見出し画像

読切小説「南極隊員と噂にならない内緒話」

読切小説「南極隊員と噂にならない内緒話」

南極大陸の調査を始めて、今年で三十八年も経過していた。この極寒の地である調査をしている。その調査とはペンギン達の会話であった。

彼らはこの極寒の中、群れをなして生活していた。ひとつは天敵から子供たちを守るためである。群れの中だと天敵たちも迂闊に手を出せないからだ。

しかし、私がこうして長年調査しているのは、他にも理由があった。彼らの生態系に興味があるのはもちろんだけど、もう一つ私を虜にする興味深いことがあった。

それは、彼らがただ単に群れをなしているのではないのだ!!外敵から身を守ることが大事なことではないと、私は言いたいのである。

長年の調査の結果、彼らは群れをなしているが、実際はヒソヒソと内緒話をしていた。しかも、彼らは内緒話に命をかけている。

要するに、噂話が大好物な生き物だったのだ。

その中でも、面白い発見があった。彼らの噂話は瞬く間に広がってしまうことが調査で分かった。

それはそうだろう。あれだけの数で集まるペンギン達。ほぼお隣さんと密着している。

あれでは内緒話も関係ない。だって、ほとんど筒抜けなんだから。

そんな状況を理解しているのか、私にはわからない。だけど、これだけ長年調査していると、だんだんとペンギン達の会話を理解できるようになっていた。

彼らは非常にわかりやすい。一羽のペンギンが悪口をヒソヒソ話し始める。すると、その隣のペンギンもまた隣のペンギン達も、一斉に内緒話をするのだ。

しかし、ほとんどが筒抜けである。

それが彼らの生態系であり、知られていない真実であった。しかし、この長年の調査で、ある二羽のペンギンについて語ろうと思う。

彼らが、他のペンギン達と少し違っていること。そして、私を驚愕させたこと。彼らも他のペンギン同様に、身を寄せ合って内緒話に夢中だった。

本来なら、隣のペンギン達はこの二羽の内緒話に興味を持つはずだろう。

私もそんな風に思っていた。しかし、実際はどうだろう。彼らの内緒話は決して噂にならないのだ。

私は驚いた。彼ら二羽は内緒話をしているが、他のペンギンに対して悪口を言わないのか?

それとも、他のペンギン達が呆れるぐらいつまらない話をしているのかと。

私はどうしても彼らだけが、噂にならないのか徹底的に調査をした。

そして、遂に真相へと辿り着いた!!

なんと、彼らは私が調査し始めて八年間、ずっと、しりとりをしていたのだ

この八年間、長きに渡って勝負していたのだ。しかも、今だに決着がつかない始末なのである。

いやはや、恐ろしいったらありゃしない。

だから彼らの内緒話は、決して噂にはならないのだった。

〜おわり〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?