①プロのアーティストとは何か~大塚明夫に学ぶプロフェッショナル~

去る5月24日に行われた、KYOTO NEST主催『Artist Session vol.4』における特別講義『プロのアーティストとは何か』の様子をお届けします。

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プロって何?

みなさん、おはようございます。発表を終えたみんなは、お疲れ様でした。

さて、ここから少し時間をもらって、みなさんと一緒に考えていきたいことがあります。

非常に重たく、暗く、イヤな内容であることを、先にお伝えしておきます。
ここにいる他の先生さえ、もしかしたら顔をしかめるかもしれない。苦笑いを浮かべるかもしれない。そんな話です。
けど、どうか折れないでほしい。

皆さんそれぞれ色々な表現をなされています。そしてみんな若い。ここからどんどん育っていく、可能性に満ち溢れた人たちです。いっぽう、僕はドラマー。28歳。境遇として、かけ離れてますよね。つまり、ここにはいろんなジャンルの人が集まっている、ということです。

さてそれを踏まえて、何をテーマにすべきか。非常に悩みました。

そして、ひとつだけありました。僕にも、あなたにも、あなたにも、
共通して当てはまる、大事なこと。

ずばり、プロって、なんでしょう。

もしかしたら、プロになりたい!っていうわけじゃない人も、この中にいるかもしれないですね。どうですか?先に言っておきますが、プロなんて別にならなくてもいいんです。プロにならないってことは、悪いことじゃない。決して。プロを目指さない人にとっても、僕のこれからお話する内容は、「プロ」と「純粋な表現活動」との線引きだったり、自分の表現の洗練や鍛錬に役立つであろうことは、ここでお約束しておきますね。

プロって、なんでしょう。

音楽だけで生計を立てれるようになったら、プロ?
もしくは趣味のバンドだとしても、お客さんからチケット代を―お金をいただいてライブをする時点で、プロ?

どこに線引きをするかは、非常に難しい問題ですね。

端的に言い表した格言のようなものなら、わりとあるんです。
「演奏者だけが盛り上がって、聴衆は冷めているのは三流、 聴衆も同じく興奮して二流、 演奏者は冷静で、聴衆が興奮して一流」とか。
「アマチュアは自分を喜ばせ、プロは人を喜ばせる」とか。
「間に合ったもんが正解なの、プロは」とかね、これは『カルテット』っていうドラマの台詞なんですけど。

格言というのは気をつけた方がいいですよ。
「短く端的に表す」というのは、画素数、bit数の少ない、モザイクみたいな、昔のゲームみたいな粗い画像のようなもので、インパクトはあるかもしれませんが、それだけ失われている情報量が多いということです。これを忘れてはいけないです。逆に僕の話や文章は長すぎると言われてしまうんですけど。

どうですか?どうなったら、プロだと言えますか?
皆さん、自分がどうなったら、堂々と「自分はプロのアーティストです!」と言えますか?

(「人を感動させ続ける」「人を感動させ続けて、お金もしっかりいただく」「みんなから尊敬される」等、様々な意見が出る)

いいですね。ありがとうございます。ここにいるみんなの中でさえ、答えが一つにまとまらない。ということは、やっぱり「これがプロ!」って言い切るのは、ちょっと難しいことなのかもしれないですね。


あえて、スポーツを例にとってみましょう。
スポーツ業界における「プロ」の定義は、比較的はっきりしています。
野球やサッカーの世界では、プロ球団からスカウトされて、球団と契約すれば、プロになります。
格闘技界にはプロテストというものがあり、それに合格すれば、定義上はプロになれます。

しかし、我々アーティストは、どうなのでしょうか。

例えば、レコード会社や事務所と契約を結べば、プロでしょうか。
「契約」と一口に言ってもいろいろあります。
マネジメント契約なのか、実演家契約なのか。そのどちらであったとしても、その契約を結んだらプロ野球選手のように年棒〇千万円が保証されるものでない、というのは―そういう時代でないというのは、もうみなさんお分かりだと思います。どうですか?年棒〇千万はおろか、月給〇十万だって、超VIPな待遇です。

そう、夢を壊すようで恐縮なのですが、
「音楽好きなら誰もが名前を聞いたことのある、あの有名なバンドのメンバー」でさえ、アルバイトをしていたりします。逆に、誰も名前を知らないような、名前を聞いたところで顔も浮かばないようなミュージシャンが、音楽の仕事一本で、生計を立てたりしています。

プロと呼ぶにふさわしいのはこのどちらか?

考え方は様々ですが、「どちらもである」と答えてよいと思います。
「有名かどうか」「稼げているかどうか」というのは、
彼らがプロであるかどうかを語る上でさして重要な要素ではないし、もっと言えば、そもそも彼らについてどちらがプロなのかとかいうことを論ずること自体が、ナンセンスといえるでしょう。
つまり良くも悪くも、音楽業界における「プロ」は敷居が低く、曖昧なのです。

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