見出し画像

宮崎戦レビュー~生まれ変わりの途中~

2勝1分けの無敗、首位でアウェイ連戦を終え、絶好の形で迎えたホーム開幕戦。激しい終盤の打ち合いの末に同点で終えた約1年前のホーム戦、昇格の最後の可能性を閉ざされた約4か月前のアウェイ戦と昨季苦い思いを味わされた宮崎との対戦となった。

あいにくの雨で絶好のホーム開幕戦日和とはいかなかったが、霜田監督のもと取り組んでいる新たなスタイルをホームの地で直に味わえたこの1戦を改めて振り返っていく。

<両チームスタメン>

・松本山雅

スタメン変更は3名。
パウリーニョが不在のボランチには喜山が初先発。
榎本に代わり、前節1G1Aの鈴木が初先発でトップ下に。菊井が左WGに入る。
負傷退場の渡邉に代わって小松が先発に復帰した。

・テゲバジャーロ宮崎

スタメンは変更なし。
ここまで3試合各ポジション色んな選手・組み合わせを試してきたが、前節の勝利によって今シーズン初めて"いじらない選択"をした

CB眞鍋は山口時代に霜田監督にルーキーながら主力に抜擢された師弟関係。

<記録>

・ゴール(7)
2:小松、菊井
1:村越、パウリーニョ、鈴木

・アシスト(3)
1:小松、下川、鈴木

・警告(4)
1:野々村、パウリーニョ、菊井(、武石C)

<戦評>

■狙いの見えた4-4-2ブロック崩し

・対照的な変化を見せた両者

山雅はここ3試合で6得点1失点。
まだまだ発展途上の色は強く、キャンプから取り組んでいる確率の高い攻撃、霜田スタイルらしい得点は見せられていないものの、前節YS戦では途中交代の選手が結果を残して3得点。これまでの守備から入る堅実なスタイルから今年は思い切った変化を加え、選手のコメントからもそれが見え始めるなど試合を重ねていくうちに攻撃的なスタイルの兆しも見えている。

対して、宮崎はここ3試合で1得点3失点
開幕の長野戦こそ複数失点での敗戦になったが、前節は福島を相手にウノゼロで無失点勝利。順位は下位に沈み、理想的なスタートとはいかない中でも松田監督の代名詞である4-4-2のブロック守備は浸透を見せ、ボール保持と緻密な配置のもとに攻撃を組み立ててきた昨年までとは違った姿を見せている。

昨年までのスタイルからの振り切り方を考えると、図らずも「J3で最も大胆な変化を加えた2チーム」による対戦となった。

・共有された狙いどころ

試合が始まると宮崎の中を固める4-4-2ブロックに対して、山雅は両SHの滝や菊井は中央で自由にポジションを取り、大外は高い位置を取るSBが使うような配置取りを行う。

ボランチの両脇を中の3人で狙いながら、自由を与えられる相手のブロックの外をいかに有効に使えるかが鍵になる。

そして、この日は左サイドからの攻撃は多かった
元々スカウティングでそういう狙いがあったのかもしれないが、宮崎の右SH・永田は守備にも献身的で、右SB・青山のスライドも早かったので、単純に攻撃の起点となる常田と両ボランチが揃って左利きだったことが原因としてあった可能性もある。

その左からの展開と狙いを象徴するような攻撃が見れたのは16分。

先ほど書いたような優位性を生かしながら常田→菊井→下川の連携で流れるように左サイドを攻略。右SBを釣りだして置き去りにした状態で前向きに下川がドリブルできたので、宮崎もそちらのケアに人数を割く必要が生じ、その後のクロス対応も珍しく穴が見られた。残念ながらその後の精度が伴わなかったが、得点シーン以上に実りのあったシーンのように思えた。

・なぜブロックは崩れなかったのか?

ただし、その後は敵陣まで運べても宮崎の陣形を動かすことができず、ブロックを攻略しきれない時間が続く。

試合が進むにつれて、山雅のこの形に慣れてきた宮崎はSHをあまり上げすぎないようにして中盤の数的不利をケア。菊井や滝ら2列目の選手が高い位置でボールを受けるのが難しくなり、定位置でボールを受けられなくなっていく。

そして、中がボールを受けられないとSBが下りてパスコースを作るしかないので、徐々に下川が下がってくる機会も多くなったが、その時は運動量豊富なSH(永田)がSB(下川)に着いていくようにチーム内で共有されており、それによる混乱は全く起きていなかった。

SHをそれだけ下げさせたという見方もできるが、元々SHの守備時の貢献度が求められている宮崎はそれを苦にするようなチームではない。一方、山雅にとっては下川がSHに対応されてしまい、先ほどのようなズレが生まれない(=中の選手がマークにつかれたまま)というのは本来の霜田監督の狙いとは違った形。最後に囲まれてしまったり、ブロックに遭ってしまうことでいい形でのシュートはほぼほぼ打てなかった。

狙いを実行するためには下川がSHの対応できないくらいの高さを取ることでSBを引き付け、相手の最終ラインに対して数的同位もしくは優位を作る必要があり、フィニッシュというよりは後ろの作りの段階でもう少し工夫が必要になってくるかもしれない。

■ご決着は70分までに

・トップ下鈴木国友の憂鬱と光明

こうしてシュートのチャンスまでは作りながらも綺麗な形でシュートを撃ち切れず、ロースコアの展開が続く。

中でも、前節の活躍が認められて先発に抜擢された国友は両チーム合わせて最多タイの6本のシュートを放つなど主にフィニッシュの場面でこの日も能力の高さを示したものの、枠内シュートはうち2本に留まるなどこの日はゴールが近そうで遠かった。

シュートは水物でもあるのでこの調子で確率や精度を高めていくことになるが、この日はどちらかというとトップ下における組み立ての部分で苦労する場面も見られる。

元々限られたスペースの中で仕事をするタイプではないが、この日は特にトップ下の位置に菊井や滝が揃って入ってくる形だったので、さらに中央のスペースは混雑。その中でも起用に仕事をこなす場面もあったが、トップ下の位置で菊井と国友が被ってしまうことも。その一方で榎本不在の代わりに空中戦は任されるなど彼の持ち味を生かすにはやや気の毒な環境にはなっていた。

ただ、54分のシーンでは彼の強みが見えた攻撃も。
喜山からのボールをスルーで小松に届けると自身は裏のスペースに。そのまま勢いを持って走り込むと小松から絶好のループパスが来て、GKとのほぼ1対1に持ち込むことに成功。DFが並走してきたこともあり、シュートは惜しくもゴールの上を超えてしまったが彼にとっては最大の絶好機だったように思う。

純粋なトップ下のように周りの潤滑油になったり、DF間でボールを引き出すプレーもこなせなくもないが、やはり彼の一番の魅力、このチームでのスペシャリティは推進力やゴールに直結する動き。

小松も周りを使うのがうまいFWなので、頻繁に1トップを追い越して飛び出していき、マークを受けにくい形でゴール前に顔を出した方が持ち味は出しやすいだろう。国友がそういうプレーをするにはもちろん周りもそれを意識した動きや配球が必要になってくるが、菊井とは違うトップ下像を生み出していくための1つの光明は見えた気がした。

・1段上の選手になりつつある菊井悠介

その後の後半16分、宮崎側は橋本と石津に代わって、高橋と南野を投入。前節同じような時間帯に交代カードを切り、決勝点を挙げた南野を中心に前節の再現を狙う。

ここまでのゲームを振り返ると、山雅の方が攻撃を仕掛ける時間は長く、チャンスも多く作っていたが、要所は締められ、結果的にスコアレスで終盤を迎えていたので、プランとしては宮崎の方が理想的な展開だっただろう。失速癖が顕著な山雅にとっても嫌な展開になってきた中で、この男が結果を残す。

時間にして後半20分。ラフなロングボールを小松が粘って繋ぎ、相手がコントロールミスしたところからだった。再現性や無理のない攻撃という観点からすると、霜田監督の理想に沿った攻撃ではなかったが、相手のミスを見逃さなかった菊井がうまく持ち出し、GKの股を抜いた技ありシュートで待望の先制点を奪う。

これで4試合で2得点目。昨年のゴール数にも並んだ。
シュートチャンスが回ってきやすくなっている周りの環境はあれど、昨季は55本のシュートを放って2得点だったので、彼自身が"昨季とは違う勝負強さ"を発揮できた結果といっても過言ではないはず(ちなみに今季はここまでシュート7本で2得点)。

数字だけが足りなかっただけで、プレーの質自体はJ3では抜きんでたものを持っていた彼もいよいよそれに見合った数字が付いてくるようになってきた。このプレーを続ければ夏には上からのオファーがいくつか届くだろうがそれも嬉しい悩み。その評価に値するプレイヤーとしてこのまま結果を残し続けてほしい。

・問題は交代選手にあらず!?

だが、試合はこのままでは終わらない。両者選手をフレッシュにしながら、絶対に得点が必要な宮崎だけでなく、山雅も攻撃の姿勢を続けて得点を狙いに行く。

そんな展開で、試合終了が近づくにつれてチャンスが増えていったのは宮崎。中でもやはり目立っていたのはたった30分程度の出場時間だった南野で、後半31分の同点弾など国友と同じ6本のシュート(うち枠内4本)を南野1人で放ってくるなどチャンスを構築。その後もあわや逆転弾というような惜しいシュートを放つなど終盤は完全に彼が主役の時間帯となっていた。

対して山雅は攻撃に出ていたにも関わらず、残り10分でシュートすら打つことができず。終盤の戦い方は課題として浮き彫りとなった。

……とはいえ、戦い方という点では「攻め続けること」「引かないこと」というのはスコア関係なく一貫しており、そこは霜田監督の基本方針なので変えることはないだろう

交代選手も基本的にその戦い方に沿ったメンバー選考をしており、任されるタスクについても個人で打開するようなことは求められていないので、「攻め込まれる時間が増える」「自陣に押し戻される」と力を発揮できないのは当然と言えば当然かもしれない。

特にこの日は宮崎の方が終盤に余力を残しており、前線の選手が孤立。本来霜田監督が目指している「相手の最終ラインに対して優位性を作る」「前線に無理なく点を取らせる」の構造のままにも関わらず、現実はほど遠いものとなっていた。

単純に押し返すことや少人数で攻めることを前提とするならば前線にターゲットとして榎本、SHに運ぶこともできる田中を置くような従来の山雅が得意としていた形の方が合理的ではあるが、孤立していたにも関わらず田中を前線に置いていたので、ベンチ選考だけではなく、采配も前半からの形を貫く可能性は高い。

そうなればやはり「交代選手の問題」というよりは、「90分通して(先発を含めた)チーム全体が同じようなパフォーマンスを続けていけるかの問題」が終盤の鍵を握りそうだ。

■90分攻撃力が落ちない"最強の矛"鳥取

そして、試合は両チームそのまま得点は生まれず、ドロー決着となった。
「勝てた試合だった」か「負けなくて良かった試合だった」か意見は分かれそうだが、兎にも角にも勝ち点を得られたのは『最低限の結果を得られた』と言ってもいいだろう。

順位的にも首位、無敗をキープしたまま、ホーム初勝利を目指す次節はここまでリーグ最多得点・鳥取との上位対戦となる。4戦の結果は10得点8失点、全試合複数得点をあげているが失点も多く「リスクをかけてでも得点を取りに行く」というスタンス、そして、攻撃回数、30m侵入回数、ペナルティエリア侵入回数が全てトップなど「敵陣でサッカーをする」スタイルは今年の山雅にも共通している部分でもある。

これは金監督のもと、昨年までの鳥取からも継続されてきた部分だが、今年新たに特徴的なのが攻撃陣の層の厚さ。ここまでの4試合ではスタメンは「重松・大久保・東條・牛之濱」で固定。後半途中から「澤上・遊馬・田村・小澤」に代えていくが、両SH田村・小澤がそれぞれ2G1Aと好調。しかも10得点中8得点は後半に生まれるなど結果という面では後半組の方が残しているが、あえてこのユニットは崩さずにやってきた。

8人の前線で絶え間なく攻守で圧力をかけ続けるというチームはまれにあるが、これだけ前後半のクオリティ、特に得点力を落とさずにやれているチームは稀有。そして、ペース配分を気にせずに序盤から飛ばしていく山雅にとっては前半でリードを奪った状態で折り返さなければ終盤の戦い方はかなり厳しくなってくる。巷では「矛盾対決」とは言われているが、今の山雅は盾を持って戦うチームではない、殴り合い上等の姿勢で今のチームの現在地を見せていきたい。

END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?