③ プロのアーティストとは何か~大塚明夫に学ぶプロフェッショナル~

軽んじていたのは

大きなミスはやらかすことなく、なんとかライブをやり終えました。しかし、客観的に見れば、決して悪くないステージだった。大丈夫。

片づけをしながら、だんだんと重苦しい気分が晴れてきたところに、バンドのメンバーが「おつかれ!」と声をかけてきました。


なんて言われたと思いますか?

「ハッチありがとう!今日も最高だった、またこれからもよろしく!」というような、自分の救いとなるような言葉は。
これから始まるプロとしての第一歩を飾る華々しい言葉は、待っていませんでした。


「俺たちは、ハッチにお金を払ってる。この3000円を、バンドとして回収しないといけない。それやのに、例えば物販席の近くで誰かと喋ってたりしたらお客さんの邪魔になってしまうし、対バンを見ずに楽屋にずっとおったり、寝てたりしたら、他のバンドからは、『このバンドはこういうバンドなんか』と思われてしまうやろ?確かにサポートかもしれへんけど、周りからは俺らと同じバンドメンバーとして見られてるっていうことを忘れんといてほしい。」


そしてその言葉のあとに、心からの優しい笑顔で「今日はありがとうな。」と言って、僕に千円札三枚のギャランティを渡してくれたのでした。


自分の正直な気持ちとして、この3000円を受け取らずに返したかった。そのような思いが、立ち尽くす自分の頭の中をぐるぐる回っていました。

演奏さえうまくこなせば、自分の仕事はそれで仕舞い。だって、「サポートドラマー」なんだから。なんだったら、お金をもらってサポートをしてるんだから。メンバーから感謝される立場に自分はいるんだから。

この、驕り高ぶった甘い考えが、ステージの下でのだらしない行いに繋がったのです。

軽んじていたのは対価ではなく、自分の仕事そのもの。
これほどに恥ずかしく、みじめな思いをしたことはありませんでした。


「すいませんでした!!今日はお金はいらないです!!」と言いたかった。
でも、それをしてしまうということ-「お金は要りません」と言うことは、自分の過去、現在、そして未来も含めた全てを否定することに繋がる。

のみならず、それはつまり「私はお金をいただくに値しないような粗悪な仕事をしてしまいました」ということを認めることになり、相手にとっても、最も失礼な結果となる。

自分には、このお金を受け取る以外の選択肢はありませんでした。


ライブの帰り道で、自分はなんと恐ろしい決断をしてしまったんだ、と、自分の考えを改めたい衝動に駆られさえしました。

自分の目指す先にいるトップドラマーたちは、こんなことを毎日こなしているのか。

日雇いのアルバイトで稼いだ1万円より、この3000円がこんなにも重たく、大きく感じたことはありませんでした。


この、とてもヘビーな体験から皆さんにお伝えできることは二つです。

ひとつは、お金を頂戴するということの恐ろしさ。重たさ。

そしてもうひとつは、アーティストとして生きるということの窮屈さです。

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