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読切小説「猫と囲碁〜奇妙な関係〜

読切小説「猫と囲碁〜奇妙な関係〜

「参りました!!」と祖父の声が聞こえた。

縁側で囲碁の勝負をしているのは白髪のおじいさんと灰色の猫。

この奇妙な光景は日常茶飯事である。知らないのは僕だけだった。縁側に集まっているのは数匹の猫と僕。

祖母から連絡があって家を訪ねた。そこで目にした光景がこれである。

祖父と猫が、縁側で囲碁をしているのだ!?

果たして猫は、囲碁を理解しているのだろうか?僕にさえ、囲碁のルールを知らない。大体がこの奇妙な光景をなんとも思わないのか不思議だった。

だから僕は祖父に訊ねたんだ。

「じいちゃん、もしかしてだけど、猫と囲碁をしてるのかい?」

「当たり前じゃろう。お前は将棋にでも見えるのか!!」

「いや、囲碁に見えるよ。ただ猫と勝負してるから驚いてるんだ。ルールは知ってるの?」と僕は祖父と対峙する灰色の猫を指差した。

「お前はこのお方を知らんのか!?。囲碁の世界では有名なお方だぞ。お前なんかより、ずっとずっと雲の上のお方なんだぞ。それをお前は挨拶もせずに」と祖父は僕を叱った。

しかも、マジでだよ!!

祖母から連絡があった時から不安だった。もしかしたら、じいちゃんがボケたかも?って母親から聞いていたんだよな。

これは重症かも!?そんな心配をよそに祖父は猫に向かって、もう一番お願いしますと言うのだった。

こんなことが毎日のように続くらしいと祖母がお茶を出しながら言う。

僕も囲碁盤の中央に座って、観戦することにした。祖父がボケたのか、ほんとうに猫が囲碁を打つのかは知らない

だが、興味本位で見ようと思った。

そして僕は唖然としてしまうのだ!!

先ほども話したが、僕は囲碁のルールを知らない。だから猫が器用に石を持って囲碁をする光景が、にわかに信じられなかった。

でも確かに、猫は囲碁を打ち始めたのだ!!

しかも、祖父の表情から苦戦している様子が伺えた。つまり祖父はほんとうに猫と囲碁の勝負をしていたのだ。

参りました!!

と、僕は祖父から二度目の敗北宣言を聞いてしまった。これは紛れもなく真剣勝負だった。僕の祖父はほんとうに猫と囲碁を勝負していたと言う訳だ。

夕焼けが縁側を染める頃、祖父と猫の囲碁は終了した。

呆気に取られる僕へ、猫は小さな声で鳴いた。勝利宣言なのか、尻尾を垂直に立てながら猫は振り返って去ろうとした。

カチャカチャカチャ!?と奇妙な音を廊下へ響かせる。僕は猫を呼び止めて抱き上げた。

すると、猫の足元からひとつふたつと囲碁の石が落ちてきた。灰色の猫は焦るように鳴き声を出した。僕にはそんなふうに思えたのだ。

そして、猫の脇を持ち上げた。すると肉球を僕の方へ見せる体勢になった。

そのとき、僕は祖父が毎回負ける理由を理解した。囲碁のルールはよく知らないが、相手の石をより多く取ることだったと思う。

そして、猫の肉球の部分に囲碁の石が挟まっていた。

偶然なのか、猫のイカサマなのかは知らないけど、確かにこの猫は囲碁を打つのだった。

灰色の猫は、僕の腕から逃げるように離れると、カチャカチャ音を鳴らしながら立ち去った。

その音を聞いて、祖母が帰ったんだねと呟くのだった。

夕焼けが縁側を美しく染めていた。

〜おわり〜

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