今日です、と言われてもやります。自分にとっては納期よりも重要なのはクライアントの要望に応えられる音楽が作れるかどうかです。そしてもう一つ重要なのは自分の適性に合っているかどうか。例えば私は「メタルって作れる?」みたいなお話が来た場合は、たとえスケジュールが空いていても自分の適性ではないためその事をはっきりとお伝えしてお断りします。決してその場を取り繕うためにスケジュールのせいにしたりしません。自分の適性ではない事を正直にお伝えすることが重要です。でももしもあなたが次のステップを考えていたタイミングで思いも寄らないところから現在の適性とは違うオファーが来た時は、あえて引き受けた方が音楽性の幅が広がり良い結果が出る場合があります。そこは大いに迷い、時には信頼できる人に相談してみて下さい。もしくはひとりでは立ち向かえなくてもコラボレーションという方法もあるかもしれません。

横道に逸れましたが、とにかく勝負は作業開始最初の30分です。そこで今回はすんなり行くか、かなり苦労するかが分かります。その差は出来るだけ少ない方が良いわけですが現実は中々厳しくて、その殆どがすんなり行きません。そこで重要になってくるのが「曲に対する拘りを断ち切れるかどうか」です。冷酷なように感じますが、それが出来ないと結局は納期との勝負に負けてしまいます。ただしその音楽に対する思い入れは痛いほどよく分かります。ですのでどうしても捨てきれない場合はM1(最初に提出するデモ音楽)の段階で数種類提示して下さい。相手が選びやすいように2〜3パターンで良いと思います。その中でクライアントの狙い通りの音、もう一つは自分の拘りを思い切り表現した曲を用意してどんな反応が返ってくるのか挑戦して下さい。もしかしたらあっさりあなたの拘り曲を採用するかもしれませんし、あっさりボツになるかもしれません。それでもやらずに後悔するよりはマシです。そしてM1提出後は大抵の場合修正が必ず出てきますので、ポイントをよく捉えて効率良く素早く作業していきます。一方でどうもM1では先方の感触が悪いという場合も多々あります。経験上その場合はあっさりM1を捨てて全くゼロから作った方が良い結果が得られます。

ということで特にクライアントから「参考曲」の提示がない場合は、自分自身の創造力をフルに発揮した作業ができるわけですが、現実は中々厳しくてすでに映像に「参考曲」がついている場合が多いです。以下は参考曲がついている場合に私が意識している事を述べていきます。

まずクライアントは参考曲のどの部分を良いと感じているのか、という事をよく知る必要があります。それは先述した(1)案件そのものの背景にも関わっていますが、経験上色々と紐解いていくと「その曲がとにかく気に入っていてその曲に似せて欲しい」という場合以外は、何か一つの要素を自分なりに解釈すればよい場合が殆どです。なので私の場合は参考曲のテンポをベースにして、楽器編成や展開を創意工夫して組み立てていきます。メロディーやハーモニー、リズムパターンそのものは原則として取り入れません。クライアントはあくまで参考程度にして欲しいという事なので、自らその曲に寄せていく必要はありません。自分なりに曲の分析をしっかりとして吸収してから冷静に作業すれば、無理せずともあなたの個性は必ずどこかに滲み出てくるはずです。覆っても隠してもジワジワと出てきてしまうもの、それが個性です。

その一方で厄介なのは「その曲がとにかく気に入っていてその曲に似せて欲しい」という場合です。まだ信頼関係がない相手なら先述した「自分の適正ではないから、そもそもお引き受けずにお断りする」のが正しいのかもしれません。誰だって普通はそんな作業なんてしたくないですから。しかし何度も書いていますが現実世界は中々厳しく、そうも言っていられない状況も多々あります。私はその場合は曲のテンポに加えて楽器編成を寄せていくという方法を取っていきます。やはりメロディーやハーモニー、リズムパターンそのものは寄せてしまうと結局原曲そのものになってしまいますので、避けます。私の場合は年に何度もあることではないですが、このような案件は精神衛生上あまりよろしくありません。曲の良し悪しは原曲に近いかどうかだけですから、クリエイティビティは微塵もありません。時にはそれだったらいっそ原曲を作った人にオファーすれば良いのでは?と思うのですが、予算や大人の事情でできない事もあるのでしょう。なので私はそこは悲観せず、その中でもギリギリ個性を投げ返す努力をします。どんな場合でも成長するプロセスに変えた方が良い経験になるからです。どこにオリジナティや個性を忍ばせるのか。それは作曲をはじめた頃にも言えることで、最初は誰かの模倣でも、きっと自分らしい表現をどこかで掴むものです。とにかく考えている時間はあまりないので、その時々で最良の判断をしていきましょう。

その一方でこう書いておいて何ですが、案件によっては参考曲があった方がいい場合もあります。それはクライアント側に音のイメージが全くない場合、参考曲を提示する事によって音楽の方向性がクリアになるといった状況です。もしも納期がたっぷりとあって何度でもやりとり出来る、といった状況では必要ないことかもしれませんが、納期も殆どない上に音のイメージも曖昧では案件そのものが全く前に進みません。制作全体のスケジュールを考慮すると、そうせざるを得ない事も理解出来ます。お仕事の出来るディレクターさんたちはその辺の事情も踏まえて適切な選曲をしてクライアント側にプレゼンをし、なおかつこちらがスムーズに作業できるように配慮して下さいます。普段こういったコミュケーション能力の高い人たちに囲まれてお仕事ができることの有り難みを改めて感じます。

ということで今回は以上となりますが、どんな状況でも自分なりに打ち返すことが出来る能力を高めていくには、言わば普段からの「素振り」が重要です。何もない時の自主練がものを言いますので、暇さえあればサクッとでも音作りしましょう。それではまた!

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