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やさしい牙④終


「あ、れみちゃん。。
りょーたんに噛まれたところ、めっちゃ跡になってるよ。
大丈夫?」

セックスが終わり、一緒にシャワーを浴びていた桜が、私の肩を指す。

体のダメージとしての「大丈夫?」なのか、人に見られた時のことを想定しての「大丈夫?」なのかはわからない。
つけた相手がセフレであることを考えれば、後者なのかな。


これまで桜とは4回ほどセックスをしたけれど、桜が亮太に噛まれているのを見たことがない。
まだ一人でお風呂に入れないくらいの子どもがいるみたいだから、体に傷がつく行為はNGにしているのかもしれない。

鏡に映すと、噛まれた首や肩があちこちで内出血を起こしていた。
ただ、思い描いていたようなガッチリとした歯型はない。
痛かったようでも、加減してくれていたのかな。
亮太の“やさしさ”かもしれないその場所を、そっと撫でる。

「大丈夫。すぐ消えるよ」

押すと少し痛むけれど、それさえも嬉しく思った。


今回は集合時間をいつもより早めていたので、ホテルを出たのもいつもよりだいぶ早い。
亮太がスマホを見ながら言う。
「まだ13時半かぁ。
ラーメンでも食べに行く?」

「りょーたん、時間は大丈夫なの?」
「今日は仕事は休みなんだよ」
「じゃあ行こうよ!
どんなラーメンにする?
◯◯屋なら、あっちだし、△△なら、向こう側。
どうする?どうする?」

そこで、桜が聞く。
「れみちゃんも、行ける?」


恋人同士である2人の邪魔をしたくないのと…
他人と食事をともにするのが緊張して苦手なのと…
なるべく早く帰路について自宅に近づきたいのとで…
誘ってもらえてありがたかったけれど、断ることにした。

「ごめんね。帰りの時間が気になるから、帰るよ」

桜が、残念そうにしてくれる。

亮太は、そういう芸当はできないタイプみたいだ。
「わかったー。
じゃあまた、近いうちにー」

「もしかしたら来年になっちゃう?
12月は二人とも忙しいんじゃない?」

「そういえば、もう年末かぁ」


「私は、あいかわらず20日くらいがシフトの締切だから…
それまでに亮太から連絡くれたら嬉しいな」

「わかった。またラインする」


ラーメン屋に向かう2人に手を振り、私は一人で鶯谷駅に向かう。
だけど寂しくなんてない。
私には、亮太がくれた、“しるし”があるもの。



亮太がつけてくれたこの“しるし”は、1週間もすれば何もなかったかのように消えてしまう。
だけど私の心には、亮太のやさしい牙の記憶が残り続ける。

いつも「これが最後かもしれない」と思いながらの、亮太との逢瀬。
もし再び会う約束が叶ったなら…
裸に剥かれた私の体に、またあの牙を突き立ててほしい。
あなたに抱かれたというしるしを。
桜には与えられていない、私だけのしるしを、、、
肌の奥底にまで、刻んでほしい。




end.

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