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獺祭等外が好きという話。

獺祭等外が、好きだ。

立場上、色んなお酒をイベントで扱ったりするので、
特定の銘柄を褒めたり、逆に貶めたりしかねない表現は日頃からとても気をつけている。

のだけれど、まぁ、そろそろ古巣を辞めて長くなるということ、

酒から少しだけ距離をおいた事業を行っていくことになりそう。

ということがあって、少し自由に言葉にしていってみようか。

と、思い始めている。

そんな中で、さて今回、ずっとずっと言葉にしたかったことを書いてみたい。

獺祭等外が、大変好きだという件である。


獺祭等外は、美味しい、あと価格も手頃である。

というのはもちろんなのだけれど、

僕が言葉にしたいのはその点だけでは無い。


僕は元醸造家であり(いずれまた醸造にも戻りたい)、酒類の提供者でもあるけれど、

農家の子である。

僕が酒蔵に勤めたことから、父が酒米農家になって、

その酒米で酒造りをしたという経験がある。


なので、普通の食用米農家が新たに酒米をつくる難しさ、苦労を、僕は傍で見てきた。

特に、山田錦の難しさは、本当に肌身に感じた。

ただでさえ育てるのが難しいというのに、頑張って育てても、二等しかつかず、収益が全く、という年もあった。

なんなら、青や黒が多く二等よりも等外の多い年もあった。

食用米とは全く同じ設備ではうまくいかず、

新たな設備投資が必要にもなった。

山田錦は儲かる、と思われているかもしれないが、
そんなことは決してないことを、傍で見てきて、その苦しさも辛さも見てきた。

なので、今年、遂に父は、山田錦を辞めた。

僕が酒蔵から離れたこともあったかもしれない。

だけれども、その苦労が、遂に実を結ぶことなく、身体に限界を迎えてしまったことが、一番大きかろうと思う。

きっと、心が折れてしまったのだろうと、そう思う。

農家の息子として、元醸造家として、とても切なく、もどかしい哀しさが心を占めた。


ああ、申し訳ない。

僕のそんな哀しさの、自分語りをしたかったのではない。


でも、そんな農家の苦労を間近に見ていて、
だからこそ、獺祭等外は、素晴らしいのだと、思っている。


獺祭等外は、等外米を原料にしている。

等外米というのは、本当に農家としては悔しいのだけれど、

酒蔵としてもとても難しい米だ。


なんでかというと、
等外米は特定名称をつけることができない。

特定名称というと、
純米や、吟醸や、本醸造のことだ。

酒蔵では、どれだけ磨こうと、どれだけ丁寧に醸そうと、
特定名称をつけることが出来ない。

だから、酒蔵では山田錦の等外であったとしても、
普通酒に混ぜたり、焼酎に回したり、そもそも買い取らず、農家はくず米として本当に二束三文で売り払ったりする。
JAなどのルートなら、あわせて等外米として売り払い、米菓等に加工されたりもするけれど。

蔵との直接契約の場合、多くは全量買い取りなので、
酒蔵には扱いに困る米となるけれど、
他の米と共に全量引き受けてくれるのは、とてもありがたい。
等外は安いけれど、まぁ、くず米になるよりは随分とマシだ。

でも、酒蔵でうまく商品化するのは、とても難しい。

たとえば、全量純米酒の蔵では、等外米は扱えない。

"純米"は特定名称にあたるので、

仮に醸造アルコールを一切使わなかったとしても、

普通酒になってしまう。

だから"全量純米酒"の蔵では、等外米は引受けられない。
(もちろん、日本酒以外に使うという手段はある)


だから、獺祭等外は、すごい。


僕は、始めて獺祭等外を飲んだとき、本当に感動した。

等外米で酒を醸したことがあれば分かるのだけれど、

等外は癖がある。

普通の感覚で仕込むと、やはりどこか違う挙動になる。


でも、獺祭等外はちゃんと"獺祭"だった。

すごい、本当にすごいと思った。

醸造家としては悔しさを感じたけれど、農家の息子としてはとても誇らしい気持ちになった。

等外米でも、
こんなにうまく醸せるのだと。

あの、父が等外の方が多くて、肩を落としていた、あの背中に、

そんなに肩を落とさなくても、こんなにうまい酒になるのだ、と言えるのだと、

そんな誇らしい気持ちになった。


だから、獺祭等外はすごい。

だから、獺祭等外が好きだ。

とても応援している。

"等外"という米に、選別機から、酒米の基準から、まさにこぼれ落ちた、その日陰の米に、

獺祭等外は光を当ててくれた。


すごいお酒だ。本当にすごいと思っている。
だって、等外米でこんなにも美味しい。


農家には、勇気を与えてくれると思う。
少なくとも僕は、農家の子として、勇気をもらった。

これはもちろん、特定名称や"純米蔵"が悪いというものではなくて。

特定名称比率は、全国でも少しずつ高まっていて、

それは多くの人に支持されているからこそだ。

それは、本当に素晴らしいことだ。

僕は、本醸も純米も大好きだ。
もちろん、普通酒だって好きだ。


でも、農家の子として、獺祭等外は、特別なお酒だ。

等外米がこぼれ落ちても、立派に存在していてもいいのだ、
誰にも認められない米だと、評価のつかない米だと、決して卑下しなくていいのだ、

だって、こんなにもうまい酒が醸されている。


だから、僕は獺祭等外が好きだ。
とても好きだ。

僕にとって、獺祭等外はとても誇らしい、勇気をくれる、特別なお酒だ。

そんなお酒が、とても好きだという、そんな、話。

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