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新宿ゴールデン街、はじめました。


「いつからゴールデン街来てるの?」

カウンターで飲んでいると何度も飛んでくる問いである。

それに対して毎回説明しているのだけど、少し面倒になってきたのと、「ゴールデン街についてのエッセイを書いているので読んで下さい」と、軽やかに返せたほうが物書きとしてはしっくり来る。

何より、ゴールデン街での代えがたい経験をそのまま記憶の中で風化させてしまうのはもったいない。ほとんどの人は、心の中にしまっておくのだろうけど、ぼくは物書きなのでどうしても書き残したくなる。もしかしたら、とんでもない野暮なことなのかもしれないが、散乱した記憶を何とか寄せ集めながら、綴って行こうと思う。


新宿ゴールデン街という古い汚れた街で

たまたま隣に座っただけのまったく知らない人達と

酒を飲み語り合う

そんな騒がしくも幸福な黄金色の時間について


新宿ゴールデン街とは


新宿ゴールデン街とは、歌舞伎町のすぐ隣の一等地にある古い飲み屋街である。2000坪程度の敷地に300店舗程度が密集し、独特の雰囲気を醸し出している。

戦後の闇市に端を発し、非合法の売春が行われていた青線地帯や、その後のゴーストタウン化などを経て、現在の飲み屋街に至っているという。文化人が集まる街としても有名で、一覧を見て個人的に嬉しく思ったのは、映画監督の園子温さんと、声優の緒方恵美(新世紀エヴァンゲリオン碇シンジ役など)さん。

園子温監督のTOKYO TRIBEという映画は、ゴールデン街的な世界観を拡張させたディストピアとしてのTOKYOを描いている。ぼくは、この映画を見た後にゴールデン街にはまり込んだのだが、まさしく「飛べ飛べ空飛ぶ女の子!」の世界であった。園子温監督が見ていた世界が、目の前にそのままあった。

他にJリーグサポーター界のレジェンド、俳優の大杉漣さん(故人)、同じく俳優の佐野史郎さん、斎藤工さんなど。

詩人の俵万智さんも働いていたことがあるそうで、隣に座ったおじさんがサインと一緒に詩を書いてもらったことがあると言っていた。「これってすごく贅沢な話だよね」とニコニコしていたのが印象的だった。

そんなゴールデン街について、ぼくがどんなところに魅力を感じているのかについては、書き進める中で少しずつ紹介していこうと思うのだが、今言えるのはこのくらいである。

ようやく見つけた自分の場所——。



縁がなかった新宿ゴールデン街


新宿ゴールデン街の存在をずっと知らなかった。ただ、知っていたとしても敷居の高さを感じてしまったかもしれない。

一度、新宿のラーメン屋を探しているときに、ゴールデン街の中にある煮干しラーメンのお店があることがわかった。もっとも、その場所がゴールデン街とはよくわかっていなかったのだが。

昼頃に、迷宮のような古民家街を歩きながら、こんなところにラーメン屋があるわけがないと諦めて離脱したのを覚えている。そのラーメン屋はまだ営業していて、深夜でも行列が出来ている。名前を「すごいにぼしラーメン凪」という。夜半過ぎにラーメンを食べるような年齢ではないので、まだ入店したことはないのだが、いずれ行ってみようと思っている。

情報によると24時間営業らしい。20種類以上の煮干しを使ってこれでもかというほど出汁を取ったラーメンとのこと。

ゴールデン街の存在を知った後も、敷居が高く、とてもじゃないが一人では行けない場所という印象があった。

ぼくは飲みたいだけなのだ

一方でぼくは、一人飲みをする場所を常に探していた。何度か一人で焼き鳥屋などに入ったことがあるのだが、次々と運ばれてくる料理を食べ続けていると退屈さを感じる。スマートフォンや本がなければとても耐えられない。

ぼくは、食べたいのではなく、飲みたいのだ。

そう考えた時に、手軽に行ける場所がなかった。もちろん、オーセンティックなバーなどに行きつけを持つという選択肢もあるのだが、予算が高くなること、年中デニム族の自分としてはお店の雰囲気とフィットしないことなどがあって敷居が高く感じるのである。

また、バーのマスターとの会話も、楽しくはあるのだが少し落ち着きすぎている。時には空気を読まずに話しかけてくるようなマスターがいても良い。

何よりオーセンティックバーに対して物足りなさを覚えるのは、不測の事態が起こりづらいところなのかもしれない。もちろん、気持ちを落ち着けてくつろぐためには必要なことかもしれないが、ぼくが望むのは「想像した以上に騒がしい未来」なのだ。

そういう意味ではキャバクラやガールズバーなどは近いのだが、疑似恋愛を商売としているため、こちらは疑似恋愛のためにお金を払うことになる。

ぼくは恋愛がしたいのではない。飲みたいのだ。

とすると、スナックがかなり正解に近い。スナックとは大人の社交場であり、お店にもよるがそれほど予算もかからず、疑似恋愛のためにお金を取られる割合も小さい。ただ3つ問題があった。まずはどこにあるのかわからないという問題である。

スナックは町中に散り散りに存在していて、ネット上の情報などは少ないため飛び込んでみる以外に内情を知る方法がない。玄人はとりあえず飛び込んでみて開拓するらしいのだが、ぼくにはそのバイタリティがなかった。

また、地元のスナックに押し寄せるお客さんを見ていると、基本的にはガテン系の人が集っていて、ぼくのような文化系の人間がくつろげるコミュニティには到底思えない。もちろん、他の街までわざわざ探しに行けばいいし、これは今後の課題としたいのだが、今のところは至っていない。

最後に、カラオケである。スナックといえばカラオケが常に鳴り響いている印象がある。ぼくはあまり耳が良くないため、カラオケが鳴っている空間ではうまく会話が出来なくなる。また、常に歌に意識を取られるため落ち着かなくなってしまう。

ぼくは、歌いたいのではない。飲みたいのだ。

ただ、話はしたい。

知らない人とでもいいから、何気ない会話をしながら、ゆっくりとハイボールを飲み進めていきたい。

そんなぼくにとって、ゴールデン街はユートピアであった。

ほとんどのお店にカラオケはなく、ほとんどのお店は疑似恋愛ではないため余計なお金を使わなくてもいい。貧乏な学生や表現者も集まるので服装にも気を遣う必要はない。

そして適当に腰掛けると誰かしら話し相手がいるので、スマートフォンなど触っている暇がない。もし話が合わなければ次のお店へと旅立てばいいだけなのだ。

個性溢れるお店が約300店舗も集まっていて、場としての魅力を発揮しているのも素晴らしい。

太陽が沈み、夜の神が訪れると、ここかしこから煌々と明かりが漏れ出て、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

映画『千と千尋の神隠し』では、夜になると不思議な飲食店街が現れる。あんな場所をずっと探していた。そっくりそのものが東京にあるとは思わなかった。


突然、ゴールデン街の一日店長に?!


そんな街のことをまったく知らない頃。ライターの同業者である こまきたさん(@twitter)から「一度ゴールデン街で飲みましょう」というお誘いを頂いていた。

こまきたさんによると、うとうとというお店で、横浜F・マリノスサポーターの女性が店長をしている曜日があるのだという。いつかは行こうとは思いつつも、なかなか調整がつかずにいた。

そんな中、クリレコの収録時に、日本一クリエイターに優しい税理士の大河内薫さん(@twitter)から、ゴールデン街で一日店長が出来るお店があるという話を聞く。

【クリレコ】
noteで展開しているラジオ番組。クリエイターレコーディングの略。漫画家のあんじゅ先生(@twitter)、作家の中村慎太郎(ぼく)、作詞作曲家のナツメリュウイチ(@twitter)で、毎月一回物作り関係の進捗と体重の増減を報告し合っている。

クリレコチャンネル


あ、これだな。

そう思った。どうしてだろうか。ただの勘なのだが、それは間違っていなかったらしい。

すぐに無銘喫茶さんに連絡を取り、一日店長の資格を得るための見学会の予約をした。この時点ではゴールデン街で飲んだことはなかったのだが、こまきたさん から魅力を説かれていたことが効いていたようだ。

ゴールデン街への扉が開かれようとしている。

客としてではなく、営業側として——。

続く



お読み頂きありがとうございます。ふらりと始めたこの企画。継続していこうと思っておりますが、飽きっぽい性分なもので続けられるかははっきりとしていません。ゴールデン街の魅力を伝えるため、基本的には無料公開していこうと思っております。もし、この企画が今後も読みたいという方がいらっしゃいましたら、是非サポートをお願いします。

ゴールデン街価格のチャージ500〜1000円か、ハイボール700円くらいだととても嬉しいです。是非よろしくお願いします。

頂いたサポートはすべてゴールデン街の飲み代にします。


書いた人:中村慎太郎 
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中村慎太郎 旅とサッカーを紡ぐOWL magazine

作家・Youtuber。偏差値30からの大学受験を経て東京大学文科Ⅱ類(経済系)→文学部に進学(宮沢賢治の生命観)→大学院は理転して農学系(アワビ類の行動生態および繁殖生態の比較)→自主退学しスポーツ系の物書きに。著書『サポーターをめぐる冒険』がサッカー本大賞2015を受賞。

新宿ゴールデン街、はじめました。

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コメント1件

私もゴールデン街には長くお世話になってます。最近は足が遠のいてますが、30代のころは主に5番街に入り浸ったいました。味のある街ですね。また行こうかなぁ
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