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独り言多めの感想文シリーズ

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作家読みも甚だしい作者が、見聞きしたものの感想をどくじのしてんでつづるよ。時々きっつい毒をはくよ。マンガも好き。
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記事一覧

3、陰陽師の本質【『陰陽師0』独り言多めの映画感想文】

♯言霊 ♯言葉の起源 ♯仏教 ♯名を呼ぶこと ♯本当の支配者 ♯陰陽師 ♯安倍晴明  言霊を信じるか、と尋ねたとき、信じる信じない以前に「あ、宗教の勧誘ですか?」と身構える感じがある。目に見えるものを信じ、目に見えるものだけを確かなものだとして、じゃあそれが光の加減で「現れた」としたなら。本来「ない」と断言していた「直前の自分」を否定しなければいけないが、ごねて受け入れられない人もいる。こうして「見たいものだけを見る」ひいては「信じたいものだけを信じる」現象が起こる。信じる

2、雅楽家の矜持【『陰陽師0』独り言多めの映画感想文)】

 龍笛に馴染みのない私にその良さが分からないように、「その道」に通じている人にしか分からない思いがある。「あの数式は美しくない」というやつだ。  その人がこだわりを置くもの、看過できないもの。必ずしも好き嫌い関わらずとも、例えば仕事、自分の足元。その人の生き様、輪郭に直結するもの。  高い熱が宿る分、精度は上がる。研磨を重ねて洗練されていく。  それは留まるところを知らない。けれど研磨できるのは両手あってのこと。歌手や声優なら声あってのこと。それをある日突然奪われたとしたら。

1、女王の憂鬱【『陰陽師0』独り言多めの映画感想文】

 女にとって最も旬な時はいつだと思う。  多少個人差はあるものの「大体このくらいの時」そう。処女性、少女から大人に変わる時だ。  どうにも幼顔ベースの日本人だからこその感性に違いないが、だからこそその狭間にどきりとする。「その人」はただいとこの兄を慕う妹なのか、それとも一人の男性として慕う女性なのか。パッと見どちらにもとれ、うまく判別ができない。  作中、よし子女王が(主に寝床にて)肩を露出する場面が出てくる。ちょっと不自然なくらい何度か出てくる。思い出したのは小説『

『陰陽師0』独り言多めの映画感想文

♯ネタバレ ♯厨二心をくすぐる ♯さくらとさくらん ♯人を呪わば穴二つ ♯梅と雷 ♯本当のやさしさ ♯陰陽師0 ♯映画感想文 ・私が期待したのは「『安倍晴明が命ず』という全厨二が歓喜する召喚魔法(もちろん陰陽師なので区分は呪術)」、それに「言葉による使役がため〈言霊〉に基づくやり取り」  双方113分という時間内でバランスよく配合され、かつ平安を生きる貴族たちの華やかな装束が目に麗く、終始満足度の高い作品だった。ちなみに来場者特典でカードキャプターさくらな

「夜明けのすべて」派生、「月経前症候群」一般人Aの見解

「なんか女性専用車両とかレディースデイとか女の人ばっかずるいよな」と旦那がぼやくのを聞いて、わざわざ気にしたことなかったけど、確かに「女性」をキーワードに区分される名称が、男性を除け者にする感はあるなと思った。何をした訳でもないのに強調されることで、圧迫感を覚えることも想像に難くない。こと、旦那が不満を覚えたのは「スイーツ企画、レディースデイ食べ放題」的な案内だった。私より甘党の男は、自分が参加したとして、周りが全員女性だった時のリスクを危惧していた。  映画作中、山添くん

「夜明けのすべて」派生、「パニック障害」一般人Aの見解

 例えば「決まった時間に食事をとる」とか「睡眠時間を確保する」とか「適度に運動する」とか「ストレスを溜めない」とか、やるやらないは別として、未病がためにできることは多々ある。「パニック障害もそんな風に防げたらいいのに」と思う一方、いや、彼女は言われたとしてもやらなかっただろうなとも思う。誕生日プレゼントを禁煙パイポにしようか迷ったと打ち明けた時、彼女は「いらん」と割と本気で迷惑そうに言った。  所詮人も動物だって思うようにしている。  いつだったか「今日も息してた! 100

「夜明けのすべて」派生、「男女間の友情は成立するか」一般人Aの見解

 そもそも友人関係というのは、私の認識上対等であることが前提で、じゃあ対等かどうかは互いに相手が決めること。「俺たちマブダチだよな」と言って肩を組んで来たジャイ⚫︎ンに、仮にスネ⚫︎が「違えよ」と思っていたら成立しない。結果的に離れるから。互いに繋ごうとする意思がない限り、関係は続かない。問いを変える。  じゃあ男女は対等か。  男女平等という言葉を令和になった今でも耳にする。その言葉自体、出るのは「平等じゃない」とした時で、制度如何は避けておくとして、随分時間が経っている

「夜明けのすべて」感想補足、山添くんと藤沢さん

 身の程、自身の輪郭。  私は距離感バグってる側の人間だからよくわかんないけど、たぶん人には互いに心地よいと思える距離があって、自立した警戒心の強い大人程、その半径の値は大きくなる。  映画にて、元々藤沢さんは山添くんの家でお菓子を頬張りながら本を読んでいた。一見「これ付き合ってるってことでいいんだよね?」と、どちらにとっても勘違いが発生しておかしくない状況な訳で、そんな場面で突如「男女の友情は成立すると思う?」と切り出す、それだけで山添くんの人柄が窺える。  自分にとっ

独り言多めの映画感想文『夜明けのすべて』

♯男女間の友情 ♯パニック障害 ♯月経前症候群 ♯松村北斗 ♯距離感 ♯自死を選ぶ時 ♯夜明けのすべて 1、 男女間の友情は成立するか  これは作中にセリフとして出てくる。松村北斗さん演じる山添くんは、自分で発信した問いに自分で答える。 〈──けど、3回に1回くらいなら助けられると思う〉  この距離感お見事!  適度適切絶妙なソーシャルディスタンスパーソナルスペースの確保。  3回に1回って、アレだよガチャとかと同じで、本人にとって一番ワクワクする割合じゃない? 当た

誰もお前の好みなんか聞いてねえよ

【今年のベスト本2023】  今年読んだのは『傲慢と善良』『希望の糸』『まいまいつぶろ』『阿茶』『身代わり忠臣蔵』『カインは言わなかった』『ロウアンドロウ』『花酔い』『書楼弔堂』『百器徒然袋雨』『ちいかわ心理テスト』くらいかなあ(うろ覚え)  他、映画化をきっかけに読み返した『少女は卒業しない』や『正欲』含め、今年は長々感想文したものが多く、それだけ豊作でした。そんな中で、烏滸がましくもマイベスト本を選出。 ✨『阿茶』✨ 「すでに死した夫家康のために自ら汚れ役を買い、後世

【3、絶対に許せない距離なんてなかった(皆元有美)】独り言多めの読書感想文(芦沢央さん『カインは言わなかった』)

「親しくなるほどに男性は近づき、女性は離れる」というのは、YouTubeで垂れ流していた心理学で言っていたもので、だからこそ許せない距離というのがある。前回も少し触れたな。今回取り上げる一文、紹介しよう。 〈『大丈夫だって、この女には指一本触れたことないから』〉  基本的に「仕事だ」と言われれば二の句は継げない。何故なら「仕事だから」。恋人だろうと、それは首を突っ込むなという警告。踏み込んじゃいけない領域。仕事が優秀なのはわかる。けれど仕事以上に男としても優秀だとわかるか

【2.5、続オヒメサマのキゲン(望月澪)】独り言多めの読書感想文(芦沢央さん『カインは言わなかった』)

 表現者として「得る」ために自ら傷つくことを選ぶ自傷、いや事象。澪についてもう一つだけ話をさせてほしい。  元もこもない言い方をすれば、結果的に「バレエより男を選んだ」訳だが、じゃあ澪にとってのバレエとはどれほどのものだったか。〈それを決して許さない彼女のエネルギー〉というやつだ。  そもそも「観る側」として豪と出会ったのは、プレイヤーである以上、純粋に学びのためか、あるいは落選により表舞台に立てなかったためか。その心は大別して「希望」か「失意」。全ての始まり、出会ったとき

【2、オヒメサマのキゲン(望月澪)後編】独り言多めの読書感想文(芦沢央さん『カインは言わなかった』)

 自分にとっての相手と相手にとっての自分。近しければ近しいほど、良好な関係と仮定したとき、果たして豪と澪はどうだったか。ベース男性としての豪は女性に不足しない。豪にとって描くことこそ至上であり、セックスにわざわざ労力を割きたくないのと同列で、彼女、それ以前に異性そのものの優先順位は低い。よってミューズと彼女、この二つは決して相容れず、完全に別腹。  だから描く上で魅了する存在というのは別格なのだ。「わからない」「描ききれたと思えない」特別なヒト。そもそもミューズとは「作品のモ

【2、オヒメサマのキゲン(望月澪)前編】独り言多めの読書感想文(芦沢央さん『カインは言わなかった』)

 表現者として「得る」ために自ら傷つくことを選ぶ自傷、いや事象。  私自身、小説を書く上で、自らが幸せであってはならないと思っていた時期があった。不幸の中にいた方が感性が研ぎ澄まされ、いい作品が生まれやすい感覚があった。  あ、こっから先特に、あくまで個人の感想解釈だからね。だいぶ潜った分曲解してる可能性あるから先に言っとくね。  まずもって「望月って誰」の説明から入る。望月澪。作中、画家の藤谷豪という男が出てくる。カイン主演の藤谷誠と父親違いの兄弟で、フランス人の父親を持