ありがとう長谷川勇也選手 〜打撃一閃〜


 必殺仕事人のテーマが流れると、球場の空気は一変する。
 スクリーンには「打撃一閃」の文字。桜吹雪の演出。
 そして、一本の刀を携えた侍がゆっくりと左打席に向かう。
 「この男なら、一振りで流れを変えてくれる。」
 そう期待させてしまうのが長谷川勇也だった。

 今季限りでユニフォームを脱ぐこととなった「職人」にこれまでの敬意と感謝を込め、拙文ながら想いの丈を述べさせていただく。

遥か想いで栄冠へ

 06年の大社ドラフト5巡目で専修大学から入団。
 決して高いとは言えないところから修練に次ぐ修練で這い上がってきた。

 プロ2年目にはキャンプから快打を連発し、成長をアピール。王貞治監督に「使わない方がおかしい」とまで言わしめた。開幕スタメンに名を連ねると翌年、大きな飛躍を遂げる。
 追い込まれてもカットで粘り、コースに逆らわず広角に打ち分ける技術を身につけ、初の規定打席とリーグ4位の打率.312。

 レギュラーの座を掴んで以降はリーグ屈指の好打者として君臨した。2013年にはシーズン198安打をマークし、2016年には通算1000安打を達成。その地位を不動のものとしていた。

 しかし、順風満帆かに思えた野球人生を試練が襲った。


 2014年に本塁突入の際に右足首を痛め、そこから思い描いた通りのパフォーマンスを発揮できなくなる。
 足首の状態さえ良ければ…という歯痒さの中で悲劇は続く。今度は脇腹を痛めてしまうのだ。まさに満身創痍だった。

 それでも長谷川を突き動かしたのは、ポーカーフェイスの奥に秘めた熱い闘志。

『バットは錆びるどころか、鋭さを増している。』


「代打の切り札」として再び存在感を示していく。

 記憶に新しいのは2020年10月15日のオリックス戦。6回表1アウト満塁の好機に登場し、試合を決めるグランドスラム。これが自身初の代打本塁打並びに初の満塁弾。
 コロナに侵された苦悩の日々を自らのバットで振り払う「カタルシスト」の勇姿だった。

 ここぞの場面で注文通りの一打。チームに不可欠なピースだと感じる機会が何度もあった。

 今季もここまで70試合に出場し、随所で勝負強さを発揮していたが、8月29日の打席以降11打席連続で凡退しており、心身にどこか限界を感じていたのだろうか?

練習の虫

 栗原、リチャード、佐藤直、増田、真砂etc..。長谷川のことを師と仰ぐ者は多い。
 ベテランと呼ばれる年頃になってからは、コーチのような親心で若手の指導に励んだ。教えを乞うた者全員がすぐに結果を出すというぐうの音も出ない有能っぷりだった。
 「折り紙」「逆再生」独特な用語を交えた難解な打撃語りとは裏腹に、アドバイスは理論的で的確。

 中でも印象深いのは、若鷹・中村宜聖(育成外野手)との筑後でのエピソードである。
 中村宜と長谷川は風呂場で打撃の話が盛り上がり、「今から室内練習場行こうや」という流れに。汗を流しに行ったはずが、また汗をかきに行くことになったのだ。


 長谷川は打撃のことになると誰よりも熱い。
 打てない日だけでなく、打った日さえも、納得するまでバットを振り続けるという居残り練習は特に有名だった。無心で黙々とスイングする様を人は「求道者」と呼んだ。
 ストイックな姿勢で自ら手本となり、チームにもたらした好影響は計り知れない。

 無我夢中でバットを振ってきた15年の現役生活、本当にお疲れ様でした。今度はぜひ打撃コーチとして名を馳せてもらえないだろうか?

行けよ果てしなく 進めどこまでも
ひたすら進め ハセの道


〜結びに〜
 規定打席にあと1届かなかった2016年、長谷川の登場曲はLove This Town(Dizzee Rascal)。それはFA権を行使せず貫いた、彼の福岡愛を表していた。最後までホークス一筋を貫いてくれたことに心より感謝申し上げたい

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