男の心意気


365分の1

 髙谷裕亮、吉川輝昭、肘井竜蔵、パヤノ。
 唐突に挙げた4選手に、「全く共通項が浮かばない」と答えるのが普通だろう。

 彼らは、筆者と同じ11月13日生まれなのである笑。
 しかも髙谷が2016年あたりまで登場曲に使用していた楽曲はソナーポケットの「キミ記念日~生まれて来てくれてアリガトウ。~」。私にとってはバースデーソングの定番メロディーである。

 そんな、人一倍11月13日に思い入れの強い私が、現役引退となった髙谷選手に感謝と労いの意を、拙文ながらこのブログに込めたい。

苦労人

 まさしく「波瀾万丈」の野球人生だった。

 プロ入りを目指し富士重工業に進むも、膝痛と腰痛に悩まされ、退学。目標を失いかけたがそれでもプロ野球への情熱を捨てられず、1年の浪人生活を経て、一般入試で地元栃木の白鴎大に入学。

 熱い想いが実を結び、関甲新リーグ・ベストナイン4度などの実績で2006年大社ドラフト3巡目で指名され、ようやく夢の扉を開いた。

城島去りし後の正捕手候補

 ここからが、私が野球を観始めた頃の話である。(まだ谷を「ヤ」と読めず「タカタニ」と読んでいた、小学校低学年わんぱくバカだった当時の記憶を頼りに)

 私が野球にのめり込んだのは王監督最終年の2008年。城島健司(現・特別アドバイザー)はもうとっくに海を渡っていた。
 この頃のホークスは、とにかく正捕手が定まらなかった。同年は山崎勝己、的場直樹、そして髙谷のポジション争いだったが、誰が出ても打撃の方でなかなか苦戦していた印象だ。

 髙谷は肩の強さにこそ定評があったものの、バッティングでアピールできず、正捕手の座を掴む人生最大の機会を活かし切れなかった。

転機

 そんな中で翌年、田上秀則が大ブレイク、2011年には細川亨がFAで入団。他方で髙谷は、1軍出場僅か12試合と出場機会は激減していった。
 主戦場は、ファン感謝デーでのモノマネ披露。髙谷にとって長い長い闇の時代を迎えていた。

 だが、監督交代を機に髙谷の運命が一変する。
 2015年4月3日、8回表2死満塁で増田達至から逆転の走者一掃タイムリー2ベース。

https://youtu.be/ZTvfqP2WKCg

 ようやくスポットライトが当たり出す。

 私が現地で観たのは、5月31日のヤクルト戦、7年ぶりの1発。意外性のある打撃が炸裂する場面も多く見られた。

https://youtu.be/-KHrt6q4-rE


 9月17日の優勝決定試合では、晴れて「胴上げ捕手」となったのも髙谷だった。

 2017年以降は「第二捕手」として、甲斐拓也のリードの模範となり、更に輝きを増した。甲斐は独り立ちして行き、一方で髙谷も円熟味の増したリードで投手陣から絶大な信頼を得た。

 翌年の日本シリーズでは盗塁1つをきっちりと刺し、甲斐と共にカープの武器である足を封じた。

膝のケガに抗いながら

 晩年は故障との戦い。肘のクリーニング手術に、膝の古傷も悪化。
 傷だらけのその体でも「抑え捕手」という難しい役割を担い、攻守に輝き放つ。

 若手時代の髙谷とバッテリーを組んだ経験のある斉藤和巳は、「抑え捕手はベストポジションだった。ベテランになり、控えとして生きる境地に至ってから感覚が研ぎ澄まされた」と評する。

 最後の煌めきとなったのは、2020年9月12日だろうか。S15イエローユニフォームが来場者に配布されたこの日は「鷹の祭典」ならぬ「髙谷の祭典」となった。第2打席に描いたアーチが現役生活最後のホームランとなった。ダイヤモンドを1周してベンチに戻る際には、いつもの借りを返すと言わんばかりに、青髭の「ジョリ」が「ジュリ」(=ジュリスベル・グラシアル)を殴り返した。


人格の滲み出るリード

 なんといっても髙谷の長所は「人格」だった。

ひとり空港に出向き、帰国する外国人選手を見送る髙谷の姿は、毎年恒例となっていた。
 投手が日本人であろうと助っ人であろうと意思疎通を欠かさない。信頼関係があったからこそ、あの強気のリードができたように思う。
 先日グラシアル退団濃厚の見込みとの一報が出ており、「殴る役」も「殴られる役」も一気に消えてしまうそうで、ホークスファンとしては、とてもとても寂しい。

 構想外を告げられたのがシーズン終了後だったため、引退試合も行われなかったが、和田毅の粋な計らいのおかげで、非公式ながらラスト「おじ鷹バッテリー」を目に焼き付けられて幸せだった。

 酸いも甘いも噛み分けたプロ14年間。
 挫折と成功を知っているのは、コーチとして活かせる大きな強みだと思う。

 「ソフトバンクは甲斐がケガしたら終了」
 他球団ファンから耳にタコができるほど聞かされた。
 だが私は、決して若手にイキのいい捕手がいないなんて思っていない。
 九鬼も海野も牧原巧も渡邉陸も育成の石塚も五者五様、それぞれにいいものを持っている。(谷川原は内外野も守れるユーティリティ性に期待しているので敢えてここでは外させていただいた)

 逸材が筑後で眠っているように感じてならなくて、こう言われるのが歯痒い。
 髙谷には、これからバッテリーコーチとして、彼らそれぞれの長所を引き出し、短所は一軍最低レベル以上に引き上げられるよう、期待している。

 トライエヴリシング!

て〜〜きをー うちく〜〜だーけー
魅せろ〜 男の〜こーころいきー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?