時給1000円が安くて、どうして靴の1万円は高いのだろうか?


こんにちは、ハヤカワ五味です。

アパレルの会社を4年もやっていると「高すぎて買えません、安くしてください」と言われることが度々あります(最近は減ったけども)。


では、そのお客様の要望に応えて値段を下げるべきなのだろうか、高くない妥当な金額とはいくらなんだろうか。こうして小売業の経営をやっている以上、何度も頭を悩ませる永遠の問いかもしれないけど、最近なんとなく自分の中で結論が出た気がします。そしてそれは、先週に神戸へ行った際、漠然とした考えから確信に変わりました。


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先週、ちょうど京都造形大でゲスト講師の仕事があったので、ついでに、最近お取引を始めた神戸の靴工場にご挨拶に行くことにしました。


その靴工場は神戸にあるロンタムという会社。
友人の取引先でもありご紹介いただいたのですが、とっても仕事が丁寧で、微妙なニュアンスを拾ってくださったり、より良い提案もしてくださり早くも信頼している工場さんです。


土砂降りな京都から神戸の三宮駅に向かう電車の中で、どういった風に靴は作られるのだろうかと妄想したりします。

靴って大きくて硬いし、家庭科で作ったりもしないからあまり想像がつかないものですよ。でも普段下着の工場にはしょっちゅう行っているので、これくらいの作業をしたら大体これくらいの工賃だろうみたいなものは感覚としてあります。そして、すでに新作靴の見積もりはもらっていたので、その工賃から想像するに、ガシャーンと自動でヒールと履く部分をドッキングしているんだろう…!と思っていました。革靴でいうところのセメント方式的な。

そんなこんなで三宮駅で紹介してくださった友人と工場長と合流し、工場に向かいます。

十数分揺られて、講演会の話とかをしていたりするうちに工場に到着しました。白いコンクリートが印象的で、第一印象は「思ったよりも綺麗…」です。下町の工場とかだとかなりカオスだったりするので、笑。


まずは、忘れないうちに新作靴2型の商談をと、靴のサンプルを見ながら仕様やカラー、工賃等を確認していきます。

「〜それで上代(販売価格)は、いくらを考えているんでしたっけ?」という、工場長からの確認に、「うーん、元々は税別イチヨン(14,000円)くらいを考えてましたが、下代(原価)的にイチサン(13,000円)くらいで良いかなと思っています。」と私。


それを聞いた工場長は感心した表情をしていました。

「すごい、
そんな高い価格設定なんですね。」


「やっぱ高いですかね…。私はむしろ安いと思ってますよ。」
お客様から言われたことと重なって、少し肩をすくめる。


「いやいや、そこはお任せしますよ。
 そうだ、工場見ていきますか?」

「いきたいです!靴の作り方、想像はしたことあっても見たこと無いので。興味あります。」


私たちはせっかくなので工場を見せてもらうことにしました。

まずは、靴の素材のカットからです。



え?!???


私はてっきり、靴の素材って自動裁断(つまり全自動でいい感じにカットしていくこと)だと思っていたので最初からびっくりしてしまいました。

工場長曰く、自動裁断機もあるらしいのですが靴工場が少ないこともあって衣服向けの自動裁断機とは比べ物にならない値段だそうです。そのためロンタムさんでは、枚数に合わせて人の手で型を置き、機械で圧をかけ裁断しているとのこと。クッキーみたい…。

この抜き型も、靴のデザインによって異なってくるのでサイズごとに作ります。にしても1デザインでもすごい型数。


そして、次のフロアに移動し、次は縫製。
え、靴に縫製って必要なの…?って思う人もいるかもしれませんが、普段履いてるヒールとかを見ても履き口の部分が縫われていたり、複数の革が繋がっていたりしますよね。

先ほど裁断された素材をダダダっと1つ1つ手で縫っていきます。
靴のすごく綺麗な縫い目を見ると、まさかこれを人が縫っているなんて想像できないですよね。

これでやっと素材が1つにつながったわけですが、まだ、ペタンコな状態で履ける靴には程遠いです。ということで次のフロア。


???

??!


さきほどまで平たかった素材を、温めつつ機械で整形していきます。
これも、1足1足機械に手で差し込んでいく感じ。そりゃアガリが綺麗だわ…。


頭の部分が整形された靴たちは次の工程に。
次の工程はこちらも1足ずつ丁寧かつ手早く底部分を形作っていきます。

てっきり先ほどの機械一発で整形し終えるものだと思っていたので、まさかの作業に驚く私。
その後、靴底をつける作業や、ヒールを取り付ける作業など、それぞれ分業で何人もの人の手を渡りながら段々と知っているヒールの形になっていきます。

にしても、その途中経過が想像より長い…!
しかも、私達に見えてないところでこんなに手間がかかっているとは…。


例えば、靴底って実はこんな風に釘打ちされてたりするんですよ。

最近では、安い靴だと接着のみで済ませる場合も多いらしいですが、そうだと履いていく中で形が崩れることもあるそう。この釘打ちひとつとっても、ヒールや靴の形によって釘の本数や角度、長さに調整が必要です。

あー、これは想像ついてたな。

がちゃんって接着でヒールつけるんでしょ。と思いましたが、出てきたものを見せてもらうと…。

こちらも釘打ちされている…!

それもそうか。だって、全体重をこの細い部分で支えるんですもんね。実は見えないところでこうやって頑丈に支えられているから、安定して履けるんですね。


その後、仕上げされた靴が並ぶ棚を通り、商談のテーブルに戻ってくる3人。
私はつい、座ってすぐに言ってしまいました。

「いや、これ、やっぱこの価格安すぎませんか…?どうしてこんな安いんですか…?」


だって、これだけの人数の手作業で、やっと1足が作られていく過程を見ていると甚だ疑問に感じます。

「大手の取引先が、発注数を武器に値下げ交渉してくるんだもんねえ。発注元も発注元で、販売価格下げないと売れないから必死だよね。ブランド側が価値を上げることサボって、原価を下げる努力ばかりな気がしちゃう。」

そう友人が言います。


私は安い靴を見るたびに、心のどこかで、ああ合理的な生産体制を組めるようになって大量に生産して妥当に値段が下がってきているのだな、すごいな、と安い値段を肯定してきましたが、そんな自分を今更ながらすごく後悔しました。靴が安い価格で買えるのは、テクノロジーの進化でもなんでもなくて、ただ工場が無理な価格設定を強いられているからなのかと愕然としました。

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昨今「給与が安すぎる」という呟きを見るにつけ、もっと多くの人に妥当な給与が払われて欲しいなと思います。

ただその一方で、安い価格のものに価格以上のサービスを求める日本の空気感を見るに、それとなく矛盾を感じます。自分自身が値段に見合わないハイクオリティな働き方を求められている現状を嘆きつつも、自然とどこかで、値段に見合わない働きを他の誰かに求めてしまっていないでしょうか。


「自分だって安く働いているんだから、
お前らもそうするのが当たり前だろ」

そうやって負のループに入っていくと、より他人の労働に対して正しくお金う余裕が無くなり、それが結果として自分の労働にも正しくお金が払われない状況を呼び、そうやってゆるやかに首がしまっていってしまうのではないかと危惧しています(杞憂だといいのですが)。


「すごい、そんな高い価格設定なんですね。」
「やっぱ高いですかね…。私はむしろ安いと思ってますよ。」


私は、関わっている人たちから搾取してまでお金持ちになりたいと思っていませんし、そこまでして掴みたいものは無いです。

とはいえ、それでも売り上げを追求する理由は、継続的にブランドから商品を世に提案していくことで幸せになる人がいると信じているからです。しかもその売り上げ目標を、顧客に無理して購入してもらい達成するのではなく、顧客というコミュニティ全体の収入が上がり余裕をもって購入していただくことを弊社では良しとしています


では、コミュニティ全体の収入が上がるため、つまりより評価されていくために私たちは何ができるのでしょうか?


色々考えたのですが、今回は第一歩として、弊社の顧客様達には「素晴らしい仕事を知ったうえで、それに対し妥当な金額を払うということ」を体験してもらえたらなと思っています。

まず、自分が妥当に評価されるためには、他人を正しく評価する。それだけの当たり前なことなのですが、なかなかこれだけ価格競争が起きる世界だとそんなこと考える機会もないなと思います。

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今回の靴は、久しぶりに私がデザインから取り組み、工場の皆さんもより良いものができるようにと度重なる試行錯誤をしてくださりこのような形になりました。

ウォークライシューズ
価格は税別14,300円

やっぱ高いですかね…。私はむしろ安いと思ってますよ。思いたいですよ。


ダブルチャカはこれから、より哲学感を持った、モノに留まらないブランドを目指していきます。そういった意味で言えば、第一弾。"素晴らしい仕事を讃える価格設定"を神戸の靴に捧げます。


【販売詳細】
ウォークライシューズ 価格14,300円+tax
[オンライン先行受注期間] 7/7 22:00-7/16 24:00
[通常販売] 7/31 11:00より店頭・オンライン同時発売

ご予約はこちら☝️から
到着後のサイズ交換も可能ですよ。


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ちなみに。

今回、この販売価格でやらせていただくおかげで、工場サイドには初回生産から利益が出るような下代(原価)での発注が実現しております。靴工場では、リピート生産(追加生産)頼りで初回の段階だと利益が出ない場合も少なくなく、今回もそうなりそうだったところを相談させていただいた上で調整しております。調整に入ってくださった友人にも感謝!


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コメント13件

良い経験をされましたね?!?
今後は商品画像をだけではなくて、商品が出来るまでの画像も載せるべきなのかな。 いや、そうだと思う。 とても良い記事でした!ありがとうございます!
梱包屋時代の見積もりで、梱包費用が商品の見積もり段階で入ってないので梱包費を負けて欲しいと言われたりした。梱包費、倉庫費用、運賃は荷物を送る以上いるもの。鉄工所時代は1円以下の銭単位の工賃で仕事をしていました。
町工場の為にも、こう言う記事(現場の声)はもっと配信して欲しいです。
ちなみに、職人さんの給料は1日1万円が相場です。
こんなに人の手が関わってるとは驚きでした。もう少し工程の流れ、工数も知りたいです。良いものには見合う対価を払うって当たり前ですが、安さ、サービスが行きすぎて顧客から安い値段でないと認められないって悲しいですね。話それますが私は接客をしてきて過剰サービスを求めるお客さんに苦労した経験から、日本も接客業チップ導入できたらいいのに、、と思いました。前はマクドナルドのスマイルゼロ円ってキャッチコピースバラシーと思ってましたが、今はそう思えません。
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