葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂け…

葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂ければ幸いです

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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。 気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。 それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がっているという訳だ。 それでも日によって調子が悪い時もあると教えてくれた。尋ねると

    • 第84話「世の中はコインが決めている」

       果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれない。  それはそれで核心に迫れる。  迷った挙句、露子は部屋へ来ることを選んだ。一時間後に到着するということで、僕は待っていると言って電話を切った。  正論くんへ報告しようと思ったが、一人で解決したかったのでやめた。それに露子と縁日かざりが繋がってるのならば、僕の部屋へ来てもらった方が安全かもしれない。  きっ

      • 第83話「世の中はコインが決めている」

         せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。  すると、テーブルの携帯電話が鳴り慌てて洗濯機の前から早足で部屋へ戻った。知らない番号だったけど、もしかしてハナちゃんかもしれない。  そう言えば、彼女と番号交換をしていなかったな。 「はい、もしもし」電話に出ると、数秒ほど間があった。  間違い電話?いや、かけてきた相手の息づかいが微かに聞こえる。どういうわけか話すのを躊躇って

        • 第82話「世の中はコインが決めている」

           こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。  工場が見えたとき、何度目かの深い溜息を零した。出入り口のチェックを受けて工場へ入る。更衣室で着替えを済ませて、持ち場に着くと生産数を目に通した。  チラッと絵馬さんを見たが、他の社員と愉しげに喋っている。  以前の絵馬さんに見られない光景だった。やっぱり、もう以前の鬼の班長と呼ばれていた彼女じゃない。僕と深い関係にな

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        小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

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        • 潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く
          77本
        • 葉桜通信
          6本
        • 読切作品
          23本
        • 琵琶湖の飛び魚と呼ばれた男
          2本
        • 山小屋の階段を降りた先に棲む蟲
          3本
        • 合作小説きっと、天使なのだと思う
          10本

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          第81話「世の中はコインが決めている」

           縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。  すると、急にピタッと泣き止んだ。あれだけ発狂して泣き叫んだ挙句、彼女は澄ました顔で虚ろな目をしている。感情の起伏が激しいとか、そんなんで片付けられない。ただただ恐怖を感じるのだった。 「ふふ、ふふふ、ごめん。ごめんなさい。私の勝手な独りよがりだったよね。そうよ、はじめくんは何も悪くない。悪いのはあの年増の女……」と縁日かざりは虚ろ

          第81話「世の中はコインが決めている」

          第80話「世の中はコインが決めている」

           僕が縁日かざりと出会い、最愛の恋人と別れた思い出。過去を振り返ってみても、縁日かざりという女性は不思議な存在だと思い出す。  物語は現在に戻り、縁日かざりの話を聞いてるところだった。 「私ね、まだ処女なんだよ」と縁日かざりが口許に笑みを浮かべて言う。 「そ、そうなんだ」と僕は真顔で言った。笑わないと約束したので、もちろん表情に出さなかった。 「驚いた?」 「いや、経験のない子は世の中に沢山居るだろう」 「普通は遅いよ。周りの女子は中学で経験するわ。私なんて化石じ

          第80話「世の中はコインが決めている」

          第79話「世の中はコインが決めている」

           理由を知りたいと言った時点で、僕はさっき聞いた話が頭に浮かぶ。廃墟で男女が情事を行なっている。麻呂さんが瞳だけを動かして、知りたいのか解答を待っていた。 「知りたいかな?」と少々マヌケな声で言った。 「……こっちに来て座らない」と麻呂さんがふっくらとした唇を動かして呟いた。  無意識に懐中電灯を消して、僕はベッドへ近寄った。緩やかな風を顔に感じながら、ベッドの上へ座るとギシギシと音が鳴る。  無言で見つめ合う。何が二人をそんな気持ちにさせたのか。ポニーテールの似合う

          第79話「世の中はコインが決めている」

          第78話「世の中はコインが決めている」

           ツンデレの麻呂さん、今はどっちなんだろうか。その辺のところはわからないけど、今夜は良く話してくれた。 「変な噂は聞いてたの。はじめくんは知ってる?」 「変な噂?知らないけど」 「廃墟サークルという隠れた目的のことよ。今日みたいな廃墟に女の子を誘って、良からぬことを考えているの。無理矢理じゃないらしいけど。それでも雰囲気に負けて関係持っちゃうらしいよ」と麻呂さんが眉を寄せながら言う。  そんな噂は聞いたことなかったけど、ホントだったら最低だ。ますます今夜を最後にしてサ

          第78話「世の中はコインが決めている」

          第77話「世の中はコインが決めている」

           火の玉は科学的に立証されていると聞いたことがある。オバケという類ではなく、科学的に火の玉っぽい青白い光が浮遊するらしい。  詳しくは知らないけど、テレビで観たことがあった。 「なんやなんや、面白いことになってきたで!ほな、もっと奥に進もうか!」と倉木先輩が面白半分に言う。 「鳥居、お前怖いんじゃねぇの。怖かったら車で待ってろよ」と神宮寺が笑いながら言う。  そう言ってくる奴ほどビビってる。なんて言わないが、神宮寺の言葉は無視するのだった。  妙なテンションのまま、

          第77話「世の中はコインが決めている」

          第76話「世の中はコインが決めている」

           目的の廃墟に着く前、神宮寺が病棟の話をしてくれた。昭和四十年頃、山間の小さな集落で謎の奇病が流行ったらしい。政府は感染を恐れて、奇病にかかった患者を収容するように山奥へ病棟を建てた。  だが、集落で発生した奇病は収まるどころか、次々と感染者が出た。そのうち、村人全員が感染者となり、世に知れ渡る頃には村人全員が山奥の病棟へ移された。 「当時、その病棟で働いていた医者の証言から世に知れ渡ったらしいぜ。まぁ、よくある話だけど。そのあと、病棟内の患者が次々と亡くなって、やがて世

          第76話「世の中はコインが決めている」

          第75話「世の中はコインが決めている」

           倉木先輩が運転する車は都内を抜けて奥多摩の方向へ走らせていた。車中でも倉木先輩の喋りは止まらない。ファミレスで散々喋っていたのに、やっぱり中心になって話す。内容は前回行った廃墟の話だった。  僕が後部座席の真ん中に座って、その両脇に女子二人が座っていた。左隣の麻呂さんは窓からの景色を眺めながら一言も会話に参加しない。  一方、縁日かざりは初参加ということもあって、色々質問したり倉木先輩の会話に付き合っていた。  たまに僕をいじるように、倉木先輩が話を振ってくる。そんな

          第75話「世の中はコインが決めている」

          第74話「世の中はコインが決めている」

           今思えば何十人居る客の中で、僕がサークル仲間だと知ってること自体がおかしかったんだ。  でも、当時はそんなこと知る由もない。 「隣、座って良いですか?」と女の子はそう言ってきたが、僕の承諾も無しに隣へ座った。  瞬時に思ったことは、普通は隣に座らないだろう。向かい側に座るのが普通である。それでも当時の僕は人間嫌いだったけど、やはり男だったので、女の子が隣に座りゃ悪い気はしなかった。  何故なら、まだ名前は知らないけど、目が大きくて可愛い顔をしている女の子だったからだ

          第74話「世の中はコインが決めている」

          第73話「世の中はコインが決めている」

           今から数年前、大学二年の夏まで物語は遡る。当時、僕はくだらないサークルに無理矢理入らされた。廃墟巡りというサークルで肝試し目的で、夜中に訪れるという馬鹿げた活動だ。  但し、本来の目的である廃墟巡りというのはあくまでも口実だった。この日、昼過ぎに同級生の一人、神宮寺から連絡を受けた。連絡内容はサークルの集まりだった。勿論、僕は速攻で断る。この頃、人間嫌いが加速していた時期で、サークル活動なんて以ての外でもあった。 「お前な、一度でも参加したことあるのかよ。大体、前から思

          第73話「世の中はコインが決めている」

          第72話「世の中はコインが決めている」

           僕が現れることによって、縁日かざりの第一声はなんだろう。そんなことを思いながら彼女と目を合わせた。 「……はじめくんだよね」と縁日かざりは澄ました顔のまま言った。  驚いてる様子はなかった。顔に出さないように意識してるのか、とにかく澄ました顔を維持して、僕の背後を覗くように見た。 「私、部屋を間違えたかしら?」と縁日かざりが表情を変えて言う。  表情を変えたと言っても、目の奥は笑っていない。僕にはそう見えたし、怒りさえも少なからず感じた。薄っすらとおでこに血管が浮い

          第72話「世の中はコインが決めている」

          第71話「世の中はコインが決めている」

           別れ際に正論くんが忠告した。間違っても相手を逆上させるようなことはするなと。相手は生粋のサイコパス。あくまでも罪を認めさせて、警察へ出頭させることが目的。  それが今回の計画なのだ。重要な任務だったので助言を求めたが、正論くんは一言。 「君ならできる。相手を気持ち良くさせれば良い」なんて意味深なことを言うのだった。  こうして僕はスナックをあとにして家路へと急いだ。駅に到着すると、そのままの足で縁日かざりがバイトしているコンビニを覗いた。  だけど、彼女はバイトをし

          第71話「世の中はコインが決めている」

          第70話「世の中はコインが決めている」

           新たな協力者としてハナちゃんが選ばれた。理由はシンプルで、口が固くて楽観的なところが気に入ったらしい。 「君が選んだのなら文句はないけど、狛さんにどこまで話したの?」と僕はチラッと狛さんの方を見た。 「全部話したよ。隠したって意味はないと判断したからね。それに狛さんを危険な目に合わしたくないだろう」 「それは勿論だよ。でも、どうやって守ろうと考えてるの?」と僕が訊くとハナちゃんが声を出した。 「私としばらく住みまーす。期限はないけど、はじめくんと正論くんが無事に解決

          第70話「世の中はコインが決めている」