ありがとう 「暴れ馬」 中田賢一投手

Open the Gate
飛び出してく準備は万端
名門じゃねぇ だけど誇る看板
Iron horse can't stop.
ドロ混じりのエサも喰らい
ダービーをさらう

 ホークス時代の中田賢一投手の登場曲、AK-69『IRON HORSE -No Mark-』の出だしの一節である。

 引退となった「暴れ馬」こと中田賢一投手についてホークス時代を中心に振り返りたい。

無事是名馬

 70年以上続くプロ野球の歴史において、100勝以上挙げた投手は2021/09/29時点で140人しかいない。
 この上位140人の中に中田の名前がある。超一流の記録を成し遂げた1人なのだ。であるはずなのに、なぜか大投手だと感じさせない。
 1つ1つの試合を見ても、毎回のように四球でランナーを出す。だけれども要所を封じて、なぜか勝っている感じ。
 この違和感が中田の凄さであり、魅力だと思う。

 通算で3桁勝っているのに2桁勝利は2度だけという摩訶不思議な成績。
 この裏に中田が父から言われてきた言葉がある。
 「15勝、20勝はしなくていい。毎年10勝、けがのない選手になれ」
 ここまで忠実にその教えを再現した成績があるだろうか

2005年 8勝3敗 (中日2位)
2006年 7勝4敗 (中日優勝)
2007年 14勝8敗 (中日2位・日本一)
2008年 7勝9敗 (中日3位)
2009年 5勝4敗 (中日2位)
2010年 7勝4敗 (中日優勝)
2011年 2勝3敗 (中日優勝)
2012年 7勝10敗 (中日2位)
2013年 4勝6敗 (中日4位)
2014年 11勝7敗 (ソフトバンク優勝・日本一)
2015年 9勝7敗 (ソフトバンク優勝・日本一)
2016年 7勝3敗 (ソフトバンク2位)
2017年 7勝6敗 (ソフトバンク優勝・日本一)
2018年 5勝3敗 (ソフトバンク2位・日本一)
2019年 0勝0敗 (ソフトバンク2位・日本一)
2020年 0勝2敗 (阪神2位)
そして、今季、一軍出場なし
これでプロ16年、通算100勝79敗。

 常勝のチームで常に優勝争いのプレッシャーと戦いながら投げてきた。これを「勝ち運」という言葉で片付けてはいけない、言うならば「処世術」である。
 私は、処世術というのは社会人として非常に重要なスキルだと考えていて、特に彼の人柄の良さや礼儀正しさには学ぶべきものがある。
 FA交渉の際に「ヤクルトただ飲み野郎」などと揶揄されていたが、結果的にソフトバンクに入団したことは地元やご家族への恩返しという点でも成就したといえるだろう。

名馬凱旋

 八幡高校→北九州市立大というバリバリ地元感のある経歴を引っ提げて来てくれただけに、応援していてやはり親近感があった。
 ホークスファンとして中田のおかげで本当にたくさん良い思いをさせてもらい、中田が勝利に貢献してくれた試合は枚挙にいとまがないほど存在するが、その中でも忘れられない出来事が2つある。

 まず、印象深いのは移籍1年目の開幕5連勝である。特に2014年はシーズン最終戦までオリックスとデッドヒートを繰り広げたシーズンであり、もし中田を獲得していなかったならリーグ優勝もありえなかっただろう。

 次に、2018年8月26日の西武戦。ホークスファンなら忘れもしない劇的試合。
 首位西武を猛追していた夏場、本拠地ヤフオクドームで宿敵との大事な3連戦。先に2勝し勢い込んで迎えた3戦目は乱打戦となり、8-8と対山賊らしい疲れた試合展開のまま延長12回ウラへ。増田達至が投じた高めのボールをグラシアルが振り抜き、サヨナラ満塁ホームラン。
 その流れを作ったのが延長11回表から2イニングをピシャリと抑えた中田の好投だった。劇的弾で中田に勝ち星が舞い込み、これで通算100勝目を達成。
 まさかこの試合が現役最後の勝ち星になろうとは思いもしなかった。

 厳しいプロの世界でダービーを制した八幡の地方馬は、私たち野球ファンの記憶の中にしっかりと刻まれている。

 中田賢一投手、現役生活本当にお疲れ様でした。

期待を受け この地に戻り
コースを見て決める球 投げるだけ

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