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初めての株式譲渡契約。スムーズな契約締結のためのリーガルチェックポイント

こんにちは。弁護士・ビジネスコーチの波戸岡光太です。
 
会社の規模拡大や組織再編、事業承継などさまざまな目的で利用される株式譲渡。仕組み自体は複雑ではないため、中小企業のM&Aにおいて多く用いられています。
 
経営者が初めてM&Aで株式譲渡を行う際、契約の話が進むにつれて不安を感じ、ご相談をいただくケースがあります。そこで今回は、株式譲渡の際に確認しておきたいチェックポイントをお伝えします。 


弁護士が教える株式譲渡前のリーガルチェックポイント

後になって後悔しないために、株式譲渡契約書にサインする前にチェックしていただきたいポイントは、6つあります。

1.契約締結後に引継業務に関わる期間は決まっているか

契約締結後の一定期間は無償で引継業務にコミットするけれど、それ以降は有償での業務にするなど、引継業務に関わる期間は明確に設定しましょう。
 
引継業務に携わる期間は、ケースによりますが、数ヶ月間ほどかかることがあります。場合によっては、予想以上に時間と手間が掛かり、手離れできなくなることも。そうなってしまうと、いつまでも無償で働かざるを得ない事態も起こりかねません。

2.引継業務で行う業務内容は決まっているか

引継業務で行う業務内容についても、事前に取り決めておきましょう。
 
引継業務に従事する期間を決めたとしても、いざ業務が始まると、想定以上の煩雑な業務が発生する場合があります。そのため、事前に今後とり行うべき業務について洗い出して、譲渡金額の中で対応する範囲について線引きをつけておくべきでしょう。

3.連帯保証を外す段取りはできているか

連帯保証人を譲受人側に切り替える手続きを踏んでおくことを忘れないようにしましょう。
 
経営者が会社の債務(金融機関からの借り入れなど)の連帯保証人になっているケースはよくあります。連帯保証は、あくまでもあなた個人と金融機関や賃貸人との契約です。株式を譲渡して会社を離れても、自動的に借り入れや賃貸借契約の連帯保証が外れるわけではありません。

4.代金が分割で支払われる場合、スケジュールは決まっているか

譲渡代金が分割で支払われる場合は、支払期日を決めておきましょう。
 
譲渡代金が一回払いで完了する契約もあれば、数回に分けて支払われる場合もあります。数回に分ける場合は支払の期日をあらかじめ決めておかないと、支払いまでの間、「いつ支払われるのだろうか」などと、無用なストレスを抱えることにもなりかねません。

5.現在の取引先へのケアはできているか

取引先との仕事においては、契約条項に株主構成や組織変更が契約の解除事由として盛り込まれていることがよくあります。ですから、取引先にも株式譲渡について説明し、譲渡後も問題なく契約関係が続くことの意思確認を予めしておくことが重要です。

6.表明保証条項に不安な内容はないか

表明保証条項とは、株式譲渡契約に際して株式譲渡人が「事実として開⽰した内容が真実であり、かつ、正確であること」を表明し、譲受人に対して保証することです。譲渡後、表明保証した内容が事実ではなかった場合、譲受人が被った経済的損失を譲渡人が賠償する責任を負うこととなります。
 
例えば、従業員から退職に伴うトラブル、残業代の未払請求がされるなど、譲渡後にトラブルが発覚すると、譲渡代金を返還や、賠償問題に発展したりしかねません。そうならないためにも、不安要素がある場合は予め解決しておく必要があるでしょう。

懸念点は株式譲渡契約締結前にクリアにしておこう

株式譲渡を行う際は、契約書だけでなく、契約の話が進むにつれて、「このまま株式譲渡を進めてしまって大丈夫だろうか、見落としていることはないだろうか」と不安になる方もいらっしゃるかと思います。
 
そのような場合は、仲介会社に質問して構いません。多くの場合、株式譲渡人と譲受人の間には仲介会社が入っており、不安や疑問点は仲介会社に質問をすることで済むことが多いものです。
 
「こんなことを確認したら相手の心証を悪くしないだろうか」と考え、質問をためらってしまう経営者の方もいらっしゃいますが、疑問に思ったことは全て株式譲渡契約を締結する前に確認しておくべきです。なぜなら、そのままにしておいたところで「時間が解決する」わけもなく、むしろモヤモヤが膨らみ、不安は強くなるばかりだからです。
 
仲介会社は、株主譲渡契約を成立させることをゴールとしていますから、よっぽどな問題でもない限り、契約が破談にならないように配慮しながら進めてくれることが多いです。ですから、懸念事項がある場合は、遠慮せず自分から積極的に働きかけることをおすすめします。

社内へは会社や社員のメリットを説明しよう

 株式譲渡の際は、譲受人だけでなく、社内への配慮も必要です。
役員への説明不足で譲渡後にトラブルになった事例をご紹介します。

株式譲渡の経緯を役員に詳しく説明しなかったため、組織が分裂

以前からの大口の取引先からシステム開発部門を内製化したいという理由でM&Aの提案を受けていた、IT企業の事例です。
 
提案を受け、20年以上経営を続けてきた社長は、取引先の傘下に入った方が安定して社員を長く守っていけると判断し、売却することを決意。着々と話を進めていました。
 
ところが、です。
役員の一人には話が大方決まるまで何も伝えていませんでした。なぜなら、この役員がM&Aに反対する気がしていたからです。案の定、予想は悪い方向で的中しました。
 
M&Aが進んでいることを伝えると、「秘密裏に進めるなんて許せない。社長だけお金をもらって逃げるようなものだ」と、「社員のため」という社長の意図は全く伝わりませんでした。役員は一旦は株式譲渡を受け入れ、半年ほど新体制下で働いていましたが、結局、社員を引き連れて独立する騒動に発展してしまいました。
 
なぜ、このようなことが起きてしまったのでしょうか。
 
株式譲渡は会社の主要メンバーや従業員に「会社にとってメリットがある」、つまり「社員のためでもある」ということを理解してもらうことが重要です。なにも社長の利益のためだけに選択している訳ではないということを、適切に伝えなければならず、会社の主要メンバーや従業員としっかりコミュニケーションを取る必要があります。
 
今回のケースでは、役員のひとりとのコミュニケーションを避けてしまったこと、そして、役員と従業員にメリットをしっかり伝えられなかったことが、このような騒動を引き起こす原因となったのです。
交渉段階では契約内容はもちろん、交渉していること自体、口外できない取り決めになっていることがほとんどです。ですから告知をするタイミングで、なぜ株式譲渡が必要なのか、社員にとってどのようなプラスがあるのかをしっかり説明することが、円滑に譲渡を進めて完遂させるために必要です。

まとめ

株式譲渡関連のトラブルは、懸念点を先延ばしにしたり、コミュニケーションミスから起きることがほとんどです。前述のような問題やトラブルが起きないよう、逐一、株式譲渡契約書を確認検討しながら進めていきましょう。
 
双方にとって円満な株式譲渡を完了させるためには、細かいことでも確認し、譲受人や譲渡人ともに、意図を明確に伝えることが重要です。
「細かすぎると思われないかな」
「譲渡の話が破談にならないかな」
という不必要な心配が、後々大きなトラブルの火種につながりかねないことを知っておいていただければと思います。
 
私はこれまで、中小企業経営者のために、事業承継やM&A、株式譲渡などの法的アドバイスや対外交渉、リーガルチェックを行ってきました。譲渡契約では、無事に適切な譲渡契約が完了できるのか、初めての譲渡契約でトラブルに巻き込まれるのではないかと不安に思う方は数多くいらっしゃいます。
 
私は弁護士であると同時に、ビジネスコーチングスキルを備えています。ご相談いただければ、まずは不安に感じている部分をすべて洗い出し、それを整理して、仲介会社や他役員、社員とのコミュニケーション方法を一緒に考え伴走します
 
納得のいく将来に向けて真摯にサポートする弁護士をお探しの方は、ぜひご連絡ください。
 
 https://hatooka.jp/index.html


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