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生活の場で出会う時


介護施設は生活の場。当たり前のことであるが、それが当たり前のこととされていない現実は確かにある。
お年寄りの日常生活は、画一的な日常業務に当てはめられ、全員一斉のオムツ交換トイレ誘導、決まった時間で決まった物だけの食事、ベルトコンベア式に行われる入浴。およそ生活とは程遠いそれは、介護の世界で連綿と続いてきた歴史となってしまっているようだ。

介護現場は忙しい。その忙しいことを理由に、オムツ交換の早い人が優秀な職員、食事介助は早ければ早いほどいい、一時間で何人入れたか、お年寄りを数で競うお風呂が現場のステータスとなっている。
一人ひとりに構ってられない。そんな声が聞こえる。果たしてそうだろうか。

とあるおばあさんは食後に必ずといっていいほど排便があった。朝食後の忙しい時間帯に限ってとオムツ交換なんて、と嫌がられていたが、それこそまさに生理的な排泄。このおばあさんをきっかけにしよう。
朝食後に排便があるとわかっているのだから、まずは朝食後にトイレに座ってみよう。オムツなのにわざわざトイレでなんて!という声をよそに、トイレに座ってみる。するとそこには大量の排便がみられたのだった。
朝に排便があるとその日一日は大丈夫。おばあさんへのケアにかかる時間は少なくなった。その分余裕ができたと感じた僕らは、ではあの人も大丈夫かな?この人もいけるのかな?あのおばあさんも絶対でるよ!
そこから見事にそのフロアから日中オムツを着けている人はほとんどいなくなり、トイレに座って排泄するという当たり前の生活を手に入れた。
あのおばあさんは険しい顔になってるとトイレだね、あのおじいさんが歩き出した!大きい方がしたいのかも。ただの画一的なオムツ交換という作業から、その人その人に思いを馳せ気にかける、本当のケアができるようになってきた。僕らはそこで、お年寄りと初めて出会ったのかもしれない。

介護現場は忙しい。だからこそ仕事の成果が見えにくいこの世界では早く終わらせることが正解となりがちだ。
その忙しいのは何のためなのだろうか?僕らは何のためにいるのか。お年寄りをただの数で考え、業務についてこれない人は問題老人となる。そんなことをするためにこの仕事を選んだわけではないはずだ。
お年寄りのその人らしい生活を少しでも守り通す。そのために試行錯誤し、お年寄りとともに一喜一憂して、色んな方と本当の意味で出会っていく。そんな忙しい毎日を送りたいものだ。

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