ガチャピン

誰からも愛されるキャラクター

 ガチャピンは老若男女、誰にでも慕われる国民的キャラクターである。

 そのガチャピンにそっくりな、何とも形容しがたい愛嬌のある風貌でファンに愛された野球選手がいた。

 鶴岡慎也。

 プロ通算1200試合以上に出場し、ベストナイン・ゴールデングラブの受賞経験もある名捕手だ。Wilsonのカーキ色のプロテクターが印象的だった人も多いのではなかろうか?

 そんな鶴岡選手が、先日、現役引退を表明された。
 主に守りで貢献したキャリア前半、主に打撃で貢献したキャリア後半。
 彼のプロ野球人生を追う。

「ダルの女房」

 2002年、ドラフト会議で三菱重工横浜から日本ハム(この頃はまだ本拠地が東京)に8巡目指名で入団。
 指名順位こそ高くはないプレイヤーだったが、一躍有名になったのが6年目の2009年。
 強打の捕手・髙橋信二が一塁にコンバート。正捕手筆頭候補として鶴岡に白羽の矢が立ち、自己最多121試合でマスクをかぶると、各投手の良さをリードで引き出し、見事チームをリーグ優勝へと導いた。

 リーグ屈指のファイターズ投手陣から扇の要たる献身性を持て囃されたが、特に、絶賛したのが現パドレスのダルビッシュ有だった。
 七色の変化球を操るダルビッシュであったが、その変化球は切れ味が鋭すぎるが故に、後逸せぬよう止めるのは至難の業だった。鶴岡は徹底して体で受け止めることで安心感を与え、多彩な球種を自在に要求し、洗練された頭脳で状況に応じた考え方をダルビッシュに説き伏せた。

 もう1人、鶴岡が大投手へと成長させたのが吉川光夫(日本ハム→巨人→日本ハム→西武→現在就活中)である。吉川は2012年、彗星の如く君臨した。前年までの3年連続未勝利が嘘のような大大大躍進でこの年、リーグMVPなど3つのタイトルを総なめ。一方の鶴岡も同年打撃でキャリアハイを出し、吉川-鶴岡バッテリーは最優秀バッテリー賞を獲得。名投手が大きく信頼を置く捕手として一躍全国区となった。

鶴岡慎也 燃えろ 打てよ
鶴岡慎也 ホームラン
鶴岡慎也 狙え 放て
飛ばせ ホームラン


薩摩隼人、帰還

 2013年オフには、フリーエージェント権を行使して中日・中田賢一と共にホークスに移籍(ちなみに11年のオフに同じ捕手で同じ姓の鶴岡一成もFA移籍している)
 奇しくも中田賢一と同年に引退する運びになってしまったのも何かの縁だろうか?

 この頃のホークスは2011年から細川亨が加入したものの深刻な打撃不振に陥っていた。そこで、ホークスは鶴岡の打撃に着眼し、獲得に至った。

 2014-15年はホークス捕手陣の呪いにかけられたのか鶴岡までもスランプに陥るが、背番号を33に変更して心機一転した2016年、扇の要として103試合に出場。
 4年契約最終年の翌2017年、達川光男氏がヘッドコーチに就任。捕手難をベテランの獲得でしか補えないという長年の問題を深刻視し、若手捕手を育てて行くチーム方針となり、甲斐拓也が大ブレイク。
 打率.321、9安打のうち3本がホームランと自身のバットは快調だったものの、甲斐の台頭に弾き出される形で、スタメン出場は4試合にまで激減
 出場機会を伸ばすため、2度目のFA権を行使する。

狙いを定めて 飛ばせ鶴岡
鋭い打球で 勝利決めろ


https://youtu.be/-l1BE6NzMHk

鶴の恩返し

 古巣・日本ハムに史上初の「出戻りFA」を果たす。
 日本ハムは鶴岡の移籍後、大野奨太がゴールデングラブに輝くなど、一人前の正捕手に育ったが、ちょうど中日にFA移籍が決まっていたという背景を抱えていた。

 清水優心ら若手も徐々に芽吹き始めてはいたがレギュラーとしてはまだまだといったところで、今度は若手の手本として存在感を示した。
 2019年からはバッテリーコーチ兼任となり、清水優心や宇佐見真吾の指導に当たったが、そのため同年から出場試合数は激減した。

 晩年の中嶋聡的な役割で長く「プロ野球選手」を全うしていくのではないかと私は予想していたが、今年のハムの大変革の波に飲まれ、選手として構想外を言い渡された。
 最後まで現役にこだわったが手を挙げる球団はなく、引退を決断した。

攻守に 輝き放つ
今日も星を掴み取れ 鶴岡慎也

 引退会見にて、鶴岡の目には涙を浮かべていた。
 「自分自身に『ご苦労さん、よく頑張った』と心から言えます」
 そう胸を張って誇れる人生は立派だと思う。
 晴れやかな表情は、見ていて清々しかった。

 バッテリーというのは奥深い。
 投手と捕手の共同作業でサインが決まり、信頼関係の中で打者と勝負し、研鑽していく。
 名投手には必ずと言っていいほど名捕手がいて、その逆も然りである。

 来年からは髙谷裕亮が二軍のバッテリーコーチを務める。
 細川亨や山崎勝己と共にぜひ福岡に帰ってきてほしい。彼らが一軍・二軍・三軍のコーチ職を分け合うのが、私の夢である。

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