目で音を聞き、耳で香りを嗅ぐ
リアリティからアウラへ
「音が耳に入ってくるのか、耳が音に入ってゆくのか」
「目で音を聞かねば、音など聞こえはしない」
禅問答『無門関』にこうある。
話を捻じ曲げていないか、本当の話が聞けているか。
田原真人さんが主催する『自己組織化フェス』の動画を見せていただいた。どうしても今井陽子さんのセザンヌ論を聞きたかった。
セザンヌは「計画するな構造を作れ」と言う。エフェクチュエーションの「計画するな、デザインしろ」と似ており気になる。
弟子ポール・ガブリエル・フィリポが著した『セザンヌとの対話』にある話だ。
「絵を描くときは、事前に計画を立ててはならない」
「代わりに構造を作り上げながら描くべきだ」
「構造とは、絵の構成要素である色、形、線の組み合わせのこと」
「絵を描くときは、まず構造を作り上げていき、その後に色を塗り、線を引き、形を描く」
「自然を球体と円柱と円錐によって捉えよ」
「この方法で絵を描くと、絵がより自然で、より生き生きとした印象になる」
計画とは極めて危険なものだ。知らぬ間に人を支配し、身動き取れなくする。
友人Aは大手製造業のホワイトカラー。事務所で「ここからここまで、⚪︎秒以内で歩け」と張り紙がされる。心の調子を崩し社会復帰施設に通うが、別の大手企業のホワイトカラーだらけ。
計画に封じ込められた場所に、人の居場所はない。計画には人間味がない。
田原さんから頂いた動画は対談である。東京芸大出身の画家、今井陽子さんと、Sony出身のベンチャー企業社長、阪井祐介さん。
阪井さんが、バルター・ベイヤミンの『複製技術時代の芸術』に言及した。
「ベイヤミンは『リアリティからアウラへ』って言ったんですよ」
「その言葉が刺さりましてね」
アウラとは、
・ラテン語で「微風、香り、光輝」
・精神医学では前兆と訳され、かつててんかんの前ぶれを表した。
・大量生産が可能になった時代でオリジナル作品から失われる、「いま、ここにのみ存在すること」を根拠とするある種の権威。
オーラの語源だという。
「伝わるものは本物だけのはずだ」
「コピー技術が進み、芸術はどうなるか」
ベイヤミンの問題意識はそこにある。
芸術の価値は宗教儀式に由来する。複製品は儀式の本質でなく、見かけばかり重視する。大量に出回る複製品が政治的に使われるようにもなった。
1900年ごろのウジェーヌ・アジェの写真が象徴的だとベイヤミンは言う。荒廃したパリの街を写し、写真が歴史の証言者になってゆく。
扇動的な写真が好まれる。正確なものだろうが不正確なものだろうが構わずに。
かつての芸術は自身の本質を見つめさせた。
複製品は芸術を武器に変え、他者を扇動する。
見かけを重視する商品から、自らを省察する芸術への回帰を促す。それが「リアリティからアウラへ」である。
複製技術で失われたものは、芸術作品のアウラだ。
K方式
私は小さな学習塾を経営させていただいている。成績の悪かった生徒がおり、彼から学んだことを教え方の柱としている。
彼の名前”K君”にちなみ、「K方式」と呼んでいる。
楽しい授業にしようと、K君が問題を解いている際いろいろ話かけていた。
「すみません」
「静かに考えさせて下さい」
K君は受け答えもしっかりとしていたが、塾以外の授業はまったく聞いていなかった。私には生徒に付き合っていただく謎の強みがあり、それにかまけていた。
「うん、分かった」
そう言う。
悪いと思ったら素直に直す。バツが悪いが、学問や知識、生徒への敬意の方が大事だ。なにか空の空間を作るような気持ちでK君の様子を見守った。
驚くべきことに、K君は実にイキイキと問題へ取り組み始めた。一人での勉強は嫌だと思っていたのに。
他の生徒も押し並べて同じである。K方式にすると自由闊達に勉強できる。衝撃的だった。
興味深いことに、K君は勉強には興味がなかったが、私の教え方にはかなり興味を持ってくれていた。彼のバスケの教え方も抜群。まさか塾の柱まで作ってくれるとは思っていなかったけれど。
「それでは、この問題考えてみて下さい」
「K方式でゆきます」
空き地で遊ぶ子供のように、生徒が自由闊達に問題を解く。
私は伝えることとに躍起になり過ぎていた。
アウラとダーザイン
母の作る味噌汁、台所で朝食を作る包丁の音。その瞬間に立ち昇る美しさ。アウラである。アウラは自らを振り返る日常にある。
その日常は、ハイデガーが『存在と時間』で述べる「世界」と似ている。
家族がいる「世界」に現れるのがハイデガーの「現存在(ダーザイン)」。ゆえに、現存在は「世界内存在」とされる。
アウラは現存在と似ている。家族がいる世界に立ち現れるなにか。複製が蔓延する時代にはそんな神や儀式、仲間や村が失われてしまった。ゆえにアウラも現存在も失われた。
アウラを見るアプローチは目的論とはまったく逆となる。
「目的論」「計画」は、獲物を手にいれる武器に例えられる。
アウラは空間を作り、その瞬間を捉えることで湧き出す。自身を振り返る芸術の源泉。
生徒に本当に響くのも、私が夢中になり自身を消すことができたときだ。教示した時ではない。ドラッカーが日本画を愛したのも、絵の余白が彼を正気に戻したからと言われる。
構造は響く。
心を落ち着けて空間を作り、そのままにする。禅の止観を想起させる。
「音が耳に入ってくるのか、耳が音に入ってゆくのか」
「目で音を聞かねば、音など聞こえはしない」
瞬間を捉える構造。
空白を作る。構造を作る。
夢中のリズムを産むのは、空の箱だ。
お読みくださいまして、誠にありがとうございます!
めっちゃ嬉しいです😃
起業家研究所・学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)
下のリンクで拙著の前書きを全文公開させていただきました。
そんなテーマです。是非ぜひお読みくださいませm(_ _)m
どん底からの復活を描いた書籍『逆転人生』。
5名の仲間の分も、下のリンクより少しづつ公開させていただきます。
是非ご覧ください(^○^)
こちらが処女作です。
起業家はトラウマに陥りやすい人種です。トラウマから立ち上がるとき、自らがせねばならない仕事に目覚め、それを種に起業します。
起業論の専門用語でエピファニーと呼ばれるもの。エピファニーの起こし方を、14歳にも分かるよう詳述させて頂きました。
書籍紹介動画ですm(_ _)m
サポートありがとうございます!とっても嬉しいです(^▽^)/