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読切小説「真夜中の雨音」

読切小説「真夜中の雨音」

真夜中過ぎに雨の音が聞こえた。浅い眠りだったのか、リズミカルに出窓を叩く雨音に僕は目覚めた。

それでも瞼は閉じたまま、しばらく雨音に耳を澄ませた。ポタポタピチャピチャと雨音は独特なタイミングで音を刻んでいる。

昨日の夜も、同じ時間帯に聞こえていた。

手元の時計を見ると、やっぱり真夜中の二時過ぎだった。朝には道路は乾いていたけど、出窓の周りだけは墨汁を和紙に落としたように濡れていた。

つまりは確実に雨は降っていると言う訳だ。それでも妙に感じたのは、ここ一週間の天気予報は晴天が続いていた。

雨が降る気配はまったくない。

だけど、出窓の周りだけは濡れてい
た。そんなこともあったので、今夜は瞼を開けた。薄暗い部屋で寝ているのは僕だけだ。隣の部屋は妹が寝ていた。

僕はこの妙な雨音を、妹に話していた。

だから起こしに行こうかと考えたけど、きっと怒るのでやめといた。

「仕方が無いなぁ」と一人呟いて、ベッドから起き出すと、出窓の方を見た。

窓ガラスに水滴らしきものが張り付いては流れ落ちていた。ポタポタピチャピチャと雨音は相変わらず続いている。

僕はベッドから立ち上がって、ベランダの方へと歩いて、カーテンを開けた。冬の夜空に澄んだ空気が静かに広がっていた。

雲一つない夜空に、まばらとなって星が光っている。

ポタポタピチャピチャと雨音は相変わらず耳に聞こえる。でも、ベランダから見える夜空は静かに漂っていた。

「雨なんて降ってないよな」と夜空へ聞こえるように呟いた。

僕は気になって、隣の部屋で寝ている妹を起こしに行った。

こうなったら、確かめなきゃと思い立ったのだ。それでも妙な胸騒ぎを感じていたので、用心棒とまではならないが、一様、妹を連れて外へと繰り出そうと考えた。

妹のことだから怒るとわかっていたけど、真夜中に一人で確認するのも正直怖い。

だから、妹の部屋を軽くノックしてそっと開けてから寝ているベッドを覗いた。

妹の姿はなかった!?

掛け布団が、ベッドから垂れ幕みたいに落ちかけていた。ひょっとしてトイレにでも行っているのかもしれない。

僕は部屋に入って、落ちかけた掛け布団を戻してあげると、姿のない妹を待ってみた。

すると、こんな真冬に窓が開いている。風に吹かれてカーテンがユラユラと揺れていた。

まったくあいつは馬鹿なのか!?

こんな寒い夜に、窓を開けっ放しにするなんて信じられないな!!

そう思った瞬間、カーテンの向こう側に黒い影が見えた!!僕は一瞬、声を出しそうになった。けど、窓の淵から逆さにぶら下がる黒い影を見て驚愕した。

何故なら、その黒い影の正体は妹だったからだ。寝間着姿のままで、妹はコウモリみたいに逆さにぶら下がって、僕をジッと見つめていた。

そして、逆さまの状態から身を翻して、部屋に入って来たのだった!!

口から大量のヨダレを垂れ流して、僕から目を逸らさなかった。

そんな妹を見て、僕は三日前の出来事を思い出していた。妹は言っていたんだ。最近太り始めたからダイエットをすると宣言していた。

でも、この三日間、夜になるとお腹が減ったと呻いていた。きっと無理なダイエットだったんだろう。

だから妹は食べ物を求めて、真夜中になると、僕を食べようと出窓から見ていたんだ。

大量のヨダレを垂れ流しながら……

ポタポタ……ピチャピチャ……

何も、そんなになるまでダイエットしなくても。目の前でヨダレを流す妹を見つめては思うのだった。

~おわり〜

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