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読切小説「アラーム音から怪物は生まれた」

読切小説「アラーム音から怪物は生まれた」

ゆるりとした日曜日の朝、大音量で泣き叫ぶアラーム音に拳を振り上げる勇気はなかった。

遅刻グセのある僕に、目覚まし時計をプレゼントしてくれたのは彼女。

いつも、デートで待ちぼうけをするのは彼女。

僕はいつだって、彼女の背中ばかり見る役だった。そんな僕に遅刻しないでと、大音量で泣く目覚まし時計をプレゼントしてくれた。

ありふれた目覚まし時計なんだけど、なにか違う雰囲気があった。

なにが違うかと説明するのは難しいと思う。形が変わっているとか、デザインが奇抜とかそんな類じゃないから。

強いと言えば、大音量で泣き叫ぶぐらいだろう。とにかく時間になったら、僕が目覚めるまで泣き叫ぶ。

そりゃ、目覚まし時計なんだから仕方がない。こいつの役目はご主人様を起こすことなんだから。

それ以外は、時間を正確に刻むことに没頭していた。

そんな時計を見るたびに、僕が思っていたこと。僕が部屋に居ない時、彼はひたすら時間を正確に刻むことに没頭する。

無心でただただ時間の流れを刻んでいる。まさに没頭してる。そんな毎日だけど、朝の決まった時間に泣き叫ぶ。

大音量でわんわん泣き叫ぶことに情熱さえ感じた。

そして僕が「待て!!」と言うまで泣き叫んでいる。

つまり泣き止まないんだよ。こいつは。

そんな話しを彼女にしてあげた数日後。僕と彼女は些細な事で大喧嘩をした。それは収集のつかない喧嘩だったと思う。

この際、理由なんて言わないでおこう。人に話せるような内容でもないから。

余りにも聞き分けのない彼女に、僕はいい加減、愛想がついた。

だから、別れようなんて考えたかもしれない。

でもさ、僕はその数日後、彼女に平謝りしたんだ。あの喧嘩はなんてことなかったと。すべての責任は僕にあると素直に謝ったんだ。

もちろん彼女は喜んだし、僕のことがますます好きになったと言い出した。

翌朝、深い眠りだった僕を起こすのは彼だった。大音量で泣き叫ぶ目覚まし時計。でもこの日、彼の泣き叫ぶ声を聞いた時、いつものアラーム音と違っていた。

大音量で泣き叫ぶ声は、彼でもなく数日前に喧嘩して泣き叫んだ彼女の声だった。

僕は止めることもなく、しばらく彼女の泣き叫ぶ声を聞いていた。つまりは本日をもって、僕の目覚まし時計は彼女の泣き叫ぶ声に変わったのだ。

アラーム音を聞くたびに、僕は二度と彼女を泣かすようなことはしないと決めたのだった。

~おわり〜

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