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読切小説「三日月太郎と太陽の約束」

読切小説「三日月太郎と太陽の約束」

気の利いたセリフも言えないの?

怒った口調で女が言ってきた。そんなのは女の演技だとわかってる。いつもそうだ。女は困ったことがあると、悪い癖なのか、女優気取りになって演技をしてしまう。

非常に悪い癖なのだ。癖ってのは、よっぽどの悪治療じゃなければ治ることはない。言うなれば、環境破壊を無理やり人々に強要するようなものだ。

少し例えがおかしいと思った人は、きっと環境について深く考えてる人だろう。私の場合、冷酷な考えと思われるかもしれないが、自分の寿命を考えると環境については何もしていない。

それが私なんだから、軽蔑なんかして欲しくない。だってそうだろう。そこのあなたも、環境について本気で考えているのか?

話しが逸れて来たので、この話しはまたの機会にしよう。今は女の質問について考えなくてはいけない。気の利いたセリフを言えないかって?

そんなの考えてから言うほど、私は落ちぶれていない。気の利いたセリフを言わないのは、君が気の利いたセリフを言う程の女じゃないってことだよ。

「それ、本気で言ってるの?」と女は怪訝な顔して訊いた。

「本気と書いてマジって読むんだよ。高校の時の知り合いが言ってたな。えっ!?ああ、今は関係ないよ。そんなのわかってるけどさ。何となく思い出したんだよ。そう言う事ってあるだろう」と私は半笑いで答えた。

「あなたっていい加減な男よね。そんなんだから、色んな女から捨てられるのよ」

「君はどっち?あっ、これも気の利いたセリフじゃないかな」と私は余裕ある態度で言葉を返した。

「もう、私は別に」と急に女は表情を変えて、私の肩にもたれかかった。

女が私と別れたいと思った時、その女はすでに目の前から消えている。だからこそ、私はこう言った強気な発言が出来るってもんだ。

これまで何度も女に捨てられては、私は他の女と出会う。それが宿命なのかわからないけど、ベッドの上でフラれたことはなかった。

今の今まで。そんな人生なんだろう。結局のところ。だから、今の女からフラれる時は、きっとランチを食べ終わった後か、ディナーを食べ終わった時ぐらいだろう。

最後ぐらい、一緒に食事でもしてやるかと。それが女の約束事なのかって?

そんなわけないだろう。約束事は約束事で、私だって相手の目を見て決めることだってあるさ。

だけど、ディナーを食べ終わった時の別れは一味違うんだよな。一種の毒素みたいな意味合いが込められているんだ。

例えば、太陽の約束。私ならそんな風に考えるんだ。太陽と約束をしようものなら、それはとてつもない約束事だと思うよ。

彼らは数時間後に、必ず目の前から消えるだろう。まあ、科学的に考えたらこの例え話はつまらなくなってしまうので、そこは深く考えて欲しくないけど。

地球が太陽の周りを自転しているからとか。そんな答えは求めていない。女が別れを切り出すディナーの話しを言っているんだ。私たち男は所詮、女の周りをぐるぐる回っては別れて離れてしまう。

そのタイミングは女の主導権であり、ディナーを食べ終わった時、別れを切り出すことになる。

だから、ベッドの上で打ち明けられることはない。私はそんな風に考えては、女に溺れて恋をしている。

「ねぇ、明日はどうする?」と女が甘ったるい声で言う。

「明日も会いたくなった?」

「そうね、明日は久しぶりに外でディナーでもしない?」

私は女の言葉を耳元に聞いた瞬間、太陽の約束だと思った。

それはどうすることも出来ない別れの予感なんだろう。心の中で思いながらも、私は頷くことしかできなかった。

~おわり~

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