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『ボーはおそれている』感想(ネタバレあり)

『ボーはおそれている』の第一印象

『ボーは恐れている』を見てきました。映画を見る前にスイパラに行っていたのでギャップがすごかったですね。というかスイパラってうどんもあるんですね。初めて行ったのでびっくりしました。
関係のない話をしてしまいました。『ボーは恐れている』を見た出た最初の感想は「困惑」です。最初から最後までボーの視点で物語は進んでいきますが、夢・幻なのか現実なのか区別がつかないシーンが散見していてずっとぼんやりとした靄がかかっているかのような状態で映画を見ていた気がします。この映画は四部構成になっていたので各セクションについての感想を下で述べていきたいと思います。

第一セクション

最初のセクションではボーの生活している街での話が描かれる。映画はまずボーが生まれてくる場面から始まる。ここからかなり不気味でしたね。そしてセラピストに何かの病気の診断をされているボー。このセラピストもなんだか不気味でした。それから時は飛んで世紀末のように治安が悪い街で些細なことでも怯えているボーが様々な不条理に悩まされながらも生活している中で母親が死んだという一報が入る。それからのお風呂のシーンからは急展開。お風呂に入っていると、天井から水滴が垂れてくる。上を見上げると見知らぬ男が天井に這いつくばっている。そして、体の限界が来たのか、男が天井から落ちてくる。パニックになるボーはなんとか風呂から抜け出して、全裸のまま外に出て警官に助けを求めるも成果は虚しく撃つぞと忠告される始末。ここらへんは狂気という感じでした。どうしようもなく警官からも逃げようとして、車に轢かれて第一セクションは終了。このセクションでは街に溢れる他人への恐れが描かれている気がしました。なんか駅のホームで先頭で待っていると、ふと後ろから誰かに押されるんじゃないかと考えちゃうような感じのそういう恐れの極限。音でビビらせるのは普通に怖い。映画館だとその怖さが倍増するなと思いました。

第二セクション

第二セクション、ボーはメルヘンチックな部屋で目を覚まします。そこは彼を轢いた車のドライバーの家でした。外科医であるロジャーとその妻グレース、そして素行不良っぽい娘と気が違っている退役軍人。どこか不気味な一家。そこで、ボーは母の安否をもう一度確かめますが、結果は変わらず母は亡くなっている。その上、母の遺言でボーが来るまで葬儀ができないと言われ、ボーは一刻も早く母の元へ行かなければならないと考える。しかし、事はうまく運ばない。印象的だったシーンは目が覚めたばかりのボーとグレースの会話シーンとペンキを飲んで自殺しようとする娘のシーンですね。特に娘のシーンはかなり怖かった。そして、娘が自殺を図るところに居合わせたボーはグレースにその様子を見られてしまい、娘を殺したと勘違いされてしまう。そして、グレースはそんなボーに退役軍人を襲わせる。ボーは軍人から逃げてる途中、木に頭をぶつけて、第二セクション終了。
ここは家族の怖さを描いているような話だと思いましたね。
仕事にかまけて(いるように見える)両親とそれに対して反感を抱く娘。娘はオーバードーズや薬物のようなものに手を染めているにも関わらず、未だ戦死した息子のことにばかり目を向けて、娘にあまり関心を向けない。そこにボーや退役軍人という異物の存在。そして部屋にカメラをつけて監視しているロジャー。家族というのは閉じているコミュニティであると同時に子供からしたら裏切られたら生きていけない存在だからこそ、何をやっているか、考えているか分からないと思うと怖いし、そこにボーは恐怖しているのかなと思いましたね。

第三セクション

ボーは目を覚ますと、森の中にいて、そこで妊婦に出会い、森の孤児という劇団に案内される。ボーはそこで公演される劇に自身を投影していく。それは自分がもっと臆病でなかったならという仮想。しかし、現実はそうではない。現実に引き戻すかのように、退役軍人がボーを追いかけて、この劇団までやってきて銃を乱射しまくる。ボーは軍人から逃げる中で着けられていた発信機が破裂して気を失って第三セクションは終了。この第三セクションはアニメーションが用いられていて、そこがとても印象的でした。アニメーションはボーが劇に自身を投影しているシーンで使われていて、色も比較的明るく内容も多少希望的なものな気がします。この劇で、離別してしまった父子が再開しているというシーンがある。それが現実でも起こる。退役軍人が劇団にやってくる前、ボーが生まれる前に亡くなったと聞かされていた父親と思われる人物と再開する。しかし、その直後退役軍人の投げた爆弾の余波によって死んでしまったと思われる。
正直、このセクションは何が描きたいかというのがあまり掴めなかったけれど、ボーの「後悔」のようなものを描いているのかなと思いました。あのときこうしていれば…というのは誰しもが持つ感情ですし、ここでボーに対する共感が進んだのかなという気がします。

第四セクション

再び目が覚めたボーはヒッチハイクでなんとか母の遺体のある家までたどり着く。家に入ると母親の葬儀はすでに終わっており、葬儀の様子を録音したテープが流れている。母の遺体を確認したボーはしばらく呆然としているが、誰かが家を訪れる。それは第一セクションでも少し存在が仄めかされ、ボーの回想の中で度々登場していた初恋の相手(?)エレインだった。二人は再開を喜び、そこからセックスをするわけだけど、ボーは父親がセックスをして死んだと聞いていたのものだからセックスすることをとてつもなく恐れる。しかし、実際にはエレインの方が死んでしまう。そして、死んだはずの母親が現れる。ここらへんは展開が急な上にカオスなので見ていてとてつもなく混乱しました。そして母親は今までのすべてを監視していたことを告げる。全てはこの母親に仕組まれていたことなのである。セラピストやロジャー、エレイン。母の遺体役を買って出たメイド。すべて母の仕業だった。ボーの母親は実の母親に愛されていなかったために自分の息子であるボーには愛情を注ごうと決めていた。けれど、彼女は自分が愛されていなかったという経験も相まってか自分は愛情を注いでいるのにボーからは十分な愛を感じられないと怒ってボーを監視・支配していたことがわかる。そういったやり取りの中でボーは自身の父親について真実を知りたいと母親に主張し、夢で見ていた屋根裏部屋に連れて行かれる。ボーはそこで双子の兄弟と巨大な男根の怪獣と出会う。そこに森でも追いかけてきていた退役軍人が飛び込んできて怪獣と戦うのですが、あっけなくやられてしまう。ここも中々カオスな展開でした。男根の怪獣はボーが持っているセックスに対する恐怖や誰しもが感じたことのある性というものに対する恐怖を描いていると思いました。恐怖に怯えたボーは母親に縋るのですが、母親はボーを激しく批判する。そして批判されたボーは我を失って母親の首を締める。そのことにショックを受けた母親はガラスケースの中に倒れ込んでしまう。
ボーはそんな母親から逃げるように小型ボートに乗り込んで、夜の海へと進んでいく。ある洞窟の中へ入ると、そこは巨大アリーナであり大観衆に囲まれる中、ボーは母親を冷遇した事を糾弾する裁判を受けることになる。ボーへの批判は強まり、誰も弁護するものもいない中でボーは助けを求め続けるものの、誰も助けてはくれない。そうして最後はボートのモーターが爆発、ボートは転覆してボーは水の中に沈んで物語は幕を下ろす。
第四セクションでは様々な伏線が回収されていって圧巻でした。母親のいる家に入った後に家に変える道中に出会ってきた人たちの顔が母親のモザイクアートの一部にあることがわかるシーンや今までボーが使っていた商品が全て母親の会社の商品だったこと、映画の冒頭、配給会社が流されるときに入っているMWという会社も実は映画の中で出てくる母親が経営している会社であり、そういった点からボーのこともこの映画のことも母親が支配しているということが示唆されていてこれに気がついた時は鳥肌ものでした。ラストシーンは明らかに夢というか幻覚っぽいのでボーは結局母親から逃れられないということを示唆していると感じました。

『ボーはおそれている』総括

アリ・アスター監督の作品は『ミッドサマー』しか見たことがないのですが、前作がカルト的なホラーであり舞台がこじんまりとした集落であったこともあって個人的には少し距離が離れた怖さだったのに対して、今回は誰もが感じたことのある恐れの極限を描いているので共感できる点が多かった用に感じた。
ボーは結局最後まで変わらない存在でした。パンフレットのインタビューで監督が答えていたのですが、人間はそう簡単に変化しないというのも一つの映画のテーマだったそうなので、なるほどなと思いました。基本的に物語を作る上で主人公が誰かと出会い、何かしら成長するという形式を取ることが多いのでこの点も印象的でした。確かに人間はそう簡単に変化しないし、誰かと運命的に出会って成長するなんてことはありませんもんね。少し違うかもしれませんが、こういった点は新海誠監督が『すずめの戸締まり』で目指したものと似ている点もあるのかなと思いました。
第三セクションのアニメーションが使われているシーンも面白かった。また、様々な映画のオマージュもあるそうで、自分はあんまり映画について詳しくないので全然気が付きませんでしたが、そういう点に注目してみても面白いかなと思いました。
あとは、ボー役のホアキン・フェニックスの演技がとにかく凄い!ほんとにジョーカーやってた人なの?って感じです。アリ・アスター監督の次回作もホアキン・フェニックスが主演らしいので今から楽しみです!また、今作で『ヘレディタリー』、『ミッドサマー』で共通している親と子供というテーマが終わったと言っていたので、次回作以降何が描かれるのかも楽しみですね。
中にのっているインタビュー、エッセイなどすべての文章がとてもいいので映画を見た方はパンフレットの購入を強くおすすめします。
まだ長編映画初作?の『ヘレディタリー』は見たことがないので、見てみたいと思います!

最後に、稚拙な感想でしたが読んでくださった方はありがとうございます!
また『ヘレディタリー』を見た際は感想を書いてみたいと思います


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