見出し画像

待っててくれたの?


体調を崩した。喉風邪だ。例年のことを考えると、霜月まで保ったこと自体、奇跡に近い。そのくらい私の喉は寒暖差、乾燥に弱い。具体的なアレルギーとしての反応こそなくても、鼻炎症状による鼻腔狭窄も併発すれば、夜間一発KOなのだ。

一昔前までは、喉風邪は「言っちゃいけないことを言いすぎた罰」だと思っていた。今はストレスによるスマホ依存から来る頭痛、そのための鎮痛剤連用による胃へのダメージ。プラス暴飲暴食による胃への過労が祟った結果、これ以上内臓を痛めつけられないように、生体防御反応として起こったのが、分かりやすい喉症状。喉風邪なのだと分かる。前述した乾燥寒暖差どうこうもあるが、こっちが基本ベースだ。

とにもかくにも喉風邪を引いた。この仕事クッソ忙しい時にである。来週から日曜も出勤がかかるような時期にである。襲ったのは漠然とした不安。

「にゃあ」

体調を崩すと不安になる。そんな当たり前のことを、長く健康だと忘れがちだ。事実この半年、体調不良とは無縁だった。カチッと音を立ててハマっているようなスケジュールは融通が利かない。健康健全前提で組まれている。だから一歩つまづくことは、足を踏み外すことと同義で、焦ってもがけばもがくほど日常が遠のく。薬を飲んで布団にくるまると、ガンガン鳴り続ける頭を抱えて無理矢理床につく。動けないがために、ソファでのことだった。





目が覚めると夕日が足元を照らしていた。ふとおかしいと思って顔の向きを変えると、鈴の音がした。

ちりん。

頭痛は引いていた。汗をかいたせいで服は重いが身体は軽い。

ちりん。

枕元。簡易の机の上で動くもの。その場でくるりと旋回。首輪の鈴が身動きするたびに音を立てる。猫の動きはいつだって優雅だ。いつの間にか伸びた四肢。しなやかに揺れる尾。

ちりん。

おかしい。その違和感の正体。平日思うように構ってもらえない君は、休日、ここぞとばかりに甘えに来る。小さいと言っても2キロある身体で私のお腹に飛び乗っては小言をくらっていた、そんな君が来てからというもの「起きて足元の夕日を確認する」ことはなくなっていた。その手前にいる灰色の毛波をキレイだと撫でていたんだ。君は。

「にゃあ」

再びその場に腰を下ろすと、まっすぐこっちを見つめた。じっと動かない。その顔はずいぶん大人びて見えた。

分かったの? 

「にゃあ」


しばらくの間じっとしていた君は、私が台所に向かうと同時に机を飛び降りた。ちりんちりんと音がする。立てた尻尾はいつだってその居場所を教えた。再びソファに戻ると、膝に飛び乗る。くるりと旋回。アンモニャイト。

分かったんだ。分かった上で、元気になるのを待っててくれた。知らない内にこうして大人になっていくんだね。


「大変だ」と旦那さんが作ってくれた今日の晩御飯はおかゆ。

君たちに癒されたから、私はもう大丈夫。


ありがとう。

ねぇ、おかゆ。











この記事が参加している募集

我が家のペット自慢

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?