Powerpuff Girls “See me,feel me,gnomey”についての考察

パワーパフガールズに本国アメリカで発禁になってしまった回があるのはご存知だろうか?そのタイトルは”See me,feel me,gnomey”。全編ロックオペラの回で、ロック好きの方は既にピンと来たかもしれない。このタイトルはThe Whoの世界初のロックオペラアルバム”Tommy”に収録されている”See me feel me”のオマージュである。さらに、劇中には到底子供が分かるはずのない様々な映画や音楽からの引用が随所に見受けられる。例えばユートニウム博士が牛肉をサンドバッグ代わりに殴るのは『ロッキー』だし、The Whoの”Pinball Wizzard”のイントロをまんま使ってたり、クライマックスの魔法使いが落下死するのはあらゆるディズニー映画の定番である。これはほんの一部で他にも枚挙に暇がない。しかし、さらにハードなのはその内容である。あらすじはこうだ。

冒頭で悪役が全員集合して、タウンズビルを破壊し尽くそうとする。そこへいつもの様にパワーパフガールズの3人が止めようと奮闘するが、多勢に無勢で返り討ちにされてしまう。疲弊しきったガールズはもう闘う気力もなく、ただただ平和を願う。『この世界は痛み以外から何も学べないの?』

すると空から一滴の雨粒が地面に落ちてきて、そこから真っ赤な花が咲く。その花の中から小さな魔法使い(Gnome)が現れ、君たちの願いを聞いたよ、私がこの街を救ってあげようと。だけどガールズはその代償として全ての自分のスーパーパワーを魔法使いに渡さなければならない。初めは躊躇していた3人だが、街を救うには他の選択肢はない。それに悪いことばかりじゃないよ、とバブルス。『これで私達、やっと普通の女の子になれるじゃない』

そして、小さな魔法使いは不思議な呪文を唱え悪者を倒し、街を元通りにする。街の人々はいたく感謝をし、平和と幸福を与えてくれたあなた様の為に自分の人生をと。人々は魔法使いと同じ真っ赤な装束に身を包み、まるでカルト教団の様相を呈していく。一方でガールズはやっと普通の女の子になれた人生を享受する。『私達がしなきゃいけないのは、一日中遊ぶ事だけよ』

場面は切り替わり、憤ったユートニウム博士がガールズの元へ現れ、重大な指摘をする。単に治安を維持するというお題目の為に、それぞれの人が自身の夢や希望や個性を蔑ろにしているんじゃないかと。『街の人達を見たかい、ガールズ?、彼らはまるで自由な牛肉じゃないか?』

パワーを失ったガールズはどうしたらいいのかと博士に尋ねる。小さな魔法使いとの契約は、スーパーパワーを代償として邪悪なものを取り除きこの街に平和を与えるという事だった。博士はこう答える。『この街にある邪悪さが分からないかい?』。そう、契約は破棄されたのだ。

パワーを取り戻したガールズは小さな魔法使いの巨大な赤い花の城に乗り込み、彼を問い詰めていく。あなたが私達にもたらしたのは本当に平和だったのか?あなたは邪悪さを否定するが、この世界には闇があるからこそ光がある、あなたが与えたのは偽りの平和よと。小さな魔法使いも反撃するがどんどんと追い詰められていき、最後は高い城から足を滑らせて、地面に落ちていく。小さな魔法使いはこう思った。『落ちながら世界を逆さまにみて分かった。この世界は対になるものがあればこそ成り立つんだ。』

再び場面は変わり、街の人々は我に戻り今度はガールズを崇め始める。しかし、ガールズはそれを私達はあなたを導く光なんかじゃないと否定する。そしてそれぞれが平等であると。ラストシーンでは、何故か悪役達や街の人々もガールズとみんなで大合唱をしてエンド。『いろんな奴がいて、世界は動くのよ!』

一体、これは何を描いているのか。このストーリーの妥当性や物語の持つメッセージに対しての是非を一先ず脇に置くとして、これはアメリカ人のある種の倫理観を表している。まず、小さな魔法使いの『赤い花』は『共産主義』のメタファーであり、各個人の自由を死守するというのはリバタリアン的であるし、善悪についての話はキリスト教的な倫理観が根底にあるはずだ。端的に言えば『反共』『自由主義』『キリスト教的倫理』である。ちょっとハード過ぎやしませんか、、ここだけ切り取るともはやプロパガンダでは?とさえ思う。

さて、ここまでアメリカ的なものを詰め込みまくったにも関わらず、冒頭で書いたように本国アメリカではこの話は発禁扱いになっている(アメリカで発売されたDVDには収録されているとのこと)。

それは何故か?実はある表現が問題視されたのだ。そのひとつは、作中で登場する街のヒッピーがあまりにキリストに酷似していた為。それと破壊されたビルが十字架のような形になっていた為、視聴者からの抗議があったからだ。なんとも皮肉な話である。。。

ともかく、現在は某動画サイトにフルで上がっているし、別の某動画サイトでは日本語字幕付きで見ることもできる。物語全体としては説明不足な部分や荒々しいとこもたくさんあるが、たった25分のストーリーによくここまで詰め込んだなと感嘆する(個人的には『私達やっと普通の女の子になれる』の部分の葛藤をもう少し表現して欲しかったが、、)。充分に見応えのある作品なので観てみ。



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