為替介入の基礎②:口先介入(レートチェック、3者会合等)

今回も為替介入の話題です。下記を前提に記載し、適時、アップデイトします。
為替介入の基礎:覆面介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)

現在、政府が市場に為替介入を実施することを示唆しています。これを口先介入といいます。このまま円安が進むなら、介入をするぞなどとマーケットにメッセージを発することで、望む方向にマーケットを誘導するわけです。市場参加者の中には、鈴木大臣や神田財務官の発言の経緯を細かく追っており、介入のタイミングを推測するという分析もしているようです。

口先介入についてはバリエーションがあります。鈴木大臣や神田財務官が最近ではマーケットに発信していますが、 例えば、鈴木大臣が本日の報道で「過度な変動があれば、あらゆる手段を排除することなく適切な対応を取る」と発言していますが、口先介入の典型ともいえます。
過度な為替変動にあらゆる手段排除せず、昨年来安値-鈴木財務相(Bloomberg) - Yahoo!ニュース

これ以外にも、口先介入の典型として、いわゆる財務省・金融庁・日銀3者会合というものもあります。これは、財務省・日銀・金融庁で実施する介入前の儀式みたいなものです。昨年の9月の介入時には、2022年9月8日に三者会合(国際金融資本市場に関する情報交換会合)を実施しており、下記のようなメッセージを出しています。

神田真人財務官は8日、最近の円安進行は「明らかに過度な変動」とした上で、政府としては「動きが継続すれば、あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応を取る準備がある」と述べた。
過度な為替変動に「あらゆる措置排除せず必要な対応」-財務官 - Bloomberg

もっとも、三者会合が実施されたからといって介入がなされるとも限りません。例えば、下記の通り、今年の5月にも3者会合が実施されていますが、この時はその後介入がなされていません。また、昨年の2回目・3回目の為替介入時、(筆者が理解する限り)この会合は実施しておらず、介入を実施するうえでこの会合があるとは限りません。
財務省・金融庁・日銀3者会合 為替変動「適切に対応」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

口先介入として、上記より強いメッセージは、いわゆるレートチェックと呼ばれるものです。日経では「為替介入の準備のために市場参加者に相場水準を尋ねる」ことと説明していますが、レートチェックは昨年は9月14日に実施されています。為替介入を発動するための準備をしているぞ、とワーニングを発するわけです。下記の日経の記事では、口先介入の水準の度合いを整理しており、
止まらぬ円安、日銀のレートチェックって何? - 日本経済新聞 (nikkei.com)

「コメントなし」
→「急変動は望ましくない」
→「あらゆる措置を排除せず必要な対応をとる」
→「レートチェックの実施」

という段階で市場へのメッセージを整理しており、レートチェックを介入前の最も強いメッセージとして整理しています。日経の記事では口先介入の度合いについて下記のような図を用いています。

レートチェックを行うと、少なくとも昨年は一瞬1円近く円高になったことから市場参加者も警戒しています。もっとも、私が理解する限り、覆面介入を実施した2回目・3回目は、レートチェックをしていません。次回介入がなされる場合、どうなるかはわかりませんが、レートチェックなしでも介入が実施される可能性がある点に注意してください(昨年の経験では覆面介入であればレートチェックなしでも介入してくる可能性があるとみることもできるでしょうか)。いずれにせよ、いよいよ介入がありそうで、予断を許さないというところでしょうか。

口先介入についても、手元の国際金融の教科書ではほとんど記載がないように思います。したがって、これについても追記します。

日銀が実施した「レートチェック」とは? - 日本経済新聞 (nikkei.com)

なお、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。

外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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