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デジタル庁発足でどうなる?

ついに本日、デジタル庁がスタート

2021年9月1日、とうとうデジタル庁が発足しました。筆者はかねてより、日本行政書士会連合会の制度調査室、デジタルガバメント推進分科会 座長として、内閣官房にあるIT総合戦略室、デジタル庁準備室と折衝を行っていたので、デジタル庁が設置された際に行政手続きに与える影響や、行政書士などの士業に与える影響を、様々なSNS、動画配信、音声配信など行ってきた訳ですが、ここであらためて、簡単な考察をとりまとめて掲載していきたいと思います。

なお、デジタル庁の設置は、2021年5月に成立した「デジタル庁設置法」を根拠にしていますので、ここでの考察も、この法律をベースに解説します。

デジタル庁とは何か

デジタル庁という言葉が先行しすぎていて、これまで動向を追っていなかった人にとっては、そもそも「デジタル庁って何やねん?」ということもあると思います。

デジタル庁の設置目的は、一言でいえば、「各省庁と各地方自治体のデジタル化を推進する司令塔」です。各省庁や各地方自治体など、行政機関の間でデータ連携を実現し、行政手続き全般を迅速化することが最たる目的です。必然的に、データ連携により簡素化された手続きに対して「確固たる本人確認」の手段が必要となるので、その識別子であるマイナンバーを活用できるマイナンバーカード(場合によっては、スマートフォンに内蔵されたICチップ)の利用を推進することも目的としています。ゆくゆくは健康保険証や免許証など様々な国の関わる証明カードを統合していく考えも示されています。なお、国が行政手続きのデジタル化を進めるために、確固たる本人確認手段として国民に通番を付番するというのは、デジタル先進国では揃って取り組んでいる方法です。

具体的な施策は?

では、行政機関の間でデータ連携を実現し、行政手続き全般を迅速化するためには、具体的にどのような施策を行っていくのでしょうか?

デジタル庁設置法を読み解くと、主に以下のような事務を行うことが定められています。

(1)デジタル社会形成のための施策に関する基本方針の企画立案・総合調整
(2)デジタル社会形成に関する重点計画の作成・推進
(3)マイナンバ ー・マイナンバーカード・法人 番号の利用に関すること及び そのネットワークシステムの設置・管理
(4)情報通信上の本人確認に関する総合的・基本的な政策の企画立案
(5)商業登記電子証明、電子署名、公的個人認証、電子委任状に関する事務
(6)データの標準化、外部データ連携機能、公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)の総合的・基本的な政策の企画立案
(7)国・地方公共団体・準公共部門(民間事業者)の情報システムの整備・管理に関する基本的な方針作成・推進
(8)国が行う情報システムの整備・管理に関する事業の統括監理、予算の一括計上の全部または一部を自ら執行

こうやって、細かく見ると非常に頭が痛くなるかもしれませんが、俯瞰して考えると、実は非常にシンプルな事務を担っています。

デジタル庁が担う事務は大きく分けて以下の3つということです。

1 国のデジタル推進施策の企画立案と関係機関調整

これは上記(1)に該当するものです。「内閣補助事務」ともいいます。内閣とは、内閣総理大臣と、その他の国務大臣で組織された機関です。つまり国の全体的なデジタルに関する施策を考え、各省庁が行いそうなポジショントークに対して、「まぁまぁ、もっと全体最適で考えましょうよ」と調整する訳です。(1)に記載されている「デジタル社会」とは、「デジタル社会形成基本法」に定義付けされている用語で、AIやIoTなどの最新のデジタル技術を活用することで、誰でも安全に好きな時に多様で膨大な情報を得られ、国民全てがそれぞれの分野で創造的で活力ある進化を遂げられる社会を指しています。そもそものところで、デジタル社会形成については、「一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造する」というスローガン(ミッション?)が掲げられており、また「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」が理想とされています。

あわせて全体的な施策のうち、重点的に取り組むべきと考える事柄の計画を立てたり、推進する(2)の事務や、省庁以外の地方自治体、凖公共機関などの情報システム整備に関する基本方針作成・推進の(7)もこの中に含まれます。

2 ベースレジストリ整備とオープンデータの実現

行政のデジタル化を実現するために、最重要となるのが、先述した「確固たる本人確認手段の確保」に加えて、官民問わず、保有する国民や事業者に関係するデータの活用のための基盤を整備し、それらのデータを連携させることです。その結果、多くの社会課題の解決や革新的なビジネスの創造が実現できるとされており、筆者もその視点に賛成です。

2019年12月に成立した「デジタル手続法(デジタルファースト法)」では、行政手続きに関する主要なデータについて、一度提出した情報は再提出不要とする原則「ワンスオンリー」の実現が謳われています。その実現には、必然的に、公的基礎情報(行政保有基本データ)となる「ベース・レジストリ」の整備と、誰もが公的基礎情報を活用できる「オープンデータ推進」などを達成する必要が生じます。

それらを一連の流れで捉えて、データ標準を軸につなぎ、データ環境整備を通じて分野を超えたデータ連携を進めること、そして、これらを適度な手段により、適当なデータを誰もが活用できるようにすることなどを推進することが、デジタル庁の2つ目の重要な事務です。これらは(3)、(4)、(5)、(6)、(7)が該当します。

3 国の情報システムの統括管理と予算の計上・執行

上記、1,2を実現するためには、各省庁であったり、各自治体などが運用する情報システムの仕様をある程度、統一しなくてはなりません。例えば、ある省庁やある自治体の保有する情報、その情報を届け出る手続きなどの情報システムがローカルのみで運用されていたり、PDFなどのスキャンデータのみの管理であったりしては、行政デジタル化による簡素化・効率化は実現できません。また、仮に情報システムがクラウド化されていたとしても、独自のデータ構造設計であったり、外部と連携できない独自の仕様であっても同様です。

このことから、デジタル庁には、基幹系情報システムについての基準(標準仕様)を策定し、各省庁や各自治体に当該基準に適合したシステムの利⽤を求める権限があり、国の情報システムの標準化を実効的に推進できるようにしています。もう少し、具体的にいうと、各省庁・各自治体が共同で使う、「ガバメントクラウド」と呼ばれる情報システム基盤を構築し、ネット経由でデータの保存やソフトウエアの運用を統一的に行えるよう検討されています。

地方分権との関係が気になるところですが、自治体については、「ガバメントクラウド」上で、IT企業などベンダーが作ったアプリを使ってカスタマイズされた行政サービスを提供することができるはずですので、地方自治が損なわれることはないでしょう(ホームページ作成用のCMSをイメージすると良いかもしれません)。

デジタル庁は、ベンダーアプリについて、住民基本台帳や、税金、介護保険など、重要な17の業務を担うのにふさわしい、標準の仕様を定めることができます。
これまでの省庁や自治体によるシステム開発の発注は、丸投げでなされていたことが多く、場合によっては丸投げされた会社がシステム開発会社ではなく、さらに下請けに丸投げされるというような構造も珍しくありませんでした。

予算上、適当に金額を上乗せされてしまう状態で「ITに無知な担当者」が発注を担い適切な発注がなされず、しかも各省庁や各自治体とのデータ連携も実現できないような、国民の血税の無駄遣いに終わるリスクが非常に高かった訳です。だからこそ、ITに詳しい人材を大量に確保したデジタル庁が技術基準を定めて、各省庁や自治体にガイドラインを示し、監理することで1と2の実現にコミットする仕組みが想定されています。

よく民間の会社などで、事業の執行は社長がガンガン進めていくけど、社長の奥さんである経理部長に財布のヒモを握られることで、無駄な支出はできず、結果的に効率的に事業執行がなされているケースがありますが、デジタル庁が担う3の事務というのは、まさにそういう仕組みであり、ある意味では、3つの事務の中で最重要ともいえます。

なお、デジタル庁の来年度予算案の概算要求では、各府省の情報システムの整備や運用に関する経費など、5426億円(全体の98%)が盛り込まれているようです。このように、デジタル庁が、各府省で整備する情報システムを一括して要求し、デジタル社会形成の実現に向けて、国のデジタル施策の良き、母ちゃんとして、厳しく内閣やその他の国務大臣に喝を入れてくれることでしょう。

行政書士などの士業はどうなるか

このようにデジタル庁の構想が実現すると、行政手続きは簡素化、省略化されることが想定されています。
一方で、行政書士を知る事業者や、他士業をはじめ、行政書士自身においても、行政書士の業務は「国民が役所に提出すべき書類の作成・提出を支援する事である」と位置付けているケースが一番多いと思います。
そもそも、行政書士黎明期では、国民の識字率が低く、役所に提出する書類を作成したり、履歴書などの事実証明の書類を作成したりすることが困難な人もいたため、いわゆる「代書」の側面が重要視されていましたが、やがて識字率が向上した後も社会の多様化により、近年でも複雑になった書類の作成や収集などを馴れない方に代わって行なう役割を担っているのは確かです。これにより読み解くのが難しい法律要件や規制に沿った申請を行政書士に委任することも多くなっていました。

このような行政書士の中心的業務と考えられてきた申請や届出というプロセス自体が無くなるか、あるいは簡素なものとなれば、行政書士は否が応でもこれまでと同じ姿で生きていくことはできなくなります。では、デジタル社会において「行政書士」はどのような役割を担うべきなのでしょうか。


ここからは、あくまで筆者一個人の意見ですが、国の行政手続きデジタル化では、現在の手続きをオンラインで繋ぐだけの「オンライン化(移行期)」の段階と、オンライン化自体で生じた課題に対して、データ連携等で解決を検討する等の「再定義(棚卸し)」の段階、すべての手続きのデータ連携や、ベースレジストリ 実現後の「デジタル化」の段階を経ていくと考えられます。

これは、考えようによっては、現在の行政手続法に基づく「申請」や「届出」という考え方自体を再定義する必要性も生じるのではないでしょうか。
つまり「申請」では、申請者からの求めに応じて、できる限り、申請に必要な書類やその具体的な手続について、情報提供するよう努める (行政手続法第9条第2項)とされていることや、役所が(申請書が)届いてから許可・不許可を判断すること、標準処理期間を定めたり(行手法第6条)、記載の不備や添付書類の不足に対する相当程度の期間を定めた補正の求め(行手法第7条)などの重要性は低くなるかもしれません。
一方で、「届出」として定められている「必要な書類が揃っている」、「定められた様式で届出が記入されている」など、形式上の要件を満たす届出が役所に到達した時点で手続上が完了する(行手法第37条)という考え方は重要視され、「申請」という概念自体が無くなる可能性すらあるかもしれません(ただし、裁量権の有無という違いは依然、必要とも考えられます)。少なくとも、形式の充足面の重要性が増すことは間違いないでしょう。

これまで触れたようにデジタル化後の行政手続きには、申請システムの標準化をはじめ、ベースレジストリや民間データべ―スなどが相互連携することで、従来からあった行政窓口にある「対面受付」、「書類の受領・受理」、「補正指示」などのプロセスが不要になります。
従来の橋渡し役に意義があったのは、その手続きに関して「知識を持たない個人」と「特権と豊富な知識をもつ組織(行政)」の間を仲介する機能が重要であったからであり、また煩雑化された手続きに関する事務作業を代わりに解消するという点に依頼する動機があったからです。


行政手続きデジタル化により、これら「不足する知識や経験を補う」必要も、「事務作業を代わりに頼む」必要も無くなるのであれば、どんなに「品質」、「信頼」、「安心」、「親しみやすさ」を打ち出そうとも、その行政書士には何の価値も無くなります。

そして行政書士はこのような状況を生み出すデジタル化の基盤整備に反意を示すのではなく、国民がより迅速に、確実に、透明性をもった簡易な手続きの恩恵が受けられる社会を歓迎すべきです。
つまり、デジタル化後の行政書士業務は変わらざるを得なくなり、既存の行政書士像に捉われず、新たな行政書士業務を模索しなければなりません。

その考えの一つとして、以前に書いた下記の記事なども一読頂けると幸いです。

「ダブルハーベスト」士業的観点で読む

https://note.com/hatlegal/n/nbb5a45e50e92

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