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4.結果 4-2. 個別報告書結果

3種類の建築物についての個別報告書を調査しました。
茨城県旧矢中邸については現地を見学してきました。

4-2-1.群馬県中島知久平邸 
『群馬県中島知久平邸調査報告書・整備工事報告書』(群馬県太田市教育委員会、2015)
群馬県太田市では、文化財建造物を保存し活用していくために、中島知久平邸の調査および整備工事を進め、2014(平成26)6月に「太田市中島知久平邸地区交流センター」をオープンしている。本報告書は、その調査結果と工事概要の報告書である。
調査報告書にある室内装飾織物についての記載は次のとおりである。第2章の調査項目の(1)破損調査(1)-1各建造物の破損状況に2箇所の記載である(同、37-41)。

広間及廊下の北側の布張りは全体に張りが失われ、また、布地が劣化して敗れ、下地を現す箇所も見られる。

廊下小壁の布張りは全体に張りが失われ、また、布地が劣化して敗れ、下地を現す箇所も見られる。

第2章の調査項目の(1)破損調査(1)-2調査結果に2箇所の記載がある(同、61)

広間、応接間1、応接間2、南廊下の壁面は織物壁紙仕上げとなる。南廊下の一部の腰壁が近年類似した意匠をもつ壁紙に張替えられた他は当初の仕様が残る。

壁装材にはシルクの裂地が仕様されている。柄部分と地模様では織り方を変えており、複数の意匠糸を用いる。当初の図柄は3種類ある。

広間は中島家の家紋である藤をあしらったデザイン、応接間1と応接間2は植物文様の図柄があしらわれ、ソファの張地と揃えている。また、応接間東廊下は菱形を基調とした図柄である。3種はいずれもジャガード織である。これら詳細仕様については川島織物(株)の協力を得て規格調査を行っている。広間の織物壁紙の規格は、種別がジャガード、縦密度が70本/寸、緯密度が280本/10cm、縦糸がレーヨン300デニール×2本、緯糸がレーヨン300デニール×2本とある。応接間1の織物壁紙の規格は、種別がジャガード、縦密度が220本/寸、緯密度が276本/10cm、縦糸が12mm、緯糸が箔糸レーヨン600デニール、絹21中25本片撚り×2本とある。南廊下の織物壁紙の規格は、種別がジャガード、縦密度が300本/寸、緯密度が280本/10cm、縦糸が絹21中2本諸撚り羽二重、緯糸が絹21中8本片撚りとある(同、61)。

4-2-2.茨城県旧矢中邸
『近代和風建築「旧矢中龍次郎邸」の文化財的価値の評価』(松浦、2008)
旧矢中邸は1965(昭和40)年に矢中龍次郎が死去して以来ほぼ40年間空き家状態であった。2008(平成20)年に旧矢中邸の所有者が変更となることを契機に、地域において旧矢中邸を文化財として再評価し保存活用する機運が高まった。本報告書は、現在保存活動に関わる「NPO法人矢中の杜の守り人」代表の井上(旧姓松浦)が旧矢中邸の文化財的価値を評価するためにまとめた建築的特徴を中心とした報告書である。
 報告書の別館の内部形式および意匠の2階応接間の項の中で、室内装飾織物について「応接間の室内側の面は、洋風模様の西陣織張りとなっている」という記載がある(同、75)。
茨城県近代和風建築調査報告書では室内装飾織物についての記載は無かったが、本報告書からは室内装飾織物の記載を確認した。さらに現地を見学したところ、別館2階の襖に金地洋風草花文の絹織物があり、その他にも、本館1階の書斎の襖には葛布地に雪花文を染めた織物、別館2階の応接間の収納扉に鶯地花菱小葵と菊唐草文の絹織物、書院の地袋・天袋の小襖に緑地に丁子唐花文の絹織物が使用されていることを確認した。鶯地花菱小葵と菊唐草文の絹織物と緑地に丁子唐花文の絹織物は、室内に飾られている日本画の表装にも同じ裂を使用している。

4-2-3.山口県毛利邸本館
『公爵毛利家防府邸新築竣成報告書』(柴原、2013)
旧毛利家本邸は、旧長州(山口)藩主として華族の最高位である公爵に任じられた毛利家の本邸として1916(大正5)年に完成した。公爵毛利家防府邸新築竣成報告書は「重要文化財 旧毛利家本邸」建築当初の姿を理解するために、公益財団法人毛利報公会(毛利博物館)所蔵の同書を翻刻収録したものであるという。旧毛利家本邸完成時における、設計者原竹三郎による建物の概要・使用材料・建築仕様などを毛利家に対して報告した報告書である。2011(平成23)年に本邸が重要文化財指定を受けるにあたり、本書も同時に重要文化財に指定されているという。
報告書の中の、各建物木材品質及加工方法と建具構造及仕様材料の項目にて、室内装飾織物についての記載がある。各建物木材品質及加工方法の項目では、床脇小襖の上張として「絵絹裏箔打」、床脇地袋小襖に「厚板」とある。建具構造及仕様材料の項目では、食事の間と次の間の襖の上張りには「芭蕉布新散シ」、客室の襖上張りは「芭蕉布へ式紙形入」、女中詰所襖の上張は「紙布へ形」とある(同、20-23)。
山口県近代和風建築調査報告書では、写真室の天井と食事ノ間の襖、奥内客室に室内装飾織物が使用されている記載があったが、本報告書ではさらに床脇の小襖にも使用されていることがわかった。

4-2-4.まとめ
中島知久平邸(1931年建築)は軍需産業の中島飛行機製作所の創設者である中島知久平、旧矢中邸(1949年建築)はセメント研究者であり(株)マノールの創業者である矢中龍次郎、旧毛利家本邸(1916年建築)は旧萩藩主公爵毛利家により建てられた、近代における和風大邸宅で贅を尽くした室内装飾となっている。織物は、襖、地袋・天袋の小襖、扉、壁に使用されている。使用されている織物は、中島知久平邸では、絹およびレーヨンのジャガード織で藤をあしらった文様、植物文様、菱形文様等である。旧矢中邸では、葛布地に雪花文を染めた織物、金地洋風草花文の絹織物、鶯地花菱小葵と菊唐草文の絹織物、緑地に丁子唐花文の絹織物である。旧毛利家本邸では「絵絹裏箔打」、「厚板」、「芭蕉布新散シ」、「芭蕉布へ式紙形」、「紙布へ形」が使われている。「絵絹裏箔打」は画布のため除く。3例の室内装飾織物使用箇所・織物特徴は、表3のとおりである。

表3_室内装飾織物使用箇所・織物特徴


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