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泥の河 宮本輝 感想

泥の河の感想
ネタバレ注意
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 導入がひきつけるのが読ませる小説の一般的な方法論であり、この作品もそれにのっとっているようで、主人公の信雄と親しくしていた戦争帰りの男性が、リアカー事故の被害者となる。
 その後、売春で生計を立てている、船の家に住む家庭が家の近所にたどり着く。喜一と信雄は友人関係を築く。
 この小説で注目すべきは、喜一の反社会的な行動である。親がパンパン、つまり売春婦であり、父親がいないとみられる喜一の情操は、おおよそ一般的でない。河から引き揚げた沢蟹を油に漬けて着火する、祭りの中でロケット花火を盗む等、喜一は一般的な倫理観を持ち合わせていないと受け取れる。なぜかというと喜一は教育を受けていない。学校に通えていない。
 この記事を書いた時点で読み終えたのは、泥の河のみで、連作である蛍川はまだ読んでいない。信雄は新潟の地で、喜一との経験をどう活かすのか。とか思わないでもない。

 事件、新しい出会い、印象に残る場面、別れ、主人公の内面の挫折経験や内面の成長と、典型的な物語の作られ方をしている。純文学は方法論を守らなくてもいいというのは私の思い込みだったのかもしれなく、創作の転換期が起こるかもしれない読書経験になった

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