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私が夢女だった頃(あるいは嫌われ夢女の一生)

今までのnoteで散々「恋愛感情がわからない」「ヘテロセクシュアル気持ち悪い」などと言い散らかしている私であるが、実はそのような記事をしたためながらいつも良心の呵責のようなものに苛まれていた。
というのも、30年と少しの生涯の中で、一度だけ「あれは激しい恋だった」と呼べるような経験をしたことがあるからだ。

ただし相手は実在しなかったのだが。
そう、私は夢女であった。それもとびきり面倒臭いタイプの。

ご存知ない方のために説明すると、夢女(あるいは夢女子)とは、二次元キャラと自分の恋愛を空想して楽しむ類のおたくのことを言う。

ここからは私の実体験を振り返ることになるが、そのお相手のことをここではAと呼んでおこう。誰であったかを明かさないのは決して照れ臭さや恥ずかしさのためではない。
例えば万が一私が第三者としてAを名指しで書いている夢女のnoteを見つけたとしよう。さすれば私は捨て垢を80個作ってそのnoteに容赦ない中傷コメントを書き続けるであろうから。夢女がそのようなポテンシャルを持った存在であるということを、私は自らの経験から知っている。

※全ての夢女がそこまで殺意にまみれた存在であるわけではもちろんなく、穏当に恋愛と空想を楽しんでいる方が大半であるということは急いで付け加えておきます

(名前を伏せるとは言ったものの以下書いていくAの人物描写には特にフェイクを入れない。ので、わかる人にはすぐわかると思うのだが、まあ黙っといていただけるとありがたいです)

さて、時系列順に語っていこうと思うが、私がいつAに執着心を持ちはじめたのか、実はよく覚えていない。Aは某少年漫画の登場人物で、物語上割と重要な立ち位置ではあるものの主要人物というほどではない。どちらかというと、Aと最も因縁深い別のキャラが推しだった(今も推しである)。毎号更新されるしんどすぎる推しの境遇に心臓をきりきり痛め転げ回るようにして生きていたことははっきりと覚えている。

それがいつからだろう、私はどうやら恋に落ちていた。いや、Aは初登場時からなかなか面白い奴だったので、気になる存在ではあった。推しとの関係性も含めて注視しているキャラではあった。それがどうして以下に書くような事態に発展したのか、本当に記憶がないのだ。

とまれ、私の夢女としての最初の記憶はおたくの知人たちとの酒を交えた夕食の席である。どういう流れでそういう話題になったかも全然覚えていないのだが、退席時間も迫ってきたという頃、私はほとんど泣きながらAへのクソ重い思いの丈を吐露していた。そして帰宅後ツイッターのアカウントを作った。Aへの気持ちをぶつけるためだけの。

自覚してからはそれはもう転げ落ちるようだった。
中身がないなどと内心小馬鹿にしていたJ-POPのラブソングで泣いてしまう。会いたくて会いたくて震える。
中でもキツかったのは、世の中の女性が全員私とAを奪い合う敵に見えるということだ。彼女ら(あるいは彼かもしれない)が同性愛者であるとかアセクシャルであるとかいう可能性は私の頭の中から消えた。夢女人格がポリコレ棒ぶん回しレズ人格を完全に殺した。そして世の中の、これもやはりどこか小馬鹿にしていたシスヘテロの人々に深い敬意が生じた。みんなこんな苦しい思いに耐えているのか。
私は地球上の、約35億の女性たち全員に打ち勝たなくてはならない。彼女らの誰より美しくあり、Aに選ばれなくてはならない。そのプレッシャーは凄まじく、道ゆく女性がみな恐ろしかった。なぜなら私は決して美しくないし、愛されうるほどの人格者でもないからだ。もう全員殺すしかないのではと思いつめたのも決して冗談ではない。

さらにしんどさに追い討ちを欠けたのは、私とAの年齢の差だった。当時Aは高校三年生、私は24歳だった。大人の女性と言えば聞こえはいいが、高校生から見て20代半ばなどただのババアである(多分)。対等な関係性など築きうるべくもない。私は生まれ年を呪った。せめて同年代であったならと呻いた。

そんな葛藤の末に私はAと同棲することに成功したのだが(※空想です)、生活はすれ違いまくっていた(※空想です)。同じ屋根の下に暮らしているにもかかわらず(※空想です)顔を合わせるのは週一がせいぜいで(※空想です)、たまに会話ができたと思えば元来口の悪いAから出てくるのは私への罵倒ばかりである(※空想です)。それでもやることはやっていた(※空想です)。

経済活動にもちょっとした変化が出てきた。それまでドラッグストアの廉価な化粧品ばかり買っていたのだが、いわゆるデパコスに手を出した。美しくなるためではない。Aに「ブスの癖に化粧に気を使って馬鹿じゃねえの」と罵られたいがためだ。

そう、私はAと結ばれても少しも幸せではなかった。
他所に女の気配はするし、愛の言葉の一つも聞いたことがなかったし、要するに全く愛されていなかった。恋人どうしと言うよりはヒモとその飼い主だ。だって家事は私が全部やっていたし食費も全部私持ちだったし…(※空想です)。
だがそれでも、私はAと居たかった。幸せは他所にあるのだろうとわかっていながら。
私がもっと可愛かったらどんなに良かっただろう…こんな、金髪のクソサブカルアマじゃなくて…黒髪ロングで身長148cmくらいで口下手でちょっと天然だけど純真な…そんな女子であったなら…とかそんなことばかり考えていた。
けれど私はそうではない。Aは私のような女など好きではない。仮に私のことを好きだとして、そんなAはAではない。だってそういう奴だもん!原作読んでたらわかるんだよ!!

取り乱して申し訳ない。Aの好みに合うように自分を変えられない自分の我の強さが、心底嫌だった。
(ちなみにその後公式からAの好きなタイプが公開されたが、なんだか微妙に当てはまってるんだか当てはまってないんだかという感じだったので私は少し救われた。もしもっと具体的だったら私はそのような女目掛けて全てのアイデンティティを放り投げていただろうから)

でもAも悪いのだ。
口も悪ければ性格も悪く、プライドは高いが根性はなく、癖は舌打ちときている。おまけにワンチャン二次元にしか興奮しない疑惑まである。そんな男とくっついて幸せになれるというのだろうか?いやなれない(反語)。同じ作中だって他に女を幸せにしそうなキャラはいくらでもいる。性格が合いそうなキャラもしかりだ。
そもそもからして全然好みじゃない。私はもっと目鼻立ちがはっきりした顔がいい男が好きだ。吉沢亮とか。だものだからAみたいな無個性なぼんやりした顔面は全然好きではないし、そもそも美形かというとそうでもない。
美点はと言えば背が高いことぐらいである。いやでも進学校在籍だし頭もいいんだよな…多分関関同立くらいはいけるんだろうな…公務員とかになりそうだな…うわっ三高じゃんか…むかつく…

なんだかほとんどAへの罵詈雑言だが、全て本心である。褒めるところなどないし、よしんばあっても褒めたくなどない。癪だからだ。だから当時もTwitterでめちゃくちゃ言っていた。口を開けばAをdisっていた。そしたら匿名質問で「Aのこと好きだって言ってれば許されるんだと思ってるなら悪口言うのやめてください」という強火のメッセージをいただいた。割と普通に凹んだ(ので、今でも匿名系のサービスは怖くて使えない)。

そこまで言うならやめてしまえよそんな男、と思われるだろう。私だってもし親しい友人がこんな悩み方してたらやめなよ!!!と全身全霊で止める。
でもAなのだ。他に幸せになれる道があろうが、Aが私を愛さなかろうが、それでも私にはAしかいない。これが恋でなくてなんであろうか。

それで私はAへの愛憎を、冒頭のほうで述べたA専用のアカウントで垂れ流し続けた。最初は同席していた知人がフォロワーだったが、そのうち発言がどんどん不穏当になってきたのでブロックして、フォロワー数0のマジの壁打ちアカウントになった。
そこで私は書き連ね続けた。Aの子泣きながら堕ろしたいとか言い続けていた。
あと仕事するフリしながら「A名義で自分に指輪を贈る術はないか」についてずっとググっていた。現実的に出来そうな手段はなかった。泣いた。

さらに話をややこしくしているのは、私が腐女子でもあったということだ。最初の方で言っているが、Aと推しには浅からぬ関係があり、当時の推しCPはA×推しだった。
でも私は夢女なのだ。しかも同担拒否の夢女だ。だから私は、推しからAを奪還しなければならない。
しかし推しはいろいろな意味で強キャラなので、こんな無芸な24歳(当時)が敵う相手では到底ない。私は推しCPの受け(しかも推し)にAを奪われた。だから推しCPが地雷だった。
A×推しはそれなりに人口の多いCPであったので、オンリーイベントに行けばA×推しのスペースの一帯がある。私はそれを遠目に見て、飾られているポスターを見て動悸息切れを起こす。だが推しCPなのだ。読みたい。本は欲しい。でも私を差し置いてくっついている推しCPは憎い。
なので心因性体調不良を押して命からがら本を買うだけは買った。今もクローゼットの薄い本収納スペースにはA×推しの本がたくさん眠っているが、いまだに一冊も読めていない。

…何かおかしくないか。何か間違っていないか。

私はこの件を除いて恋愛らしきものの経験が全くない。だからわからないのだが、なんか、想像するに、恋愛ってもっとこう、幸せなものなんじゃないのか。
恋煩いという言葉があるくらいだ、もちろん幸福なことばかりではないのだろう。でも私患ってしかなくない???
事実知人の夢女さんはもっと幸せそうに恋愛を楽しんでいる、ように見える。お相手と相思相愛でとてもハッピーに見える。

そして一番始末に負えないのが、ここまで一人の人間が苦しんでいるにもかかわらず、その相手が実在しないということだ。これが悲劇でなくてなんなのだ。
だから私は定期的にぼろぼろ泣きながら、「Aが実在しない…」と友人にLINEを送っていた。いい迷惑である。

さて、このあまりに虚しい恋愛感情もどきであるが、実はまださっぱりなくなってなどいない。普段はなりを潜めているものの、ふとした拍子に私の精神を侵食してくる。というわけで最新の夢がこちらです。

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