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SDGs/ESGの背景と先進的な取り組み事例紹介

こんにちは、サイバーエージェントで藤田ファンドを担当している坡山 里帆です。特定のサービスやトレンドについて「20代女性」の視点から発信してみようと思いnoteを書いています。

今回のテーマは世界的に今大きな注目を集めている『SDGs/ESG』にしました。私自身、周りでそのトピックについて話す人が増えたので、トレンドキャッチアップとして自分の勉強目的含めて調べることにしました。というのも、テレビやメディアなどではよく耳にするようになったSDGs/ESGという言葉がどのように生まれ、その概念を元にどのような規模のお金が流れているのか気になったからです。そこで今回はSDGs/ESGの言葉は聞いたことあるけど詳しくは知らない方向けに、SDGs/ESGの概念の成立過程から先進的な取り組みを行なっている企業について調べたので、簡単にですが書いてみます。<読了までにかかる時間:10分程度>

もし読んでくれた方で、「この企業の取り組みがおもしろいよ!」など共有してくださる方は是非Twitterでお気軽にDM(@hayamaritter)やメンションをして下さい。

そもそもSDGs/ESGとは

外務省によると、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組む普遍的なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。下記の画像を見たことある方も多いのではないでしょうか。

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野村証券のレポートによると、ESG とは、「環境(Environment)」「社会(Society)」「企業統治(Governance)」の頭文字であり、投資家がこれらに配慮した投資を行う事を広くESG 投資と定義しています。

ESG 投資と類似の概念としては,社会的責任投資(Socially Responsible Investment 以下、SRI)があります。ESG よりも古くからある概念で,1920 年代に米国のキリスト教教会が資産を運用する際、教義と相容れないタバコ・アルコール・ギャンブルなどの業種を投資対象から排除したのが発端であるとされています。つまり、当初はキリスト教という特定の価値観ないし倫理観に基づいて投資対象を決定することから始まりました。

こうした歴史的背景をもつ SRI 投資ですが、最近では企業の社会的責任を重視する根拠として倫理や価値観を強調する立場は少数派となり、「企業が事業活動を将来にわたって持続させるために社会的責任を果たすことが必要である」と説明されることが多くなってきている。この場合、企業の持続可能性(サステナビリティ)に着目していることから、サステナブル投資と表現されることもあります。このように時代とともに変遷してきたSRI に対し、新たに加えられた呼称が「 ESG投資」です。

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(参照:State Street Global Advisors)

SDGs/ESGの関係性

わかりやすく違いを述べるのであれば、SDGsは国連が定めた企業が達成するべき「目標」であって、ESGはそのための「手段」となります。SDGsを達成するためにも、中長期的な企業価値の観点からSDGsへの貢献度合いの高い企業を評価し、ESG投資を行っていくことが必要となります。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によると、まずSDGsの大きな特徴は、課題解決を担う主体を民間企業に位置付けている点にあります。このため日本企業のあいだでも、SDGsが設定する目標を経営戦略に取り込み、事業機会として生かす動きが少しずつ広がってきました。

GPIFが東証一部上場企業を対象に2019年1月から2月にかけて実施したアンケート調査では、「SDGsへの取り組みを始めている」と回答した企業が45%、「SDGsへの取り組みを検討中」と答えた企業は39%を占めました。SDGsに賛同する企業が17の項目のうち自社にふさわしいものを事業活動として取り組むことによって企業価値が持続的に向上すれば、機関投資家にとっては長期的な投資リターンの拡大につながります。なので下記の図が示すように、機関投資家によるESG投資と、投資先企業のSDGsへの取り組みは、表裏の関係にあるといえます。

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PRIについて

次にESG投資が成立するために欠かせない投資原則について調べていきたいと思います。経済産業省によると、PRI(責任投資原則)とは機関投資家の投資原則です。2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し提唱したことがきっかけで生まれました。

投資にESGの視点を組み入れることなどが含まれており、原則に賛同する投資機関は署名し、遵守状況を開示・報告する必要があります。具体的には、以下の6つの原則から成り立っています。

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(参照:経済産業省HP)


PRIの考え方は2006年4月にニューヨーク証券取引所で発表されました。2008年のリーマン・ショック後に資本市場で短期的な利益追求に対する批判が高まったことも相まって、2018年5月時点で世界の1965の機関(資産運用規模約70兆ドル)が署名しています。署名者の数は発足時の100から2020年には3,000 を超えるまでに増加しました。

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ESG投資で動く世界のお金の規模

次に、どのくらいの規模のお金がESG投資に使われているのか調べていきたいと思います。GSIRのレポートによると、世界のESG投資資産の合計金額は2018年初頭、全世界の主要5市場の合計で$30.7trillion(3,000兆円以上)に達しました。2016年からの2年間で34%の増加率です。

参考までに、日本の年間の国家予算は約100兆円なので、ESG投資に関して莫大な金額が動いていることとなります。

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主要都市の中でも過去2年間で年間の投資金額の増加率がもっとも高いのは日本で、下記のグラフが示すように300%以上増加しました。

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さらに、運用資産全体に占めるESG投資の割合を見ると、下記のグラフで示すように、2014年から2018年の間に、ほぼすべての地域で運用資産全体に占めるESG投資の割合は増加しています。

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野村証券のレポートによると、日本では、2014 年の初め頃からESG投資への関心が高まり、その翌年大きな出来事が起きます。 2015年の9月に、世界最大級の機関投資家で年金を管理運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したのです。

GPIFによると、同法人の運用資産額は177兆7,030億円(2020年度)であり、規模が大きいため国内への影響力も強く、国内の機関投資家にとってESG投資が現実的な運用手段として認識されるきっかけとなりました。日本経済新聞社によると、GPIFのESG指数に連動した運用資産は2019年3月末時点で3.5兆円にものぼったそうです。

ちなみに、運用資産残高およそ995兆円(2021年3月時点)で世界最大級の資産運用会社であるBlackRockの分析によると、ESGに重点を置いた投資に関連する指数が、標準的な投資をする時の指数と同等か、それを上回るパフォーマンスを達成し、ボラティリティも同等の水準にとどまることが示されているようです。

大企業のSDGs/ESGへの取組内容

大企業は事業内容によって取り組んでいる内容は違いますが、サステナビリティページやESGデータブックとしてまとめて開示している事が多く見受けられます。興味があれば下記企業のESGページをチェックしてみると、各企業の内容が分かると思います。

■ソフトバンク
ソフトバンクの企業HP内の「企業・IR」タブではSDGs/ESGに関する記載があり、同社の「サステナビリティレポート」ではSDGsの達成に向けて2030年までに同社が取り組む項目の選定方法・KPI設定・実行体制まで示されています。

同社は、「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトの下、下記の画像のように、持続可能な社会の発展に向けて取り組むべき6つのマテリアリティ(重要課題)を特定しています。

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この特定にあたっては、SDGsを根底に、「ステークホルダーが重視する項目」と「事業における重点課題」を洗い出し、双方にとって重要度の高いものを選択しているそうです。 具体的には、自社と外部の評価を双方の重要度や影響度の結果を基に、マッチングとプロットを行い、その結果を下記の図で示す形で「戦略マテリアリティ」「重要マテリアリティ」「管理マテリアリティ」の3層に分類して評価しています。

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下記の図表では、6つのマテリアリティのKPIを明示しています。各KPIに関して2019年度の実績も記載があるため、どの項目がどれだけ目標から乖離しているか明確に知ることが可能です。

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同社は、ESGに関する各種データを記載した「ESGデータブック」も公開しており、E・S・Gの各項目に対しての2020年3月期までの目標と各年度の実績を見ることができます。温室効果ガスの排出量から女性の管理職比率まで詳細な情報を開示しています。

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(参照:ソフトバンクESGデータブック)

■花王
ソフトバンクと同様に、花王もサスティナビリティデータブックを公開しています。(デザインにも力を入れていて、とても読みやすいです。)

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同社は、長年CDP(機関投資家が運営し、ロンドンに本拠地を置く非政府組織)を通じた環境情報開示に参加しており、2020年には、気候変動対策・水セキュリティ対策・森林保全対応(パーム油)の3分野すべてのCDP開示において、最も権威あるA 評価を取得しました。CDP評価対象の数千社のうち、このトリプルA 評価を達成した企業は世界で10社しかないそうです。これは、花王が環境情報開示と環境行動において、日本のみならず世界のリーディングカンパニーの一つであると言っても過言ではないかもしれません。

さらに同社には、ESG推進を加速するためのアドバイザー達が存在し、元Nikeの副社長であるMacCallum Lisaさんもその一人です。その他にも国やバックグラウンドの異なる多様なメンバーが同社のESG推進への議論や助言を行っています。

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ちなみに、直近の大企業に関するニュースとして、ファーストリテイリング社が提供するユニクロシャツの一部が、米国の税関当局によって輸入を差し止められる事件が起きました。これは、中国・新疆ウイグル自治区の団体が関わった衣料品などの輸入を禁止する措置に違反し、人権侵害が取り沙汰されるウイグル問題に関連する懸念があるためでした。

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同社は米当局の決定は「非常に遺憾」とコメントをし、公式サイトでも本件に関する見解を述べています。今年2月には、時価総額が10兆8725億円となり、『ZARA』を展開するスペインのインディテックス社の時価総額を超えて世界一のアパレル会社になった同社にとってこの問題は決して小さな問題ではありません。

本件のように、同社が人権の尊重を蔑ろにしたという印象によって機関投資家から、ESG投資における「S(社会)」の観点を疎かにしていると仮にみなされた場合、ESG投資指標のスコアが下がる、ブランド毀損、不買運動の勃発、最悪の場合は投資の引き上げを行われる可能性もあります。

このような事例一つとっても、ESGの観点を重視した経営を行う事は企業価値を下げない・株価を下げないという「リスク回避」の観点からも非常に重要であるという事を学びました。

さいごに

いかがだったでしょうか?正直このnoteを書く前はSDGs/ESGという言葉自体は知っていても、背景や詳細はほとんど分かりませんでした。なので、恥ずかしながら、地球温暖化などの環境問題が深刻化して、個々人が環境にいい行動を心がけようねというような呼びかけ程度に考えていました。

しかし、例えばスターバックスがプラスチックのカップの全面廃止を行なったり、スーパーやコンビニの袋が全面有料化したりする中で、これは「個々人の活動」以上に「企業単位」の話であると考えが変わりました。さらにSDGs/ESGについてのリサーチを進める中で、そもそも全世界での共通の目標があり、それを達成するためには「人類全体」で行動を起こさないといけないのだという事が分かりました。

今回のリサーチを通じてSDGs/ESGへの理解が深まり、関心も高まったので、世界中の大企業やスタートアップが周辺の問題にどのように取り組んでいくのかを引き続き追っていきたいと思います。次回のnoteでは、海外VCがどのようにSDGs/ESGに取り組んでいるのか、最新スタートアップの動向などについてもう少し詳しく書いていきたいと思います。

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