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空城の計


 「蓋をあける」というのは、それまで動きのなかった状態に変化を生じさせるということだ。火蓋を切るとか、堰を切るとか。つまり、これは開戦状態であると同時に、開栓状態ということだ。けれど、俺たちはそういう状況にありながら、あたかも非戦闘状態であるかのように装って、仲間のために密かに戦争行為をつづけなくてはならない。すなわち、密栓状態ってことだ。
 そういうと、古びた木製のテーブルの対面に座る高垣は、空になった麦酒の瓶を気だるげにふってみせた。
 気を利かせて何だか面白いことを言おうとしているのだろうが、笑える状況ではなかった。いや、こういうときこそ笑うべきなのだろうか。しかし、いままで生きてきた中で、そんな訓練など受けたことはなかった。
 とめどなくふきだす変な汗で、褪せたシャツは鍋の底に沈んだ白菜のようにくたくたになっていた。

「なんだよ。笑えよ」
「笑える状況かよ」
「死にてえのかよ」
「笑えるぜ」

 どうあっても勝ち目のない状況をハッタリで切り抜けようとしているうえに、作戦を思いついた当の本人は、妙に自信ありげだ。剛胆といえば、きこえはいいが、所詮は多勢に無勢。無謀もいいところだ。

「勝ち筋はあるのかよ」
「無ければ賭けたりはせんよ」

 高垣が片方の目を細めながら、笑っているのか困っているのか判別のしがたい奇妙な表情を見せた直後のできごとだった。
 どこからともなく飛来した複数の円筒形が周囲に転がり、即座に薄鈍色の煙を展開した。
 咄嗟に地面に伏せ、自分がまだ生きているのかも分からない状態であたりを見渡すと、煙の中には無数の人影があった。


まったくゼロの状態から、キーワードだけ決めて2、3時間で何らかの物語を考える訓練。キーワードは日常生活のなかで、たまたま目についた単語。

#有坂初荷の創作試練
#無茶なお題で己の創作技能を試す
#お題小説

キーワード
「薄鈍色」、「開戦(栓)」、「密栓(戦)」

抽出元のプロダクト
○ジョーキュウあごだしつゆ_JAN[4978899593759]
「開栓後は密栓して冷蔵庫に保管し、お早めにお使いください」

○日本の名湯(別府)_JAN[4548514153769]
「立ち上る湯けむりと、レトロな温泉街を想わせる薄鈍色(うすにびいろ)のお湯」


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