見出し画像

言葉を届けること

これまでお会いしてきた
患者さんのことを
今もたまに思い出すことがあります。

それはふとした時に
「心を通わすことができた」
という感覚を通して、
その方々の存在が
私の記憶に残っているのだと
思います。

あれからどうされたかな?
今、どうされているかな?
と。


夫が青森に異動になったことを
きっかけに私は薬剤師として
仕事を得るのですが
縁あってそれぞれの地域の
特定機能病院の門前薬局ばかりを
渡り歩くことになります。

行く先々で出会う患者さんが
いらっしゃり、
転勤異動による退職の折には
心温まるお手紙をいただくことも
しばしばありました。
医師ではないので
直接、治すことはできないのだけれど
いつも混雑する薬局内で
手際よく、薬の説明する、経過を見る
薬を手渡す以外に、
何かしら言葉を届け、
心を通わすことができたと
実感できるのは
私の大きな喜びでもありました。

特に印象的だったのは
大学病院前の薬局に
居た時です。
そこでは管理薬剤師としても
在籍しましたが、
いつも夕方に来局される方で
抗がん剤治療をされている男性でした。
隣の市から
おそらく朝早くから受診され
待ち時間も含め、
帰りはこんなに遅い時間に。
できるだけ自力で通院したいと
いつもお一人でした。

治療の過程で脱毛がはじまり
会うなり帽子をとって
「ほらー、こんなになっちゃったよー」
とおっしゃった時、
痩せられた、と感じました。
でも、そこでその感情を
見せるわけにいきません。
「ますますダンディになられましたね!
男前が一段と際立ちます」
と、私。
「あれ?そう?うれしいなぁ」
いつも紳士的な振る舞いのお方、
本当に心からそう思いました。

しばらくして
緩和ケアのために
地元の病院に転院されることになり、
その時初めてご家族とご一緒で
付き添いの息子さんから直々に
お礼のことばをいただいたのが
最後になりました。

私のただの自己満足かもしれません。
「私から何かしら届けられるものはないか」
と、今、掛けられることのできる
精一杯の、
相応しい一番の言葉はなんだろう。
いつも探していたように思います。
この短い時間の中で
ぴったりの言葉が
ふと降りてきて欲しい。
そんな気持ちでした。

言葉を交わすのも
一期一会ですものね。

私から掛けさせていただける言葉が
あるとしたら
それを大切にしたいと思います。

私にそんな気持ちがまだあることを
noteでお会いした方から
教えていただきました🙏

この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?